❖ 高難易度ミッションの顛末は - 3/5

 

サイファーは、自分にとって〝戦うこと〟が天職であり、ライフワークだと自覚している。
モンスターと生存領域を賭けた戦いは、自らの本能を刺激して、ギリギリの死線を踊るのも好きだ。
SeeDを目指した者として、口から出すことはない。
しかし傭兵業の中でも代理戦争の兵としていくのは、好きではない。裏側が透けて見えるだけ、やる気が萎える。
ただ、歴戦の兵士と戦うのは好きだ。
戦場で命のやり取りを、己の技量を賭けて競いあうのは、心地いい。
その結果、自分が死んだとしても後悔はなく、相手を殺しても〝生存競争に相手が負けた〟だけだと自然と思える。

肌がぞわぞわとささくれ立つような、命と命が激突する、生存競争としての戦いが好きだ。

だからサイファーにとって、バラムガーデンの訓練施設は、試運転の場として気楽に行けるスポットだ。
本番前の文字通り〝訓練〟するための施設。
その施設の中で、わーきゃー悲鳴を叫んでいる者達を、サイファーは理解できない。
〝外の存在〟は訓練施設よりも、生存本能が強く、生きるために何でもする。
だから訓練施設でできたから大丈夫だという者達ほど、いざ実戦で致命的にコケることを知っている。
知ってはいるが、それだけだ。
なのに指揮官室に配属されてから、率先して入れられる任務の一つ。

 

――――それが、サイファーは一番嫌いだ。

 

「…………はぁ」
「ぁ、……っ!」
深々と溜息をつきながら、ハイペリオン振るう。
べったり刃についていた血が、漆黒の殺意から弾け飛び、地面に飛沫となってバラ撒かれる。
近くから遠くから。
モンスターと激突する戦士の声。剣戟が、銃声が、数多の武器が振るわれ叫ぶ音がする。
だるそうにサイファーが視線を向けた先で、ウェンディゴが真っ二つに裂けて、地面に崩れていく。

――――ティンバーのロスフォールの森。

SeeD候補生に成りたての生徒。そして、ガーデン入学後に初めて実践授業に出た生徒。
バトルの力量に、まだ不安のある生徒たちを引き連れて、引率SeeDが実習先として選んだ地がここだ。
バラムガーデンの本拠地である、バラムから距離がさほど離れておらず、交通の便も悪くない。
また、何か異常事態がある際には、ガルバディアガーデンに救援を願える距離感。
オーベール湖という、近隣モンスターにとって便利で豊富な水源もあることから、粘り強くそこそこ強いモンスターが生存している。
森林に生息しているだけあり、姿を隠したり、擬態したり、それさえモノともしない屈強なモンスターが多い。
バリエーション豊かな生息地は、実戦初心者にはそこそこの難易度だ。
「おい」
「は、はい」
サイファーは、SeeDではない。
SeeDになるつもりなど、さらさらにない。
けれど、なぜかSeeD運営を担う〝指揮官室〟に配属され、スコールの直属配下として働いている。
既に新たな新入生にSeeDだと勘違いされる有様だが、それでもサイファーはSeeDではない。

SeeDでは、ないのに。

「ケアルは?」
「えっ、……あ、えっと、……え?」
「はぁ、……ケアルのストック。ねぇのか?」
「…ぁ、な、ないです」
「……演算でケアルを編めるか?」
「すみません。まだ、できないです」
「あー」
がりがりと頭を掻いて、深々と溜息をつくサイファーに、びくびくと怪我をした生徒が答えていく。
こういう時に、面倒だとサイファーは思う。
対外評価をサイファーは気にしていない。恐れられ嫌われようと、気にしない。
自分の縄張りにいる者達が、自分を好きだと言ってくれることは嬉しいが、そうではなくても問題はない。
しかしながら、このまま無視を決めれば、自らの管理者ともいえるスコールに色々と不都合が生まれる。
現状において、それは避けるべきことだ。
なぜならスコールに不都合が生まれるという事は、スコールのさらに上役であるシドとイデアに面倒が来るという事で。
……それは嫌だ。
「仕方ねぇな」
周囲の気配を探る。
モンスターの気配はない。
ならば、と意識を軽く、一段深く沈めていく。
G.F.のジャンクションを嫌っていたサイファーにとって、重要な事はガーデン教師が口酸っぱく言っていた、〝ドロー速度の強化とストック魔法の熟練度〟ではなかった。

