❖ 騎士の献立 ~Hallowe’en 2024~ - 3/6

 

✟ お化けのスコップコロッケ ✟

 

ハロウィンと言えば、かぼちゃとカブだ。
その中でも、元祖ともいえるセントラ式ではカブが多いので、伝統を大切にする場所ではカブが多い。
ただし、最近では加工向きの大型種が多く入手も容易な事で、トラビア式が採用したかぼちゃのイメージが強くなっている。
中でも、かぼちゃのお化けこと、〝ジャック・オー・ランタン〟の存在が子供の間で話題になったことも強い。
やはり子供に流行らせるなら、キャラクター性を大切にするべきだという、実感話だ。
しかしそうとは言えども、料理の世界では難易度が高い。
なんせ、カブもかぼちゃも、加工方法など先人が網羅しすぎている。
ハロウィンだからと、そればかり使えば、子供はすぐ飽きてしまう。
ならばどうするか。
候補の料理をメモしていたメモ用紙に、トントンとペンの頭をリズミカルに叩きつつ、考えていたサイファーは一つ頷く。
「……単純にいくか」
変わり種ばかりより、単純な物の方が、食べやすそうだ。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

まずは器選び。
とは言えども、大した器など持っていない。男一人寮生活改め二人になった所で、お洒落な器など率先して集めはしない。
「これでいいか」
無難な四角形の耐熱皿を引っ張り出す。そこそこ大きい器のサイズを見て、あいつの食欲を考える。
……二人で分けるなら、足りねぇな。
序でに、本日の夕食になる予定なので、これ一品では確実に足りない。
冷蔵庫の冷凍室や野菜室から、必要な食材を引っ張り出しつつ、本日の献立を組み立てていく。
使う野菜をざっと水洗いして、シンクに並べて置いておく。
まずは野菜室で選んだ人参の皮を剥く。だいたい一㎝幅になるように切る。太い部分は輪切り。細い部分は荒い微塵切りに。
これを数本分、同じように下拵え。
輪切りにした分だけをまな板に残して、微塵切りにした分はボウルに移す。
……俺様が、〝これ〟を購入することになるとは。
必要経費として購入したので、自分の金を使ったわけではないが、購入履歴に残る不服さよ。
少しだけ複雑な気分を味わいつつ、野菜用の型抜きを手に取る。子供受けしそうな、小憎らしくも可愛くデザインされた、コミカルなお化けの形をしている。
深く考えたら負けそうなので、無我の境地で人参に型を押し当てて、型抜きを繰り返す。
全ての型を抜き終わったら、端切れを適当に微塵切りにして、ボウルに追加する。
鍋に人参を入れ、全ての人参が沈むギリギリの量まで水を入れる。
塩と砂糖を入れて、中火で沸騰するまで煮る。
水が沸騰したら鍋を掻き混ぜて、さらに水分を飛ばすように煮詰める。水が無くなってきたら、適量のバターを投下。
溶けたバターが人参に絡んだ頃に、人参お化けのグラッセが完成。
これは冷めてもいい。
一先ずシンクに置いた鍋敷きの上に、鍋ごと安置。
次。
深い鍋の中を、たっぷりの水で満たして、コンロの上に。
洗っておいた皮つきのジャガイモの芽を取り、皮に薄い切れ目をぐるりと一周入れる。これを今回使用するジャガイモの分だけ繰り返し、処理が終わったジャガイモは鍋の中へドボン。
