❖ 騎士の献立 ~Hallowe’en 2024~ - 4/6

 

✟ トマトとツナと紫キャベツのブラックパスタ ✟

 

主食問題に手を付ける。
米でもパンでもいいが、どうせならハロウィンらしく、一風変わった物がいい。
特に、食堂と被らないようにしたい。
「パスタにするか」
ソースに一手間加えれば、それなりになるだろう。
……いやちょっと待てよ。
どうせなら、こう、インパクトがあるといいかもしれない。
食堂で見た事がなくて、あまり外の料理店でも見ないような。
「…………確か」
頭から引っ張り出したレシピで、工程を考える。
出来ないことはない。
ただ、面倒なだけで。
それでも、見るだけでインパクトはあるだろう。
「作るか」
下準備として、面倒だが作ってしまおう。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

あーだこーだと考えた所で、何も進まない。
とにかく、完成品を作ってみなければ始まらない。
失敗したら自分で食べきればいい。
「やるか」
備蓄しているトマト缶を引っ張り出す。ちらりと表記を見れば、ホールトマトだった。
カットトマトが手間がなくてよかったが、手に取ったのも縁だとして、使う事にしよう。
とは言えども、
……潰すか。
実がデカいのは、パスタソースとしては食べづらい。
大人なら食べ応えとしてデカくしてもいいが、今回の対象年齢を考えると潰すに限る。
鍋にホールトマト缶を二つ入れ、……三つ入れる。
仕事で忙しい時に、缶詰や冷凍野菜は時短という点で素晴らしい物なので、基本的には多めに蓄えている。文字通り、金で時間を買っている。
次に、ツナ缶も蓋を開けて、二つ入れる。油漬けのタイプだが、今回は油は切らず、そのまま入れる。
コンロに火をつけて、ホールトマトを潰しながら掻き混ぜる。ある程度、潰し終わったらそのまま煮詰めていく。
その間に、野菜を準備する。
「すげぇ色」
自分も食べた事がない、紫キャベツをまな板の上に置く。通常のキャベツより小ぶりなので、加工はしやすそうだ。
色はともかく、キャベツはキャベツなので、何とかなるだろう。
特に今回、野菜のキャベツとしてではなく、料理の演出として重要だ。完成品は予想はしているが、本当にそうなるか分からない。完全に試作として一面が強くなる。
包丁を手に取り、キャベツを半分に切る。
今回の為に購入した、大型のピーラーを手にする。
「おお」
食堂の人間に教わった、ちょっとした裏技だ。
切った断面に、ピーラーを押し当てて引くと、千切りができる。包丁でざくざく切るより、楽だ。ちょっとした事だが、大食いモンスターと化した人間がいるので、便利になるのは良い。
特にこういう、今まさに煮詰めている鍋の中に入れる時に、大変に便利だ。
紫キャベツの千切りを鍋の上で作りながら、切った部分から鍋に入る様を見送りつつ、食堂の職員に感謝を送る。風紀委員の時代から、何かと一品にアドバイスを貰えるのが、地味にありがたい。
全ての紫キャベツを千切りにして、ぐつぐつと煮詰まるトマトソースの中で、満遍なく混ぜていく。キャベツなので水分が出るが、煮詰めるので問題はない。
むしろ、それこそが欲しい要素が。
「…………うわぁ」
思わず声が出た。
自分でやった事だが、思ったより凄い。
現実逃避の如く、味を調えるために、塩と胡椒を入れて、コンソメも入れる。ぐつぐつ、ぼこぼこと煮詰まる鍋の表面が、既に地獄絵図のように思えてきた。
どんな料理であれ、変わった色を付けたいならば、色が出る野菜を入れればいい。
紫キャベツは、俺にレシピやコツと共にあの店の奴が教えてくれた、お手軽に全てを紫色に染める野菜だ。
トマトの赤と、キャベツの紫色が混じって、濁った不穏な赤色に染まっている。紫がかった赤というか、健全なトマトの色ではないパスタソース。
ツナ缶の油をケチらず入れてしまった事で、無駄にソースが光っているように見えるのも、不気味さを演出している。
そこそこ煮詰まり、色が濃くなったソースを、そっとスプーンで掬う。
熱すぎて湯気が出ているが、何よりも色が凄い。
自分でしたこととは言えども、ちょっと少し腐っているか考えたくなる色だ。ただ匂いは美味しそうなトマトソースなわけだが。
「ふー、……んっ」
熱々のそれを口に含んで、ゆっくり味わう。
……?
想像以上に、なんとなく味がぼやけてる。
何か原因があるかと考えて、原因候補は一つだけだ。
……紫キャベツの水分だな。
思ったよりも水が出ていたらしい。煮詰めていたとしても、綜合的に味がぼやけてしまっている。
ならば、どういう方向性で修正するべきか。
味をちょっと調えるだけは、味気ない。
色のインパクトはある。
しかし、味にインパクトは必要はない。
「……あ」
冷蔵庫に眠っている物を思い出した。
それを追加すれば、水分の多さは誤魔化せそうだ。色のインパクトも、問題はない。
胡椒を追加で入れてから、冷蔵庫を開けた。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

