❖ 高難易度ミッションの顛末は - 4/5

 

誰にも言葉を交わされることなく、スコールは意気揚々と寮の自室まで辿り着いて、鍵を開ける。
そっと開いた扉の向こう側。
真っ暗闇の部屋の中、しずしずと足を進めていく。
書類仕事で疲れてはいるが、気分はとても良かった。
呼吸を静かに、気配は残して、足音を消す。
足を向けるのは、自室だ。そこで静かにルームウェアに着替えて、身軽になる。
再び、共用エリアを通って、もう一つの部屋に。
静かに扉を開いて、そっと耳に聞こえる寝息に耳を澄ませる。
幾度も幾度も重ねた光景だ。
〝あの日〟からの、ちょっとしたスコールの楽しみ。
……サイファーにとっては、楽しくはないだろうけど。
静かに寝台へと近寄る。
布団をそっと捲って、ごそごそと布団の中に侵入する。
「……ん」
体を潜り込ませる間に、こちらを向いていた尻を揉んでみた。
小さな声が聞こえたが、起きないことに、にやにやと自然と出てくる笑みが止められない。
そのまま、指で、手で、そっと体を辿る。
形のいい尻を確かめるように触れて、美しく反っている背中を辿り、肉付きのいい肩甲骨に触れて。
順調に潜り込んだ体で、サイファーを抱きしめる。
まだ相手は眠っている。
その事が、ここ数か月の間に、スコールが個人的に実践してきた行動成果が出ていて、本当に嬉しい。
腕を前に回して、形のいい胸筋をゆっくりと揉む。
「ふっ」
ぴくり、と反応して、両足を微かに擦らせる仕草が、普通にエロい。
耐えられなくて、はぁ、と吐息を零して、そっとその項を食んだ。

――――その瞬間に、勢いよく腕の中の体が動く。

自分を拘束する腕を振り払い、こちらを迎撃するように、瞬間的にサイファーの体が跳ねる。
無意識に動くサイファーの動きは、だいたい把握している。
こちらの首に向かって動いてくる腕を取り、逆に接近する。こちらの動きを止めるべく、圧し掛かってくる行動を阻害するために、正面から抱きしめた。
薄っすらと開いた瞳に理性はなく、ただ無機質に敵に対応する本能と、熱のない戦士の眼差しがそこにある。
その瞳の色が、普段見る事ができない感情なき瞳が、ぞくぞくするほど好きだ。
たまらなくなって、サイファーの口を、口で塞ぐ。
微かに乾いている舌を絡め取って、きゅぅっと吸い付いてみる。
びくんっと抱きしめた体が、震えてくれた。
「ん、ぅ、…んぅ」
「んっ、んちゅ……ん」
「んふっ、ん、んぅ!」
舌を吸って、サイファーの口の中を満喫していると、強い力で両肩を掴まれた。
ん、ん、と抗議するように唸る声さえ飲み込むように、口づけをさらに深くする。
スコールが覗き込めば、距離が近すぎてぼやけた視線の先。サイファーの瞳はしっかりと、理性の光を宿していた。
それでもスコールは、行為をやめなかった。
「ふ、ぁっ」
「ん、……はっ」
唾液を飲み干せない程の、激しい口づけ。存分にサイファーの味を堪能して、スコールがやっと口を離す。
口元を手で拭いながらスコールが視線を向ければ、ぜぇぜぇとサイファーが呼吸を荒げて、こちらを睨みつけていた。
だらだらと零れている唾液を袖で拭い、はふはふと呼吸を整えるサイファーの姿に、スコールは舌なめずりをしてしまう。
「サイファー、起きたのか」
「……起きるようなこと、したのは、てめぇだろ」
唇を噛みしめて、鋭い眼光で睨みつけてくるサイファーに、それでもスコールは笑ってしまう。
「あんたを誘いたくなって」
「……この、エロガキ」
「なんとでも」
サイファーの首元に、スコールが口づける。半分覚悟していたが、振り払われることはなかった。
「なぁ、ダメか?」
下から覗き込むようにすれば、サイファーの瞳がゆっくりと瞬きをする。
美しく輝く、宝石みたいな碧色の瞳。スコール自身が見慣れた、意志の強い好きな目だ。
その瞳が、ゆるゆると優しい色を宿して。

