好きだと告げたのも、あいつから。
傍にいて欲しいと言ったのも、あいつから。
恋人になって欲しいと抱きついてきたのも、あいつから。
全部、スコールからだ。
『それでいいの?』
ついてきてね、という緩い誘拐をされて。
エスタに連れてこられて。
どう見ても値段が高い、このホテルに。
スイートルームらしき部屋に、押し込まれた時に。
グッドラックと敬礼をするアーヴァインとセルフィを背後に、リノアがそっと耳元で告げてきた言葉。
どこまで聞いたのか、誰からのタレコミか、知らない。
どこまで、あいつが話したのかも、知る由もない。
しかし一方で、元々の勘が鋭い女だ。
もしくは、魔女の第六感か。
『このままでいいの、サイファー?』
促すような、諭すような。
偉大な先人が、拙い後輩に答えを促すような、そんな声。
わけが分からないと、切り捨てるのは簡単だ。
けれど、それをしてはならない。
その感覚だけは、わかっていた。
言わなくても、理解していた。
いい加減に決着をつけなければならないと、理解していた。
身体も、うっかり重ねてしまった。
勢いに押されて、気が付けばボトムになっていた。
下手なら殺そうと思ったが、意外と上手くて。気持ちよかったので、保留にしてやった。
そうしていたら。
時間が経過するにつれて、コンプレックスの塊の権化らしく、スコールが不安でいっぱいになる事も見抜いていた。
それを解消する事が、俺にはできなかった。
そもそもの話。
――――解消する必要が、どこにある?
そう、ずっと思っていた。
この馬鹿は〝大外れ〟を引いたと、ずっと思っていたから。
―――――――― ▼ ――――――――
お節介はどこにでもいる。
知らない間に、そっと横にいる。
それを俺は、知っていた。
『ねぇ、サイファー』
別に、一人で考えていたわけではない。
どれだけ過去を振り返っても。
どれだけ短い人生を思い起こしても。
結局、俺には〝愛〟が何か理解できなかった。
魔女大戦の末に手に入れた〝事実〟は、それだけだ。
――――サイファー・アルマシーに〝愛〟は理解できない。
それが、あの戦いの末。敗者の自分自身が手に入れた、回答だと思っていた。
思っていたからこそ。
幻滅して、離れればいいと放っておいた。
俺に自分の理想を押し付けて、俺に同じような〝愛〟を求めるのは、筋違いだから。
英雄になったのだから、好きなモノに手を伸ばせばいい。
お前が欲しい〝愛〟を返してくれる、お前の可能性を広げてくれる、リノアのような存在を。
愛を求めるお前のとって、俺は極上の〝ハズレ〟のはずだ。
『サイファー、愛の答えは1つではないのよ』
優しい微笑みで、あの石の家の頃と変わらない眼差しを、俺に向けてくる人。
俺が〝愛〟の象徴だと思っていた人。
俺が守りたかった人。
あの男の元に、帰してやりたかった人。
子供の頃に俺が思い描いていた、理解できない〝愛(母)〟そのモノだった人。
『私はシドを愛しているし、貴方も愛しているわ。でも違う〝愛〟なのよ』
この世の愛は全て、1つきり。一種類だけではないのだと。
諭すように言われた日があった。
……理解できない。
何が理解できないって、なんでイデアとこんな会話をすることになったのか、理解できない。
そう確か。
スコールが不機嫌で何とかしろみたいなチキンの話を、ずっと無視していたら。
なぜか二者面談みたいになっている。
理解できない。
そもそも、イデアが言っている事も、よくわからない。
もしも〝愛〟が、何個もあると仮定したとしても。
――――イデアに向ける〝愛〟ほど、スコールに向けている〝愛〟などない。
イデアの為ならば死んでもいい。
シドも百歩譲って、まぁまぁ妥協してやる。
だがスコールの為に死ぬのは、絶対に嫌だ。
『いいえ』
喧嘩したわけではない。
別れようと告げたわけでもない。
それでも、なんとなく関係がギクシャクした頃に。
スコールが壮大に不機嫌になったので、放っておいただけなのに。
なんでイデアと話すことになっているのか。
まるでイデアに対して、スコールの事を相談している状況に陥っていた。
そうだ。
そうやって、相談をした時に。
いや待て。
あれは相談だったのだろうか。
根掘葉掘と、あの手この手で、スコールの事を話すように言われて。
同居生活の不満もだらしなさも任務中のくだらない事も認めるに値する大胆不敵な行動も直して欲しい抱き着き癖も眠る時の寝相も好きな食べ物も嫌いな虫も色々と言わされたような。
あの時間は何だったんだろうか。
『貴方はきちんと、スコールを愛していますよ』
状況もよく理解できないまま。