スコールは、かつてない試練が来たと思っている。
最近、サイファーがイデアからの依頼で忙しいので、自室でしか会えないのが寂しい。
それはそれとして。
仕事から帰ってきたら、必ず「おかえり」と言ってくれる事を満喫している。
サイファーは気づいていないだろうが、凄く穏やかに笑いかけて出迎えてくれるのだ。
それが凄く、心を穏やかにしてくれる。
サイファーの近くは呼吸がしやすくて、居心地がいい。
帰ってきたと、強く実感するぐらいに安心する。
……とは、言えども。
帰ってきて、着替えて、夕飯を食べるべく共用エリアのテーブルに来たが。
サイファーが出してくれる料理は、全部美味しく頂くと、深く心に刻んでいるけれど。
「サイファー」
「あ?」
「…………ついに、モンスターの血を使ったのか?」
「んなわけねぇだろっ!」
「だよな」
さり気なく、顔面に飛んでみたフォークとスプーンを掴む。
そっとカトラリーをテーブルに置く。
心外だと顔を顰めている、スプーンとフォークを投擲した男に謝りつつ、スコール・レオンハート。控えめに着席。
気分を切り替えて。
匂いは、とても美味しそうだ。
ただ、
「………………見た目、すごいな」
ちょっとスコールが冷や汗をかく程度に、視覚効果が凄い。