全ての下拵えが終わったら、コンロに火をつけて、水からジャガイモを茹でる。
目安として、タイマーをセット。
その間に、玉ねぎを微塵切りにして、人参が入っているボウルへ投下。
フライパンを用意して、パン粉の袋から適量を取り出して、フライパンへ投下。パン粉を自力で作る気力は、ちょっとなかった。
フライパンでパン粉を中火で炒る。程よくパン粉が焼けて、美味そうなこんがりきつね色になったら、スープカップにパン粉を一時避難させる。
空いたフライパンに、油を引いてボウルの中にある人参と玉ねぎを投下。少し炒めたら、挽肉も入れて、火を通していく。
途中で、塩と胡椒を中心に調味料を入れて、味を調えていく。
タイマーが鳴った。
ジャガイモの鍋の火を止める。
十分に火が入ったフライパンの中身を確認し、こちらも火を消す。
穴開きのレードルでジャガイモを拾い、まな板の上に次々と転がす。熱いジャガイモを水に晒しながら、手で皮を剥いていく。綺麗に皮を剥いたジャガイモは、人参と玉ねぎが元々入っていたボウルに移していく。
「ふー」
少し、一呼吸。
マッシャーを手に取って、ジャガイモをボウルの中で潰していく。
日頃のちょっとしたストレス解消の為に、思いっきり潰すのはいい。
綺麗にジャガイモをマッシュ出来たら、フライパンの中身を全てと、牛乳を少々入れて、ひたすら馴染むように混ぜて、タネを作っていく。
程よく纏まったら、四角形の耐熱皿にボウルの中身を全て入れる。
平らに慣らして、一時的にスープカップに入れていた、炒りパン粉を全て投下。タネが隠れるように、パン粉を満遍なく広げる。
香りづけに、オリーブオイルを塗す。
流石にトースターには入らないので、電子レンジのモードチェンジにて、オーブンを選択。
オーブンにぎっちり中身が詰まった耐熱皿を入れて、適当にタイマーをセット。焼き始める。
その間に。
冷蔵庫から卵を二つ取り出す。
スープカップに一つづつ卵を落として、よく掻き混ぜる。
味を調える為に、コンソメを投下。こういう少し足したい時に便利な、乾燥した葱の袋も開けて、スープカップに適当に入れる。
電気ポットで沸かしたお湯を、二つのスープカップに注ぐ。
少し掻き混ぜた後に、小皿を蓋として活用。放置しておく。
タイミングよくタイマーが終わったので、オーブンの蓋を開ける。
耐熱皿を、キッチンミトンをはめた手で引っ張り出して、シンクの上に。
主食は、買い置きしておいたカンパーニュ。
ハード系のパンなので、適当にスライスして、軽くトースト。タイマーを回す。
その間に、テーブルにできた料理を運んでいく。
「……忘れてた」
耐熱皿を持ち上げる前に、シンクの隅に置いておいた鍋から、人参のグラッセを取り出す。
最後の飾りとして、満遍なく配置する。
これで、今度こそ完成。
「……………………………………やべぇな」
見た目が本当に、なんだかどうしようもない。
自分が作ったとは思えなくて、苦笑してしまった。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

