❖ 聖なる愛は必要なく ~S.A.Birthday 2024~ - 2/7

 

何処かの宗教で、聖人が生まれた日であるらしい。
聖人は救世主であり、人々を苦しみから解放し導く者だという。
馬鹿馬鹿しい。
そもそも、その宗教自体が胡散臭い。
魔女が廻るこの世界で、人々を苦しみから解放するというのならば、魔女こそ開放するべき〝人間〟のはずだ。
そんな聖人様の生誕祭に関連して、SeeDに警備依頼がきた。
とある地方で盛大に催される、今年最後のお祭りだ。ご丁寧に金額を釣り上げて、SeeDの中でも一番有名な相手をご指名で。
モテモテだな、と一言告げてみたら。
秒速で睨みつけられた。
もはや殺意が籠った視線で、思わず笑ってしまったが、それがますます癇に障ったらしい。
覚えていろ、と小さく呟かれた言葉を、いつも通りに聞き流した。
駄目だったらしい。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

「な~~んで、俺様はここにいるんだよ?」

どっかりと座りこんだ椅子の、座り心地が死ぬほどいい。
クッション素材も革素材も、何もかもが高級品なのが理解できてしまう。
ざっと見渡しただけでも、調度品もほぼ一級品だ。
「あ゛~~」
恐らく生涯で飲んだことのない、高級な白ワインが脳に染みる。そして美味い。
ちらりと視線を向けた机の上。
無駄に洒落てるチーズフォンデュ鍋と、それを炙っている下段の炎が、ゆらゆら揺れている。
細長いフォンデュ用フォークを、手の中で無駄に一回転。用意されている大皿に、無造作に突き刺す。
……ズッキーニ。まぁ、いいだろう。
豪快にチーズの海につけて、取り出せば、チーズがどろりと絡みつく。
熱いそれを口の中に頬張れば、仕入れ先もいい所を使っているのだろう。普段食べているモノと比べずとも分かる。脳を揺するような雲泥の差に、舌が痺れそうだ。
はぁ、と自分でもわかる熱い息を零れる。
「なぁ~んで、俺様。……ここにいるんだよ」
自分以外に誰もいない部屋の中、呟く言葉は二度目だ。
グサグサとフォークに突き刺した、バケットとソーセージをチーズに潜らせて、大口で一口。程よい硬さのバケットも、弾け飛ぶように溢れる肉汁も、何もかも美味い。
それをもぐもぐ咀嚼して、白ワインで流し込む。
普通に腹が立つ程に美味い。
というか。
これは。
「…………あ゛ー」
堂々と。いや、燦燦と降り注ぐように。
大きく無駄に演出されているような、非現実的な夜景に腹が立つ。
手持ち無沙汰に、部屋に備え付けられていたルームサービス用メニューを開く。大きな注文用の画面端末でも見れるが、なんだか操作が面倒だった。紙メニューの方が、色々一括で見れていい。
「ん、む」
手元を見ずに、適当に大皿に向けてフォークを刺す。見ずとも獲物を逃すような事はしない。
これを手元の雑誌を見つつ寮の共用エリアで行っていたら、同居人に二度見どころか三度見された。動作が大袈裟だったが、やろうと思えばアイツもできるだろ。
メニュー表を見つつ、指を動かしてくるりと引き寄せたフォークの先。綺麗に中央にフォークが貫通したのは、つるりと大きいホタテと美しく艶やかな色のサーモン。
……海鮮か。悩むな。
バラム住まいとしては、生には少し煩い自覚がある。
少し考えてから、ドプンッとチーズに潜らせて、少し放置して加熱する。加熱しすぎない程度に熱を通して、引き上げる。
「ん」
美味い。
自画自賛だが、いい加熱具合。
……って、食ってるばっかりなのもな。
ここに放り出された当初。外に出る事は諦めた。
ニコニコと笑顔で手を振る姿に毒気を抜かれたという事もあるが、〝裏側〟を正確に見抜いてしまった自分の脳味噌の性能が憎たらしい。
開き直って、チーズフォンデュの白ワインセットを頼んだが、まさかの大皿特盛セット。
具材とチーズに困らなくなった。食いきれるが、見た目からして豪華だし、一つ一つの具材を丁寧に下処理している事が、素人でも理解できる。普通に怖い。
無駄にグルグルとチーズフォンデュ鍋の中をフォークで掻き混ぜて、一息。
……食う以外に、何してろってんだよ。
ハイペリオンは取り上げられた。というかそもそも、持参さえしていない。
持参出来なかった、が正しい。
……まさか、自室にいる時に襲撃を受けるとは思っていなかった。
いや、あれは襲撃と称していいのかもわからない。
けれど嫌味と錯覚するほどに、襲撃者たちが楽しそうだったのが気にかかる。
抵抗する気も起きなかった。
冷静に考えると、ありえない話ではなかった。
ただ、その行動を奴が取ると思えなかった。
基本的に面倒が嫌いだし。
基本的に人嫌いだし。
基本的に部屋でだらっと 寝るのが好きだし。
カードは好きだが、率先して勝負に躍り出るより、部屋に引き籠ってるのが好き。
最近は俺にまでカードを押し付けてきたので、全て部屋の中で完結させるつもり満々なのが、透けて見える。
カード勝負に付き合うのが面倒になって、訓練施設に行きたくて一度ぼこぼこにしたら、獲物を見る目で見られたが。
いやそうじゃなくて。
「……あいつ、本気なのかよ?」
任務内容は知っている。
ざっとスケジュールを思い返しても、抜け出せるような余地はなかった。
12月20日から、12月27日まで。
前夜祭と後夜祭を含めて、七日間の盛大な催事だ。
ガルバディア国内の地方だが、現政府とは微妙な立場。だからこそ念を入れておきたくて、過剰な程に金額を釣り上げ、一番有名なSeeDを指名したのだろう。
あの宗教の催事は特別だ。一年を労う、新年前最後の祭り。
祭りに対する意気込みが凄いが、魔女大戦から続く国際情勢を思えば、願掛けをしておきたい気分も分かる。
現に、年末年始のSeeDに向けた依頼件数は、増加の一途を辿っている。狸とイデアが頭を抱えて唸っていたのを知っている分、どうするんだろうなと高みの見物をしていた所だった。
なんせ自分はSeeDではないので。
「……ん?」
ぺらりと流し見ていた、
メニュー表の最終頁。
〝シークレットサービス〟と書かれている怪しいページ。
アクセスコードが書かれているだけのそれを見て、考えるよりも反射で動く。机の端に寄せていた画面端末を持ち上げて、コード入力画面を呼び出す。
「はは~ん?」
一瞬、相手が知っていたのか考える。
知らなかったが正解のような気がする。
もし〝こんなモノ〟が用意できるサービスがあると知っていたら、潔癖症と人見知り傾向の強い男だ。出先で大々的にというのは、考えにくい。
「ふ~~~~ん?」
とは言えども、個人的には楽しい。
仕返しの手段が出来た。
我が身に返ってくると分かっているが、放置プレイにも飽きた。飯は美味いが、一人で放置されている現状にも物申したい。
ぺろり、と舌なめずりをしながら、シークレットサービスの注文ボタンを押す。
再び繰り出したフォークは、豪快に茹で卵を貫いていた。

 

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