「サイファー。それ、面白いか?」
「いや?」
陳腐な恋愛映画を見ながら、ぼうっとしてたサイファーは、近くで聞こえた言葉に顔を上げる。
メインルームで盛り上がりかけたが、スコールが埃っぽいのが気に食わなくて、風呂場に叩き込んでベッドルームに引っ込んだ。
そのままベッドルームに備え付けられた、無駄にデカい映像装置で適当にチャンネルを回す。止まったチャンネルで流されていた映画を見ていたが、普通につまらない。
ぎしり、と寝台が軋む音。
微かに揺れるシーツをサイファーが確認する前に、横にきたスコールが再び抱き着いてきた。
二色の瞳が、交差する。
流れてくる映画の音が、ただのBGMに成り下がる。
お互いに目を瞑る事もなく、同時に唇を重ね合わせた。お互いに譲らないように、舌を伸ばして、スコールに歯を軽く立てられて、サイファーも負けじと歯を立てて。
「ん」
「ん、ぅ」
ぐいぐいと押されるように、押し倒される事に、サイファーは抵抗しなかった。
上等な寝具が籠った軋みをあげる。ふわふわの寝心地のいい素材が、サイファーの全身をスコールごと受け止める。
「んぁ」
「ふ」
絡み合う舌を、お互いに放す。とろとろに溢れるお互いの唾液を舐めながら、やる気満々のスコールに、サイファーはルームウェアを剥がされる。
「がっつくな、よ」
「あんたがいうな」
待ち構えていた癖に、と興奮からか擦れた低い声で言われて、耳たぶを食まれてサイファーは顔を顰める。
このホテルに放り込んだ主犯の癖に、待ち構えていたと言われるのは気にくわない。強ち間違いではないが、気にくわないものは気にくわない。
「サイ…………?」
そっと伸ばされた手が、サイファーのあらぬ所に触れて、ぎしりとまるでブリキの玩具のように、スコールの身体が止まる。
ちらりとサイファーが見た視線の先。
想定外の事態に晒されて硬直した顔のスコールが、こちらを見下している。
気分がいい。
「……ど~した、よ?」
「あ、んた……。これ」
ごくんっと生唾を飲み込む音が、目の前の獣から聞こえてくる。
戸惑い、たじたじになった男に喉から笑いが零れてくる。
「お前、ルームサービス。隅々まで、全部見たか?」
「……え?」
「シークレット、サービス」
メニュー表の最後。注文用の端末を押すだけでは、決して辿り着けない、秘匿のページ。
アクセスコードを入力し、誕生日を入力し、満年齢を入力して。
やっと表示されるページに存在する、秘密の夜を満喫する為の注文ページ。
このホテルが、ロボットで注文を搬送する事を売りにしている、恐らく最大の要因であるサービス。
「お前が、俺様をこんなところに、閉じ込めるからよ」
見た事のない景色は、確かにロマンチックだった。
豪華な部屋だが、雰囲気は悪くない。居心地のいい空間だった。
適当に頼んだ飯も、自分の常識が狂うか不安になる程度には、美味かった。
任務が確定した日。
恨めしそうに見つめてきた日と、ホテル側に聞いた滞在日数。
思い過ごしでも何でもない。
きっとサイファーは自惚れていいのだと解釈したし、同時にアホだなとも思った。
自分の誕生日が、年末年始のスケジュールを考えれば。おおよそ面倒な日付である事は、もう石の家の頃から知っている。
だから、スコールが準備をしているなんて、一欠けらも思わなかった。
なんせ今を時めく売れっ子SeeD。伝説の英雄様なのだから。
だから、意趣返し。
自分の為に、ロマンチックでいい雰囲気のホテルを探したのだろうと、なんとなく理解してしまったので。
その一方で、一人でほぼ一日放り捨てられたのは、気にくわないので。
「準備しろって、ことかと思ったぜ」
腹の中に入れて、体温で溶けるローションです。……という謳い文句のアイテムが、でかでかと記載されていたので。
年齢指定必須のアイテムも、たくさん売られていたけれど。
一先ず、それを一つ注文して。
恐らく自動運転で温水が循環して、四六時中いつでも入れるように準備が完璧な、デカくて広い風呂場でゆったり浸かって。
なんか無駄に高そうなシャンプーやらリンスやら、ボディソープやらで身体を洗い。
仕方がないから腹の中も洗って、慣らして、それを仕込んで。
だから。
「すぐに」
呆然とした顔でこちらを見る、スコールの首を引き寄せる。
抵抗もせず、サイファーの身体の上に落ちたスコールの、その耳元に口を寄せて。
「入れるぜ?」
ゆっくりと、一言づつ区切って、
「指揮官様」
腹に手を置いて、現状を分かりやすくサイファーは伝えてやる。
「あんた」
目の色が変わる。
今まで見た事もないような、サイファーの意見を伺うような、縋るような目ではなくて。
ぎらぎらと欲望に満ち溢れた、美味しいものを差し出された猛獣の目だ。
「今日、誕生日なんだぞ?」
「そうだな?」
「なんで俺が欲しい、贈り物してるんだよ」
「してねぇよ」
「……欲しいもの、言ってくれていいのに」
「察しが悪いな、お前」
はぁはぁと興奮で息が荒くなっている男の、目尻に指を這わせて。
クールビューティーだなんだと称される顔から想像もできない、男臭い顔で見下ろしてくる相手に向けて。
サイファーは笑ってしまった。
「くれねぇの?誕生日プレゼント」
返答は、すぐにあった。
噛みつくような口づけと、押し入ってくる行動。
思わず身をよじれば、抵抗は許されなかった。
襲いかかる猛獣の行動が、全てだった。
サイファーは早まったかと一瞬思うが、それさえも溶けて砕けて流される。
――――嵐のようだ。
声を抑えることは許されず、隠せるものは何もなく。
もう飲み込めるモノが、何もないほど。全身も頭の中も食い散らかされて。
「サイファー」
飲みきれない唾液が、高級な寝具を汚していく。
水気を帯びた空気の中で、もう正気を保てない刹那の中。
「あんた、覚悟しろよ」
ふわふわとする意識の中で。
「一生、逃さないからな」
逃げると思われているのは、腹が立つなと思ったので。
その喉に、噛み付いた。

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