❖ 足元から撃ち抜いて。 - 3/6

 

靴のオーダーメイド事業の宣伝モデルなんて、するつもりはなかった。
だからこそ依頼を断ったのだ。
けれど後日。
シドが困った顔で指揮官室に入ってきて、箱を二つ置いた。
中を見て出てきたのが、サイファーとスコールが今まさに履いている、ピンヒールだ。
問題は、サイズとデザイン。
あからさまに女性サイズではなく、あからさまなデザインで堂々と鎮座しているそれ。

 

クロスソードを掲げるピンヒール。
獅子の横顔が主張するピンヒール。

 

誰をイメージしたのかなんて、バラムガーデン内部で言えない学生も教員もいるはずもなく。
もし言えないのならば、潜りか他からのスパイだ。
それほどに、クロスソードも獅子も、誰が背負い、それを掲げていたのか、よく知っている。
「実はですね、君たちをモデルに作ってしまったそうなんです。職人が」
困った顔でシドがする話は、スコールの耳の左から右へ抜けていた。
曰く、大手の服飾関係企業の靴関係の部門に一人、天才肌がいるらしい。
わかりやすく言うと、インスピレーションが湧くモデルを見つけると、そのモデルの為の靴を勝手に作り始めるらしい。
その出来がいいと、オリジナルはモデルに渡し、そのオリジナルの簡易版を新デザインとして靴を製造することもあるという。
そのインスピレーションのモデルとして、スコールとサイファーが選ばれたらしい。
何処で見たのかというと、とんでもない場面で見ていた。
あの魔女パレードの最中に、スコールとサイファーの〝足だけ〟を、近くのビルの屋上から双眼鏡で見ていたらしい。
「……ということで、正真正銘。この二足は、貴方たちがモデルで出来たモノです」
そんなことを言われても、と顔に書いてあるスコールは沈黙。
サイファーも、シド学園長から言われた言葉が理解できないのか、したくないのか。視線を天井に向けて沈黙している。
しかし、沈黙していても、目を逸らしていても変わらない。
仕方なく、示し合わせたわけでもないのに、スコールとサイファーは同時に動いた。
「……あの、学園長」
「おや、なんでしょうか?」
其々のピンヒールを、恐る恐る箱から引きあげて眺める指揮官と補佐官を横目に、指揮官室に詰めていたキスティスは、手を挙げて質問した。
「なんで、ピンヒールなんですか?」
この世界にはモンスターがいる。
その為、いつ何時、死んでもおかしくはない。
街中で、侵入してきたモンスターに襲われて死んだという話も、珍しくもない。
戦火があろうとなかろうと、この世界は須らく生と死の境界線が近しい。
故に、異性婚も同性婚も、珍しくない。
なんなら少し珍しいが、異種族婚もある。
抑々が性別という概念がどこかに飛びそうな〝シュミ族〟という最も職人気質として有名な一方で、身体構造が不思議に満ちた亜人種さえいる世界である。
故に、国家間や民族間の違いはあれど。
公的な結婚を認める認めない等の、文化的な違いもあれど。
男であれ女であれ、そこそこ自由にファッションができる下地と文明がある。
とはいえども、ピンヒールはその構造上。もしくはそのデザイン上。男で好む者がいないこともないが、基本的に女性が好む靴である。
「……それが、分からないんですよねぇ」
あの二人のピンヒール?、と顔に困惑が張り付いているキスティスに、シドも溜息をつきながら答えた。
靴職人はインスピレーションを重視するせいで、男女の概念が希薄らしい。
過去の事例から見ても、男に女性向けの靴をデザインしたり、女に男性向けの靴をデザインしたり。そもそも何のデザインか分からない靴も作ったことがあるという。
スコールとサイファーの靴が、双方共にピンヒールに成ったのは、あくまで職人の感性からの顛末だ。
なんでこの形と言われても、誰にも分からなかった。
作られた物は、仕方がない。
どう見てもオーダーメイド品。そして何より、他の人間に履かせるのもなんか違う。
無駄に宝石があしらわれた靴である点も、なんとなく無下にするのにスコールとしては、気が引ける。
決して、靴にあしらわれた、獅子の横顔を気に入ったわけではない。
きっと違う。
ちょっと呆れたような、隣の男の視線も知らない。
頼まれたであろう困り顔のシドを、作った職人を、作られてしまった会社の人々の思いを、そして何より罪なき獅子……いや違うピンヒールを。
これらを纏めて決着をつける方法など、一つだけだ。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