 

「いやだ」
「なんで」

 

即座に飛んできた否定の言葉に、スコールは普通に腹が立った。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

スコールが最近、自分に俗にいう夜這いをすることにハマった事を、サイファーは把握していた。
サイファー自身に自覚はないが、よく風神や雷神が言っていた。
眠っている時のサイファーに触れようとすると、迎撃されてしまうと。
別にそれで二人と、仲が悪くなったことはない。
風神と雷神も、孤児育ちだ。ガーデンに辿り着くまでに、様々な経験をした子供は多い。
サイファーの眠っている時の癖も、そういう事例の一つだと、すんなり理解してくれた。
その後の生活でも、サイファーの睡眠時の癖が大々的に判明することはなかった。
風神と雷神が知ってしまったのも、ティンバーで遊んでいた時の、うたた寝が原因だった。
それ以外の事例は、幸か不幸か存在しなかった。
そもそも基本的な話として、泣く子も黙るような風紀委員長サイファー・アルマシーの寝込みを襲う、そんな命知らずがバラムガーデンにいなかったので。
だから、スコールがサイファーを襲ってくることは、予想外だった。
本人としては、襲ったつもりはなかっただろう。
本当に疲れていて、顔を見るために覗き込みに来ただけだと、サイファーも理解している。
ただその時の対応として、負けず嫌いに火がついてしまったのは、予想外だった。

 

――――あの時から、数か月。

 

早く自分の寝台で寝ろと、スコールを自室から蹴り出して。
今度の休日に覚えていろよと、ぷんすこ怒っていたスコールを思い出しながら、サイファーは自室の扉を閉める。
しばしの沈黙。
一呼吸。
二呼吸。
三回目の呼吸をせず、そっと溜息をつく。
「…………あぶねぇ」
それはスコールには決して見せない、サイファーの表情。
目尻を赤く染めて、羞恥心からか頬も高揚している。片手で口元を覆い、普段は冷徹なまでに冷静な目尻は、とろりと下がってしまっている。
「…………あぶ、ねぇ」
恥ずかしいという事を、全身で表現してしまう。それを自分で止められない。
真っ赤に染まった顔を自覚するという失態の中で、サイファーは深々と溜息をつき、二度目の言葉を放つ。
夜這いの回数を重ねられるうちに、サイファーの肉体は、スコールに馴染み始めていた。
最初の頃は、それこそ布団に手がかかれば、跳ね起きていた。
スコールが自分の体の下にいる状況で、目を覚ますことも多かった。
それが。
今となっては。
……起きれねぇ。
布団の中に、いつの間にかスコールがいる。
おそらく無意識に迎撃をしている自分の体を、嬉しそうにスコールが受け止めている。
今日のように。恋人の誘いとして、口づけを堪能されている事もある。
認めたくはない。
認めたくはないが。
サイファーは無意識下で、スコールの気配に慣れてきている。
傍にスコールの気配があることを、サイファーの本能が無意識に認めている。
つまり。

スコールの気配で、どんどん起きれなくなってきた。

隣にスコールがいることが、当たり前すぎて。
起きる必要のない相手だと、サイファーの身体が、戦士の本能が認めてしまっている。
今はまだ大丈夫。
今日だって、起きる事が出来た。
けれど、意識していても。
いや違う。
意識をしてしまっているからこそ。
ただでさえ馴染深く、敵ではないと知ってしまったスコールの、その落ち着く気配を。
認めたくはないが、その安心感を。
何よりもサイファーの身体が、学び始めている。
「……まだ、だ」
まだ大丈夫だ。
まだ、起き上がれる。
その実感を噛み締めて、頭を振る。
ふつふつと湧き上がる羞恥心と安堵が混じる、熱の籠った吐息を零して、サイファーは布団を被った。

 

スコール・レオンハートが、眠ったままのサイファーを夜這いする。
恋人の悪戯心から始まった本懐を遂げる日は、そう遠くないかもしれない。

 

次の休日の顛末は、二人だけが知っている。

 

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