――――本日の夕飯は、特別製のパスタ。

赤なのか紫なのか、ドス黒く思える赤いパスタソース。
その盛り上がった山の上に、サイコロ切りにされたクリームチーズがこんもりと盛り付けられている。しかも、熱で溶けた部分のクリームチーズがどろりと流れ落ち、不気味な赤いソースの演出を強調する。
そして何よりも一番インパクトがあるのが、
「……黒いな」
平たいパスタ麺が、黒い。
とにかく黒い。
パスタソースが赤いせいで、余計に強調されている、黒々としたパスタ麺。
「これ、どうなってるんだ?」
「どうなってるって」
氷の入った炭酸水に満ちたガラスコップを二つ持って、テーブルに並べていたサイファーが首を軽くかしげる。
「作ったパスタに、色を練り込んだだけだ」
「黒い色に出来たのか?」
首をかしげて、スコールは頭の中で候補を考えてみるが、生憎と料理知識は乏しい方だ。まったく思い浮かばずに、困惑しているスコールを見ながら、サイファーは椅子に腰かける。
「竹炭パウダーだよ」
「ちくたん?」
「竹の炭。それをパウダーにした食用の物だ。無味無臭だから、味の邪魔はしない。ただ、全部が黒くなるだけだ」
「へぇ」
ちょっと不安でドキドキする心持ちで、スコールはフォークを握った。もう片方の手で、スプーンも握る。
まずは、味だ。
ごくりと、ここ一番の大事な戦闘前のような緊張感を生唾と共に飲み込んで、パスタをフォークとスプーンで持ち上げる。
ずもっと重量のある手応えが、心地よくて、スコールはうっとりとしてしまう。
市販の乾麺パスタにはない、サイファーの作ってくれる自家製もちもち平麺だとわかる、この魅惑の重量。
鼻を擽る匂いだって、絶対に美味しいと訴えてくるのに。
……色が。
美味しいものを食べられるワクワクと、予想がつかない物を食べさせられるドキドキが、同時に心を揺すって落ち着かない。
しかしながら、食べなければ始まらないので。
パスタの麺とソースを混ぜている間にも、ソースと麺の色が変わっていく。
「……ぉぉ」
思わず声が出てしまう。
クリームチーズが溶けていき、ドス黒く見える不穏な赤いソースに白色を混ぜ合わせ、黒い麺がより強く、その白い部分を強調する。
それを意図的に無視して、ぐるんっとフォークにたっぷり麺を巻き付ける。
不気味なソースごと、たっぷりと巻かれたそれを、スコールは顎を大きく動かして一息にかぶりつく。
色を考えずに舌と歯で、口内いっぱいで頬張って、たっぷり味わう。
ベースは色から想像していたが、やはりトマトソース。
噛み締める時に、ぐじゅりとした舌触りは、きっと潰れたトマトの果肉。そのトマトの海にいるのは、主張が強いツナと、恐らくキャベツ。
そして、それに追加で横滑りに介入する、まったりとした食感のクリームチーズ。
色彩からは想像がつかない、味としてはよく纏まっている。
いつも通り美味しい、スコールが大好きな〝サイファーの料理〟だ。
特に、見た目からは全く想像できない黒いパスタ麺の、けれどいつも通りの味と、もちもちとした約束された美味いパスタ麺。
……結論、美味しい。
「んっ、んむむぅ」
二口目を頬張る。
とろーんっと糸を引くように溶けていく、クリームチーズのせいで、ソースの味が良い意味で安定しない。クリームチーズの多い時と、少ない時の味の移り変わりが楽しい。
よくパスタにまぶす、粉チーズでは味わえない感覚だ。
「ん!ん!」
三口目。
何度も食べさせてもらっているが、サイファーのこの平たいパスタ麺は、本当に美味しい。
歯ごたえというか、もちもちとした食感が面白い。パスタは乾麺が中心の食堂では、味わえない麺だ。
「はむっ」
四口目。
食べ進める程、クリームチーズの量はもちろん減る。けれど、溶けだしたクリームチーズの粘りが、トマトソースに溶け込んで、どんどんパスタ麺に絡みやすくなっていく。
千切りのキャベツも、ソースと一緒によくよく麺に絡みつきやすい。麺と一緒に口の中に入ってくるのが、面白い。
「んんん~!はふっ」
熱々のまま頬張ったので、口の中が熱い。火傷はしていないが、一端リセットする為に、サイファーが容易してくれていた炭酸水を飲む。
ぱちぱちと弾けるのが、心地いい。
サイファーと同室になるまでは、ジュース系でもアルコール系でもない、ただの水の炭酸水は飲んだことがなかった。
この刺激があるただの水が、食事中に飲むと美味しいと感じてしまう感覚。それがなんとも不思議だが、悪くはない。
「ぷはっ」
思わず、一気飲みしてしまった。
口端と唇についたソースを指で拭って、舌で舐める。
「あ」
気が付けば、スコールは半分以上、パスタを食べ進めていた。
夢中でまた食べてしまった。
……しまった。
恐る恐るサイファーの方を見れば、もぐもぐとパスタを食べていた。
形のいい、男らしい唇が開いて、ソースを零すこともなく口の中にパスタが入場する。
しっかりと噛み締めながら、うんうんと小さく頷いて食べている様が、スコールにとって見惚れる程に。
……綺麗だ。
何度見ても、スコールは思ってしまう。
サイファー・アルマシーは、食べ方がとても綺麗だ。
もちろん。男らしく豪快に食らいつく時も見た事がある。今の様にカトラリーを使って食べている時だって、よく知っている。
けれど、どのような食べ方であっても。
どうしてだか、凄く、綺麗に見える。
パスタを撒くのも、スコールとは違ってきちんと一口分だ。
だからこそ、スコールとは食べるスピードが全然違う。
スコールが食べ終わる事が多い。
だから、この時間はちょっとした贅沢な時間だ。
サイファーが食べる姿を、じっくり独り占めできる、贅沢な日常の一コマ。
寮の自室の外、食堂で食べる姿とも違う。
ガーデンの外で、外出する時とも違う。
風神や雷神と、一緒に食べている時の姿とも違う。
自然体の姿のまま、自分の納得する味や料理を研究・考察して、趣味として楽しんで食べている。
人前で努力している様を見せる事がないサイファーが、試行錯誤している姿を見る事が出来る。
見る事を、許されている。
とても贅沢な時間だ。
「どうした?」
「え?」
「足りなかったか?」
サイファーが、スコールを見ていた。
皿の中身が半分以上、さくっと消失している様を見ているサイファーに、スコールは笑いかけた。
「大丈夫だ」
心もお腹も、いっぱいになる。
こんな日常を過ごして、イベントを企画して、それに巻き込まれている。
ふとした時に実感する〝贅沢な時間〟が、なんだか擽ったい。
そわそわする気分を誤魔化すようの、スコールはパスタの残りを大きく口に含んだ。

 

当初の困惑は、どこへやら。
美味しそうにパスタを頬張るスコールに、味は問題なかったことを確信して、サイファーは採用する事にした。
これでやっと仕事が終わるなと安堵しつつ、パスタを口に放り込む。
思ったより美味しかった。

 

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