欲したのは、使用理論を元に一から脳の演算で構築する、〝演算式の疑似魔法〟を素早く展開する術だ。

参考資料を読み、
独学で使用理論を分解し、
自らが使いやすいように一部を改変して。
それを幾度も幾度も使い込み、即座に展開できる程に、自らに落とし込んだ。
ガーデン教師が、サイファーが〝G.F.をジャンクションしていない〟と一見して分からないほどに。
サイファーが繰り出す、対多数一掃戦技の〝雑魚散らし〟はその集大成であり、全ての基盤だ。
「え……?」
だから多くが、サイファーが疑似魔法を展開すると、二度見してくる。
ストック魔法とは違うアクションで、疑似魔法を展開してくるからだ。
今も怪我が治った箇所を見ながら、生徒は傷とサイファーへ視線を交互に送っている。
大変に失礼だと思いつつ、面倒が減ったと鼻を鳴らす。
「周囲にモンスターの気配はねぇが、グレンデルの目撃情報がある」
「あ、はっ……はい!」
「注意して合流地点に行け。あとポーション持参してねぇなら、ケアルのストック忘れんな」
「はい!ありがとうございますっ!!」
深々と礼をしてから、大慌てで走っていく生徒を見送り、サイファーはハイペリオンを担ぐ。
「なんで俺様が、こんなこと」
SeeDではないのに、どうして。
何故に引率SeeDに交じって、新米の実習に付き合わなければならないのか。
数多くの不満を飲み込んで、サイファーはふらりと一人、ロスフォールの森を歩いていく。
いつだって、サイファーは遊撃の役割を充てられる。
該当エリアを気ままに散歩して、はぐれた生徒を助けたり、モンスターを狩ったり。
チームで動かないだけ、足手まといがいないだけ、一人は気楽でいい。
そして命令も、生徒の擁護・保護・モンスターの討伐とシンプルでいい。
だとしても。
やはりSeeDではない自分が行うべきことではないと、サイファーは常々思っている。
「……なぁ、お前もそう思わねぇか?」
「―――――!!!」
森林からぬぼっと出てきた、オチューが触手を動かし、大きな口を開けて荒ぶる。
語りかけた所で、答えなどないとわかっている。
分かっていて、サイファーは気安く話しかけて、ハイペリオンを構えた。

その顔に、美しい戦場の笑みを浮かべて。
その瞳に、戦場に飢えた獣を宿して。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

『あれは、頭がおかしい』
それはスコールが、ガーデン教師から聞いたことのある言葉だった。
まだSeeD候補生であり、SeeDの実技試験に赴くこともできなかった頃。
廊下で話す、複数のガーデン教師の言葉を、聞いてしまったことがある。
幾度目かのSeeD実技試験において、戦場の混乱から、ひどい混戦になった事があった。
サイファーも受験生として赴いたが、命令違反のために失格した。
しかし、命令違反だとしても合格させるべきという声が一部から上がり、その是非が問われる異例の事態になっていた。
その議論の的になったのは、命令違反をしたサイファーの班だけが、〝全員無傷で生存した〟という事実だ。
別に逃げたわけではなく、むしろ戦場の混乱に立ち向かい、多くの味方の撤退を後押しした行動だった。
結局、命令違反は責任重大だとして、当時のガーデン教師。……今思えば、金を稼げるイエスマンを欲したマスター派にとって、SeeDに合格はしなかったが。
『あれは、頭がおかしい』
SeeD指揮官という、咄嗟に作られたにしては整備が整いつつある役職に座ったスコールは、あの時のガーデン教師の評価を否定はしない。
サイファーは、きっと、何かがおかしい。