よくわからないまま、イデアにはっきりと断言されて。
『もしかしたら。私以上に。貴方はスコールを一等愛していますよ』
美しく慈悲に満ちた、微笑ましそうに言われた言葉を、脳味噌が理解できないまま。
差し出された茶請けのクッキーを齧りながら、それを聞き流して。
その日の夜に。
スコールから伸ばされた手を、拒むこともなく。
ゆらゆらと揺れる、灰が混じるような透き通る青色の瞳を。
見慣れたけれど、見慣れない色をした瞳の奥を、覗きこむように目を閉じて。
――――日々が過ぎていく。
『ねぇ、サイファー。貴方は昔から絶対に変わらない事が、1つあります』
いつの間にかスコールが、同じ部屋で寝起きしている。
後ろから抱きしめられる事も、前から抱きしめられる事も。
俺の頭をまるで守るように、抱え込むように。抱き着いて眠る日がある事も、慣れてきた。
『自分が嫌なことは、死んでもやらない。強要するようなら、許さない』
『それをお願いするのが、例えば私でも、ね?』
それはそれとして、狭すぎる。
元々一人用の寝台だ。長身に分類される男が、二人で眠るようなものではない。
狭いから自室に帰れと言っても、絶対に帰らなかった。
仕方がないから、バラムガーデンの事務局に設備更新の申請を行い、自室のベッドサイズを変更した。
『貴方は貴方を知っている。だからこそ拒絶する』
『再三に渡る、あの人とスコール達から要請されるSeeD認定試験を、絶対に受けない理由は、きっと貴方にとって一つでしょう?』
寝台が大きくなったから、快適に眠れると思ったら逆だった。
こいつ、余計に引っ付いてくる。
狭っ苦しい。
なんなんだ。
……行かないで、と。
まるで石の家で、エルオーネがいなくなった頃の様に、寝台で俺に縋ってくるのは何故だ。
どうして寝言でまで、俺に縋ってくる?
ああ、本当に。
『――――今のSeeDが、気に食わないから、ですよね?』
気に入らない。
気に食わない。
本当に気に入らない。
俺様の顔色を、まるで気にするこれが、気に食わない。
俺の首を斬り落とす勢いで、歯向かってきたのは、あの日常は何だったんだ。
俺が血に塗れようと、自分が血に塗れようと、負けるのが死んでも嫌だった気概は、どこにいった?
敵対していた時。呆れたように見つめてきた、俺に何を思われても気にしないお前はどこにいった?
気に入らない。
気に食わない。
こんな軟弱な野郎に、俺様は身体を許したのか。
こんな俺の顔色を伺うような、そこらの雑魚みたいに成り下がる男になったのか。
これが気に入らない。
これが気に食わない。
――――サイファー・アルマシーが認めた、スコール・レオンハートはどこにいった?
俺に何を言われようと。
俺に何かをされようと。
自分の意思を貫くのが、お前だったはずだ。
例え周囲に強制されても、例え何も言えないまま、流されるような事があろうとも。
最後の譲れない一線だけは。
それだけはと絶対に覆すことはなく、誰の意見も受け入れない男がお前なのに。
だから気に食わない。
『ねぇ、サイファー』
お前を軟弱な雑魚にする、周囲が気に食わない。
お前を英雄として祀る一方で、お前を人間と認めない世界が気に入らない。
『どうしてスコールを拒まないのか、ちゃんと考えるのですよ』
SeeDの未来を考えて、自らを損なうお前が気に食わない。
なんでもかんでも、背負ったまま。
何一つ荷物を誰かに押し付けない、お前の態度が気に食わない。
『答えはもう、貴方の中にあります』
そして何よりも。
選りに選って。
「サイファー、傍にいて欲しいんだ」
敗者の俺に、子供のように縋る目で見つめてくる勝者という、クソみたいな存在を。
俺に助けを求めるしかないほどに。
リノアと道を違えるような事態を、積み重ねるほどに。
――――真綿で首を絞めるように、スコール・レオンハートを追い詰めた、周囲が気に食わない。
俺はSeeDにならない。
幅広く万人の依頼を受ける傭兵に、死んでもなるものか。
どこの馬の骨かも知らねぇ、誰かの意見に左右されるなんて、冗談じゃない。
俺が目指すのは。
俺が今、求める理想の俺は。
「サイファー、手伝え」
「サイファー、好きだよ」
「なぁ、その……恋人に、なってくれないか?」
俺が今、求めている俺自身は。
俺が望む理想の形は。
『サイファー、愛の答えは1つではないのよ』
なぁ、まま先生。
俺のこれは。
こんなドス黒いものを。
愛と呼んでいいもんなのか?

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