「可愛いな?」
「うるせぇ」
ジャンク屋に注文していたガンブレードの部品を取りに出ていたスコールが、帰宅後のテーブルの上を見て告げた一言に、サイファーは眉間に皺を寄せて吐き捨てる。
二人の食卓の真ん中。
存在感を出す、大きめの耐熱皿に入った、スコップコロッケ。
その上に散りばめられた、お化けマスコットの形にくり抜かれた人参グラッセが、何とも言えない主張をしている。
更にミスマッチな事に、しかし料理名としてはマッチしている、小分け道具。
スコップコロッケを、それぞれの小皿に取り分ける為のミニスコップが、ぐっさり刺さっていた。
しかもそれは、スコールが日常の中で使っている物だった。
「サイファー、これ」
「雰囲気重視で」
「いやサイファー。……これ、氷を掬うアイススコップ」
「試作だから、雰囲気重視だっつってんだろ」
「……買おうな。なんかいい感じの、小道具」
「…………食堂になら、あるかもしれねぇよ」
「後で確認しよう」
いそいそと座りながら、一先ずスコールはスープカップに手を付ける。
ふんわりと固まった卵と、固まることなく湯と共にスープとなった卵液。優しいコンソメの味と、アクセントの葱がいい。
疲れた体に、じんわりと染み渡る。
どこかホッとする味に、スコールはほわっと気の抜けた顔をした。
スコップコロッケを見ている時は、どこか仕事モードだったのに、一気に指揮官様の化けの皮が剥がれ落ちた。
簡単に作った卵スープだったが、こういうちょっとした時に追加するスープとしては、優秀なレシピで重宝している。
余裕があれば、冷凍野菜から具材を追加もするが、今回はしていない。
サイファーは一先ず、スライスしたカンパーニュを口に入れた。
適当にバターを塗っていた物だが、普通に美味しい。
ハード系のパンも好きだ。噛み応えもあるし、食べ応えもいい。
特に今日は、歯ごたえがない物がメインの為、食感の違いも意識している。
「……おぉ」
もっぎゅ、もっぎゅと、サイファーがパンを噛み締めていると、ミニスコップでスコップコロッケを掬ったスコールが感嘆の声を出した。
スコップコロッケは、要するに〝揚げないコロッケ〟だ。
極端な話、コロッケの材料を耐熱皿に入れて、パン粉で蓋をすれば完成する。コロッケの種類は豊富だ。故に材料が同じ、コロッケスコップもやろうと思えば多種多様にできる。
ハロウィンという事で、かぼちゃのコロッケも考えたが、あまりにもかぼちゃだらけも子供が飽きるだろう。
どうせなら、一風変わった物を出しつつも、味は安心できる物が一つぐらいあってもいい。
コロッケは、バラムの食堂でも小さな子供に人気が高い料理だ。
人参が少し嵩張るが、そこは我慢して食べてもらおう。人参嫌いでも、ちょっとでも挑戦してくれたらいい。もしくは、形に惹かれて口に入れてくれたら御の字だ。
どこかソワソワしたスコールが、スコップコロッケを掬って、自分の小皿に入れる。丁寧にパン粉も一緒に零れないように掬っていく。
こんもりと小皿に盛ったコロッケを見て、スコールはスプーンをしっかりを手に握る。
味が薄い時の為にと、気が利きすぎるサイファーが用意してくれた、ソースにケチャップ、塩胡椒はかけない。今回は、そのまま一口入れる。
スプーンをコロッケの山に入れる。
さくっとしたパン粉と、しっとりとしたコロッケを上手にスプーンにたっぷりと乗せて、大きく開けた口にスコールは放り込んだ。
「……ん?」
普通のコロッケと、少し違う。何が違うのかよくわからないが、食堂のコロッケより、しっとりしている。味も材料もコロッケなのに、食べ方が違うからコロッケじゃない気がしてくる。
優しい味がするが、ちょっと自分には物足りないので、スコールはソースをかけてみる。
二口目。しっかり味が馴染んで、二口目が美味しい。
今度はケチャップをかける。三口目はまた違った味がして、美味しい。
塩胡椒もかけてみる。ちょっと味が濃くなってシンプルな美味さ。
普通に美味しい。
美味しい。
「……はっ」
「なんだよ?」
「サイファー、これはあぶない」
「何が?」
「消える」
「……は?」
「消える」
消えるんだ、と小声で言いながら、ミニスコップを手に取って、スコップコロッケを小皿に盛り続けるスコール。
……お前の腹に入ってるだけだろ。
せっせと動くスコールを見ながら、ケチャップをかけたコロッケをスプーンで掬って、カンパーニュに塗り付ける。もったりとコロッケを乗せたカンパーニュを、大きく口を開けて食べる。
サイファーが思った通りに、これはこれでコロッケサンドのようで美味いなと。
自己満足を感じつつ、スープカップを一口。
飾り重視として作った人参グラッセと組み合わせるのは、少しどうかと迷ったものだ。
結果としては、想像よりも美味いので良いだろう。
二口目を食べようとしたサイファーの、その視線の向こうで。
なんだその食べ方……!と、驚愕に目を見開くスコールがいる。
一切口から言葉は出ていないが、なんて分かりやすい動きだ。
もしかしたら自分が思うよりも、スコールは食事に全力なのだろう。
存分に食事を満喫している姿に、思わず喉の奥で笑ってしまった。
羞恥からか、頬を赤く染めているスコールに睨まれるが、ちっとも怖くなかった。

 

すっかり空っぽになったスコップコロッケに、採用を決める。
食べ方と味を自由に選べるように、味を変えるためにソースやケチャップなど、種類を用意しておくと決めて。
とりあえずスコールに受けがいいので、また作ってやろう。
ジャガイモを潰すのは、押し付ける事にして。

 

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