言葉は要らない。
見るだけで、サイファーは大体のところを読んでくれる。
言う必要はない。
この状況で自分の訴えなんて、即座に読みきるからだ。
ほら、やっぱり。
「お手をどうぞ?」
腹が立つような仕草で、求めていたけれど、気にくわない回答が来た。
差し出された手を見下ろして、そっと吐息を吐く。
嫌になる程、こういう動きが様になる。
ふつふつとスコールが気にくわないと、ムッとする程度には。
「俺の騎士様は、余程、廃業したいらしい」
苦し紛れに吐き捨てた言葉に、サイファーは不思議そうな顔をした。
その言葉の意味を飲み込んで、ゆっくりと不適に笑みを浮かべる。
ああ、本当に、
「俺様の王子様は、余程、自信がないらしい」
帰ってくる言葉が全て、腹が立って仕方がない。
「ぬかせ」
苛立ちと共に吐き出した言葉と共に、スコールはしっかりとサイファーの差し出された手を握る。
踏みしめた一歩は、無様に崩れ落ちた男と同一人物であると思えない程に、しっかりと床を踏みしめた。
―――――――― ▼ ――――――――
キスティスと愛しきセルフィが、きゃいきゃいと楽しそうに靴を選んで履き、リズムを取るように踊る姿を見つめながら、アーヴァインは視線を流した先にいる、二人の目立つ男達も見る。
……相変わらず、スコールの適応力は凄いなぁ。
アーヴァインは、魔女大戦の最中に合流したという自覚はある。
引き取られた先で上手く関係性を築けなかった自覚があり、さりとてガルバディアガーデン内でも少し浮いていた。
だからこそ、幼い頃から縋る先は、大好きな人々がいた石の家の思い出だった。
我ながら苦しく、そして女々しい程に無様な縋る先だ。それは分かっていても、女々しく思っても、恋しく思う気持ちは止められなかった。
だから、ガルバディアガーデンでも、思い出せる限りの石の家の記憶を書き記したし、石の家の皆の情報がないかと、情報を探ったりもした。だから、バラムガーデンで有名な二人の問題児ガンブレード使いの噂は知っていたし、もしかしてとも思っていた。
けれど、残念なことに。
いや、もしかしたら運命の進むままに。
スコールとサイファーが隣り合うように揃っている姿を、魔女大戦中は見ることがなかった。
全てが終わって、スコールがサイファーを〝回収〟してくるまで。
……あー。落ち着く。
だからたぶん、アーヴァインぐらいだと思う。
スコールとサイファーが、揃っていると落ち着くのだ。
別に付き合っている恋人である必要もない。家族である必要もない。
ただ、エルオーネにべったりだったスコールは、エルオーネがいない時に、そっとサイファーの隣にいた。
その時だけは、暴れまわることが多いサイファーも、何故か静かにスコールの近くにいたり、一緒に何かをしていた。
泣いているゼルをよく苛めていたサイファーは、同じ泣き虫のはずのスコールを苛めることはなかった。
そこには、サイファーだけが分かる明確な違いがあったと思う。ゼルが泣いていると苛立っているサイファーは、けれどスコールが泣いていても苛立ちはしなかった。
今のアーヴァインとしては、たぶん、泣いてもどうにもならない事で泣いている人間を見るのが、どうしても当時のサイファーにとって、苛立ちを募らせる結果になったのではないかと予想している。
思い出せる範囲でも、ゼルは玩具が壊れたとか、親に会いたいとか、どうにもならない事で悲しんで泣くことが多かった。
一方のスコールは、姉が近くにいない事が寂しかったり、暗い所が怖くて泣いていたことが多かった。
サイファーは、泣かなかった。
何があっても、泣くことはなかった。
ただ、苛立ったように世界を見ていた目だけは、なんだかずっと覚えている。泣いてもどうにもならないと分かっていたから、それで泣く人間に腹が立って仕方がなかったのかもしれない。どうしようもない現実があったから、皆あの石の家に辿り着いたのだから。
「アービン、何見てるの?」
「ん~?息ぴったりだと思って」
意識を過去から引き戻して、にっこりとアーヴァインは微笑んだ。
ひょっこりと自分の顔を見る様に、横から顔を覗かせたセルフィに、指し示した先。
壮大にスッ転んだとは思えない足捌きで、スコールが華麗にターンを決めている。
そのスコールをリードするように、サイファーも余裕のある動きで踊っている。
「うっひ~!二人ともようやるなぁ」
「ね?」
本人にたぶん自覚はないが、アーヴァインから見れば、スコールも天才肌だ。
周囲の状況を分析し、呼吸をするように相手の動きを取り込んで自分に適応する、その驚異的なまでの適応力。
今だって恐らく、サイファーのバランスの取り方を自分なりに受け取って、自分に修正をかけて対応している。
少し前に、リノアにスコールとの出会いについて聞いたら、SeeD就任式のパーティーで踊ったのがきっかけだと聞いた。その時、すぐにスコールが踊ってくれて嬉しかったと言っていたけど、たぶん違う。
スコールは、パーティーで踊る事なんてひと欠片も考えていなかっただろうから、ダンスの項目なんて見ていなかっただろう。だから、リノアに誘われた時に戸惑った。
何を踊るか、知らなかったから。
それを、周囲のダンスを見て、即座に脳内で検索し、もしくは周囲のタイミングに合わせて踊り始めた。
しかも目の前のパートナーは先ほど出会ったばかりで、ダンスの良し悪しも分からない。下手の横好きがいる世の中だ。油断できない。
でも、スコールは適応した。
見事に踊りきった。
そういう、即座の適応力はスコールの強みだろう。本人は当たり前すぎてさらっと行っているが、潜入捜査や即座の対応を求められる任務も多いSeeDにとっては、驚異的で羨ましい得意技だと思う。
……でも、スコールが欲しい能力じゃ、ないんだろうなぁ~。
ガンブレードを振り回して、がんがん攻め込む戦闘スタイルのスコールだ。
きっとサイファーみたいな身体能力が欲しかったのだろう。
「難儀だねぇ~」
しかも、嫉妬先がそれを分かってくれないジレンマ。
……そのうちサイファー、スコールに襲われそうだよね。

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