おかしいという表現にしなければならないほど、根本的に〝生物としての強さ〟が違う。

キスティスも、シュウも、スコールも。
根っからのマスター派教育を受けて育った、典型的な〝なぜと問うなかれ〟と言われて育成されたSeeD世代だ。
特にシュウは、その傾向が強いと思う。
試験の引率としても、任務中でも、金を稼ぐ事を率先して口にしていたから。それはマスター派の教師に、よくよく告げられていたのだろう。
傭兵業を行う上で、金を稼ぐことは大切だ。
スコールはSeeD運営を仕事としたからこそ、理屈はよくわかる。
けれど、金稼ぎを第一とした時。
上流階級にいいように扱われる手駒にされたり、市井の人々から心を寄せられる事はなくなっていく。
傭兵業を始め、依頼を受けて仕事をする業界において、人々の評判こそが生命線だ。
一握りの金持ちより、大多数の一般市民の評判のほうが声は強く、数も多い。
SeeDはマスター派の意向で高級路線だったからこそ、市井の人々からの評判は賛否両論だった。
さすがSeeDという声もあれば、金にがめついSeeDという評判もある。
金を積み上げれば、〝SeeDは何でもしてくれる〟という声まであった。
アングラ傾向の強い任務も、過去事例からスコールは資料を見て知っている。

だからサイファーは、きっとSeeDが嫌いだった。

率先してSeeDになろうとする一方で、SeeDが嫌いだった。
今のスコールが、当時のサイファーの事を想像するとして。
きっとサイファーは、〝シド学園長の思うSeeD〟になりたかったのだ。
けれど現実は、〝マスター・ノーグのSeeD〟にしかなれない。
なぜを問い続けて、自らの立場と夢を、現実を考えて。
それでも心念を、夢を、追いかけ貫くことを考えて。

学園長がこそこそ仄めかしていたような、〝考え続けるSeeD〟こそ、サイファーがなりたい本当のSeeDだったのかもしれない。

だから、少しでも違えば。
もしかしたら、先輩SeeDのサイファー・アルマシーがいたかもしれない。
それはそれで似合わないな、と自らの想像にスコールはこっそり笑いながら。
一方で指揮官としての思考は〝今のサイファー〟こそが、未来のSeeDに必要だと思っている。

命令違反はやめてほしいが、誰に何を言われても、任務を念頭に置き〝なぜを問い続けて〟動く姿勢。
後遺症もなく、G.F.に頼ることのない、演算式の疑似魔法。
呼吸をするように戦場を渡り歩ける、戦場に最適化されたフィジカル。

現に、サイファーに無理を言って引率SeeDに混ぜて送り出すと、高確率で神妙な顔で生徒が帰ってくる。
国際社会的に、賛否両論の的であり、魔女大戦の時に言われた称号が独り歩きを始めた〝魔女の騎士〟。
スコールの管理下に置かれている現状さえ、不満に思われることもある。
特に公言してはいないが、スコールがサイファーを恋人にして傍に置いていることが、不満になることもある。
それでも実践では、戦場では、生存闘争の場では、全てがガラクタに堕ちていく。

サイファーに不満を持っていた生徒が、黙々と何も言うことなく、授業と訓練を率先して行う姿がある。
魔女の騎士という言葉に複雑な顔をしていた生徒が、真っ青な顔で進路相談に赴く姿がある。
戦場で圧倒的な存在感を放ち、モンスターを一刀両断する姿に、憧れと尊敬を秘めて戻る生徒がいる。

金を稼げる、礼節がわかる、どんな場所にも対応ができる。
確かにそれは、傭兵業を行うSeeDの、金がかかるからこその魅力の一つだろう。
でも何よりも現状において、必要なのは。
〝魔女〟という価値観や意識を、その恐れと不理解からくる伝統を、市井の人々から覆せる一歩として。
あの未来の城で残骸のように転がっていた、無数のSeeDたちを生まないように、足りないものだらけのスコールが考えて決めたこと。
今のSeeDに最も必要なのは、組織改革前とは違うとはっきりわかるほどの、運営姿勢の違い。
少しでも、SeeDに縁なき市井の人々と距離を近づけて、世論を味方にできる最適な任務。

