❖ 高難易度ミッションの顛末は - 2/5

 

凄く疲れていた。
相次ぐ任務、相次ぐ書類、相次ぐ雑用。
なんで、それを俺がしなければならないんだと、口から飛び出しそうな仕事まで。
最近は、溜息しか出なくなってきた。
そして今回の事案。ガルバディアガーデンへの出張任務だ。
何が悲しくて、ガーデン間との話し合いに、自分も参加しなければならないのか。
それでも、イデアにお願いしますと言われると、何とも断りづらい。
結局、シド学園長の護衛兼SeeD側の意見役として、一週間も出向いて双方の意見調整を行う事になった。
……やっと帰ってこれた。
もちろん同行者もいたが、馴染みの仲間は誰一人としておらず、ストレスだけがふつふつと溜まる日々だった。
話し合いも、順調に折り合いがついたとは言い難い。
学園長も溜息交じりに、「すみませんね。苦労をかけて」と謝罪をしてきた。こればかりは、学園長のせいではないので、文句のつけようがない。
とにかく、疲れていた。
足取りも重く、自室への道を歩く。
時刻が深夜であるからか、人気は少ないどころか見かけもしない。
誰にも会うことなく、辿り着いた自室にするりと入る。
共用エリアは、当然のように静まりかえっていて、電気も付いていない。
目が暗がりに慣れた頃に、共用エリアを突っ切って歩いていく。
なんとなく、足は自然とそちらに向かっていた。
眠った方がいいと、理性が告げている。
それでも、顔が見たいと本能が告げている。
どうしようもなく、疲れていた。
肉体的な疲労もあるけれど、それ以上に精神的に疲れていた。
静かに、その扉を開ける。
するりと身を滑り込ませた先で、静かに眠る男の気配がする。
鼻を擽る匂いが、安堵感を感じるようになったのは、いつからだろう。
音も気配も殺して、静かに近寄っていく。
別に悪い事をしているわけではない。
やましい事を考えているわけでもない。
……いや、もしかしたら。
少しは考えているかもしれない。
自分の感情を噛み殺すように、零れそうな苦笑を殺す。
本当に疲れていた。
会いたいな、と思うぐらい疲れていた。
そっと手を伸ばす。
布団に指を、手をかける。

 

――――瞬間に、世界が変わった。

 

視界が回る。
不意打ちの強引な力で、身体が浮いた事に、一歩遅れて気づく。
油断していた脳味噌が突発的な情報を処理する前に、寝台から布団が落ちた事だけ理解する。
抵抗できないように、首にかかる手の圧。
片足で身動きできなくなるように体重をかけられ、拘束された身体。
思考の停止は一瞬。

何が起こったのか理解する前に、目に飛び込んできた光景。
何が起こったのか理解が追い付いた時には、全てが完了していた。

サイファー・アルマシーが、こちらを無感動に見下して、見つめている。
視線に色はない。
ただ己の襲撃者を見定め、対応をどうするのか思考する、冷徹な戦士の顔がそこにある。
普段のモンスターを狩り取る興奮や高揚も感じない、淡々とした無機質な人形のような瞳。
そこに転がるゴミを見つめるような、興味のない物を捨てる事だけ考えている、見知った男の見知らぬ眼差し。
その、目の色に。
ぞくりと背筋に走るモノがあった。
「……あ?」
その感覚が何かを感じる前に、サイファーが瞬きをした。
瞼を閉じて、上げる。
たったそれだけで、サイファーはスコールの見知った男になった。
知らない戦士から、知っている馴染のライバルであり、
「お前、何してやがる?」
「あんたこそ、恋人に何してくれるんだ?」
隣に引きずり込んだ交際相手に。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

まるで瞬きの様に。
意識が切り替わり、視界が一気に広がっていく。
この感覚に覚えがあった。
よく任務の場所で、戦場で、意識が切り替わる感覚だ。
視界が開けて、自分が起きたと自覚する一方で、状況がよくわからなかった。
自分の身体の下に、寝る時にはいなかったはずのスコールがいる。
「お前、何してやがる?」
「あんたこそ、恋人に何してくれるんだ?」
むすり、と不機嫌だと分かる表情でこちらを睨む男を、軽く首をかしげて観察する。
まず初手。
自分の手がスコールの首を捕まえているので、そっと外す。
全力で体重をかけて、手足の行動を阻害している体勢を取っている自分に気づいて、それもやめる。
「……お前、俺に何かしたか?」
「まだしてない。布団を捲っただけだ」
身体を横に退けると、不機嫌な顔でスコールが起き上がる。
顔を見れば、べったりと疲労が張り付いている。疲れ切った顔だった。
男二人が並ぶには狭い寝台の上で向かい合い、サイファーはそっと手を伸ばす。
指でグイっと擦ったスコールの目の下は、薄っすらと隈が浮かんでいた。
「疲れてるのに、何してやがる」
「……だって」
気が抜けたら、サイファーは眠気がぶり返してくる。
くわっと大口で欠神していると、もごもごとスコールが言い訳にもならない声をぶつぶつを呟きながら、サイファーに抱き着いてきた。
「ん?」
「疲れたから」
だから……、と呟きながら。スコールが、ふっと安心したように吐息を零す。
サイファーがそっと覗き込めば、深く呼吸をしながら、とろりと瞳を眠気で溶かしている。
「スコール?」
「んー」
うんうんと言葉にならない声を零しながら、抱き着いたまま眠り始めるスコールに、サイファーはため息をついた。
「せめぇよ」
口から狭いと文句を言いつつ、それが形だけになりつつある事を自覚しながら。
馴染み始めた寝台の狭さを思いつつ、サイファーはスコールを抱きかかえて横に転がった。
なんとか床に転がり落ちた布団を引っ張って、風邪を引かないように被って、目を閉じる。

 

――――それが、ある意味で間違いだった。

 

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