「いわゆる今回は、パーツモデル。足だけってことでしょ~?」
「サイファーもスコールも、今は有名だから、パーツだけはいい選択肢かもしれないわ」
……他人事だからって、楽しみやがって。
セルフィとキスティスが、今回の撮影の為に提供された色彩豊かな靴たちを見ながら、好き勝手に言っている。
今回の撮影は、スコールとサイファーだけではない。指揮官室所属の面々の中で、時間の都合がついたキスティス・セルフィ・アーヴァインの三名と、参加したいと手を挙げたSeeDと候補生の中から選ばれた十人も参加する。
どうせSeeDに頼むならと、依頼者側が奮発した結果だ。そこには来年のバラムガーデンの制服予算も関係しているらしいが、そこはサイファーの知った事ではない。
知ったことではないが。
チラリと横目で見つめる先。スコールがピンヒールを履き直しているのを確認しながら、サイファーは内心で溜息をつく。
正直言えば、サイファーは乗り気ではなかった。
何が悲しくてピンヒールを履かなければならないのか。
しかも雷神程ではないが、188㎝の長身に類する、このサイファー・アルマシーが。
しかし、自分をイメージしたというピンヒールを見て、隣で別のピンヒールとその装飾の獅子を見て、ライオン好きの奴が固まったあたりで色々悟ってしまった。

 

この世界に獅子。もしくはライオンと称される生物は存在しない。

 

もしかしたら、遥か太古の昔にこの星に生きていたかもしれないが、現状として化石としても発見されていない。
雄々しき四肢を、気高き翼を、勇ましき鬣を、鋭き爪と強靭な牙を持つ、四足歩行の幻想の獣。
今や、世界で最も有名な幻獣となった、幻の生命体。
確実に存在したと言えない生物のせいで、獅子モチーフのあれこれは、大体がデザイナーのセンスで千差万別に変化する。
背に翼が無かったり、尻尾が無かったり、二足歩行であったり、カッコいいというより可愛かったり、動物というよりモンスターのような脅威的な姿であったりと、デザインの幅が広すぎる。
しかしながら、スコールの中には明確に〝獅子〟のイメージがある。
なんといったって、名前までついているほどだ。
由来が何処か分からないが、石の家で既に「ライオンすごい」とキラキラとした目で言っていた記憶がサイファーにはあるので、エルオーネ辺りに伝授されたと思っている。
ライオン好きのスコールは、自分の中にある明確なイメージ像に合っている、自分が気に入った獅子アイテムを収集しがちだ。主に自分が好きなシルバーアクセサリーで多く収集するが、それ以外でも気に入ったものは手元に置きたくなる傾向が強い。
要するに、コレクター気質なのだ。
だからこそ、カードに嵌ったとも言えるだろう。カードも世界中飛び回った時に、喜々として集めていたという。
つまり、スコールは好みの物を手元に置いておきたい収集癖がある。
そのスコールが、ピンヒールを持って固まった。ライオンの飾りを見て、じっくりと見つめ始めたのを見て、サイファーは顛末をいち早く悟った。
つまり靴職人には悪いが、

ライオンのデザインがスコール好みではなかったら任務は受理されなかった。

「サイファー」
今までの経緯をぼうっと思い出してたサイファーは、呼ばれて顔を向ける。
見れば、ピンヒールをしっかりと履き直したスコールが、椅子に座りながらサイファーを睨むように見ていた。
その顔に、コツを教えろと書かれている。
スコールの目は、素直なので分かりやすい。例え表情が動かず無でも、目を覗けば何を言いたいかはっきりと分かる。
なので、仕方がないから仕事をする。
別に、シドの顔に免じて、依頼を受けたわけではない。
本当は、このライオン馬鹿の顔に、「これが欲しい」と書いてあったから受けたのだ。
……まぁ、死んでも言うつもりはねぇけど。

 

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