それが、市井の人々が目に見えてわかる、モンスター被害。

特に〝月の涙〟で活性化したモンスターを討伐して、いち早く日常に復帰させてくれる〝討伐任務〟をそれと定めている。
もう一つの一面としては、バラムガーデンは現時点で〝戦争行為〟と距離を置きたいという考えがある。
魔女大戦時において、バラムガーデンとガルバディアガーデンが激突した時。
事実上の、ガーデンと国の真っ向勝負になっていた。
傭兵部隊SeeDを抱えていても、本当の使命を抱えていても、あくまでガーデンは教育機関であり中立であることを、国際社会に示しておきたいのが現状だ。
ならば、SeeDという金食い虫を、学生という未来を抱えて進む金稼ぎとして、モンスター討伐は現状におけるガーデンの最適解だ。
このことは、スコールだけではなく、クレイマー夫婦も自覚している。
「面倒だな」
こういうことを考えなければならない役職というのは、スコールにとって、今でも荷が重い。
かといって。
他の人間に、現代で一番有名な魔女に至ってしまったリノアの生末を。
先代魔女として有名になってしまった、今なお不理解から魔女として注目されることもあるイデアの生末を。
好き勝手に使われるなど、冗談ではない。
ならばと考えれば考えるほど、〝伝説のSeeD〟と言われる予定の〝英雄(自分)〟が、一番説得力があるのもわかっている。
「……疲れてきたな」
考える事は山ほどある。
1つ解決すれば、次が生まれる世界だ。
けれど、山積みの問題の1つに、目途は立ってきた。
その1つであった、サイファーの立ち位置が安定してきているのは、スコールにとって、あの戦いを共にした仲間と、風神と雷神にとって喜ばしいことだ。
例え、サイファーが不満をため込んでいても。
対外的にサイファーの力量を知らしめる事は、必要な事だった。
……誰だよ。サイファー弱体化説なんて流しやがったのは。
魔女の騎士として、アルティミシアに頭を弄られた説があるのは分かる。
バラムガーデンに回収されてから、大人しいのは、サイファーが牙を隠しているからだ。スコール・レオンハートになら使われてもいいかと思ってくれたからだ。
それが、断片的に情報が流れて、ややこしくなっていた。
……なんでこれが、捻じ曲がって弱体化説になったんだよ。
指揮官室の面々は知っている。
むしろ、マスター派という嫌いな奴らが消えたガーデンの中。生き方に悩んでいた事からも吹っ切って、サイファーは絶好調だ。
魔女大戦の前後で考えれば、おそらく著しいほどに力量が上がっている。
本気で戦った時に、今のサイファーを殺せと言われたら、スコールは秒速でNOを突き付ける。
それはサイファーと関係があるからではなく、単純なことだ。
……アルケオダイノスを絶好調な時に、一呼吸一撃で殺せるやつと、真っ向勝負とか割に合わない。
訓練はいい。サイファーと訓練をするのは好きだ。
競うのもいい。サイファーの刃を交わらせるのは好きだ。
でも殺しあえと言われたら。感情論ではなく、普通に傭兵思考で算出して割に合わなさすぎる。
弱体化説を覆すのは、この絶好調サイファーを見せるのが一番。
かくしてサイファーに何も告げずに、引率SeeDの人員の中に放り込んで、戦場を泳がせたわけだが。
……まさか現役SeeDにまで、効果があるとは。
サイファーの任務報告書は簡素で読みやすい。無駄なことは一切書かれていない。
しかし一方で、他のSeeDの報告書は阿鼻叫喚の地獄絵図を知らしめている。

ウェンディゴが縦に両断された。
オチューが細切れにされた。
グレンデルの首が三つ地面に並んでいた。
ストック魔法を使っていない事が頭おかしい。
実はG.F.をジャンクションしてるって言ってください。お願いします。
演算式の疑似魔法を普通に使ってましたけど、やり方教えてください。
どうやったら鼻歌歌いながら〝雑魚散らし〟みたいなことができますか。
助けてくれて有難いですが、血も汚れも一切ついてない白コートが怖いです。
指揮官も同じことできるんですか。

ずらずらと並んだ文字に、思わず小さく笑う。
……後半、質問になってるんだが。
くすくすと誰もいない指揮官室で笑って、報告書を束にして、ファイリングする。
これは後々、実践担当にも見せるべきかもしれない。参考にはならないが、こういう事例があると知らせるのが一番だ。
指揮官室の戸締りをして、寮の自室へと足を向ける。
月が沈みかける深夜のバラムガーデンを、静かに歩いていく。活動している人間は疎らだ。
あの魔女大戦以降に導入された、夜間アルバイト(SeeD候補生)による夜間警備と、それを管轄する警備員の姿が見える。
それ以外は訓練施設に行ったり、散歩をしていたりと、深夜のバラムガーデンの日常だ。

少しだけ形を変えて、やっと日常になった。

 

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