「私ね、別れようと思っているの」
「へぇ」
相槌を打つ以外の選択肢を選べずに、サイファーは珈琲を啜った。
ティンバーのレジスタンス御用達という、隠れ家のようなカフェ。各座席は半個室であり、其々に外界と音が聞こえづらい店内で、ひっそりと零された言葉。
どこか決意を固めた女の瞳に、ありし日の出会いを思い出す。
誰に何を言われても、本気なのだと。
本気で、この活動をしているのだと、叫ぶような瞳の女の顔を。
自らの思いの為、ティンバーの為に戦うと定めた美しい女を。
だからこそ、サイファーは助力すると決めた程に、ティンバーの独立を本気で夢見て戦う女がそこにいる。
「私が魔女になってしまった事は、関係ないの」
沈黙で返すサイファーの視線に、それでも彼女は微笑んだ。
「スコールはSeeDだもん。かっこいい傭兵で、お金で雇える戦力で、……今の私からすると遠い人」
貧乏なレジスタンスの、手が届かない存在になった彼氏。
もし英雄が手を貸してしまったら、その瞬間に森のフクロウは終わるだろう。
そして、バラムガーデンも終わる。
対価なく、私欲のままに振るわれる〝世界を滅ぼせる力〟など、恐怖以外の何物でもない。
ましてやそれが、弱小であり国としてもボロボロな、ティンバーの為に振るわれた瞬間。
どうしてティンバーだけと、叫ぶ国々が出てきてしまう。
――――そして何よりも。
「魔女の私は〝彼女がいない〟事が分かるけど。それ以外の皆には分からない」
どこか暗い顔で俯く女に、サイファーがかける言葉はない。
「……そうだな」
目の前にいる、現代の魔女の今の思いを汲み取れるとしたら、壊れた魔女の騎士である自分しかいないだろうとも、サイファーは思う。
現在の国際情勢は、バラムガーデンにとって厳しい。
ガルバディアが苦肉の末に叫んだ言葉が、じわじわと世界各地に広がっている。
――――生まれていない女の死を、誰が証明する?
アルティミシアが死んだことを、誰が証明するのだ。
証明できる者達は、伝説の英雄と、その仲間たちしかいない。
その中の一人が魔女である事実。その魔女は良き魔女であると訴えたとして。
現状の世界情勢で、どれだけの人間がそれに納得するのか。
ましてや、魔女が属するのはレジスタンス。国家に反逆する者達の一人。
その結びつきが表に出れば出る程、疑心暗鬼は強くなる。
――――〝未来の魔女〟を、匿っているのではないか?
一度、くすぶった火は止められない。
それを撤回しようとするならば、それを凌駕するだけの何かがいる。
「ねぇ、サイファー」
「…………」
その言葉を止めるべきだ。それを理解している。
理解していて、サイファーは目を閉じた。
「スコールと別れる、私と付き合って」
――――地獄まで、と耳元で囁かれた言葉に、手を取り忠誠を誓う。

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