✟ バターナッツかぼちゃの丸ごとグラタン ✟
討論を重ねる事、3回。
のらりくらりと辞退したくて、明言を避ける事、5回。
それでもと、頼まれて断り切れずに、途方に暮れた夜が二回。
俺も手伝うからと、メインは戦力外だがサポートは万全にできそうな同居人の顔を見つめる事、一回。
……やるか。
現実逃避を、一回。
ふぅっ、と自然と零れた溜息を吐いて、エプロンをつける。
今回は試作品だ。
気負わず、いつも通りに作れば大丈夫だろう。
とか言い訳を重ねつつ、せっかくだからと奮発したせいで、使った事のない食材を選んだのは誰だ。
……俺だな。
どうせなら、普段は見ない食材を見てもらうのも、きっと刺激になっていいだろう。
そんな事を自分らしくないと思いながらも、ふと考えてしまったせいで、仕事が増えたわけだが。
自分で自分にツッコミを入れつつ、身体は作業の為に動く。
そっと置いてもごとんと鳴る程に、そこそこ重たい食材をまな板の上に置く。
綺麗に水で洗う。特徴的な見た目なので、そこそこ念入りに。
ラップを取り出して考える。
一人二人の少人数なら構わないが、今回は数がいる。電子レンジで加熱するのは現実的じゃない。業務用の物でもないので。
「……セイロでいくか」
作戦を変更する。レシピを見たが、要するに熱が通ればいいのだから。
セイロを取り出して、鍋を用意して、水を満たして……と、いつも通りにセイロを使う時の手順でセット。洗った食材を投下し、蒸気で蒸していく。
一先ずの目安として、タイマーで10分をセットしてスタート。
その間をどうしようか考えつつ、他の下拵え。
玉葱を薄切りに、ベーコンも角切り。ざくざく切る。
あっという間に作業が終わり、さてどうするか考える。
「……そういえば、主食ねぇな?」
試作品とは言えども、本日の昼食だ。
「…………ライスでいいか」
腹に溜まる方を選択するとして、冷凍庫を開ける。常備している冷凍白米を二つ分取り出して、電離レンジにセット。タイマーを設定してスイッチオン。
そうこうしている間に、タイマーが鳴った。いったん、セイロの蓋を取る。ぶわっと遮られていない白い蒸気が顔を擽り、視界を白く染める。仄かに香る蒸した野菜の、独特の香り。
熱いので、キッチンミトンをはめて、両手で持つ。
ふわりと香る、嗅ぎなれない匂いは嫌いではない。
まな板の上に置いて、改めて見る。見慣れた形でも色でもない代物。かぼちゃの一種の中で、この地方では変わりものの一つ。
細長いひょうたん型の、バターナッツかぼちゃ。
そこそこ大きいそれが一つ、どんっとまな板の上にある光景は、少し笑えてくる。
「さて、と」
問題はここだなと、包丁を手に取る。先程、ざくざく玉葱も肉も切れたので、切れ味は抜群だ。
そもそも、ガンブレード使いとして、刃物の取り扱いは得意である。
ぐっと力を火れて引けば、思ったよりも抵抗なく刃が通った。硬い実が柔らかくなったことを実感して、セイロの偉大さに感謝しよう。
慣れない形なので、少し不格好になったが、レシピ通りに縦半分に斬れた。
包丁を置いて、スプーンを手に取る。
片手でかぼちゃを支えて、もう片方の手で、鮮やかな橙色の実にスプーンを通す。
思ったよりすんなりと入ったので、種を取り除く。食べられる果肉はスプーンで取り出して、別の容器に移す。もう一つの半分も、同じように繰り返す。
そこそこ綺麗に中身をくりぬけたら、下拵えは終わりだ。
……このくりぬくの、練習しないとまずいな。
不格好な二つを見下ろして、今後の課題として頭にメモをする。
気を取り直して。
フライパンを取り出して、コンロにセット。火をつけて、バターを適当にいれる。
温まって、バターが綺麗に溶けたら、玉葱とベーコンを投下。
玉葱がそこそこしんなりとして、ベーコンも火が通ったら、薄力粉を入れる。バターと薄力粉がだまにならないように、丁寧に掻き混ぜながら、全体を馴染ませる。
「……コーンいれるか」
思い付きだが、追加で野菜を追加する。
棚からコーン缶を取り出して、汁を切って投下。
具沢山の方が、食べ応えがあっていいだろう。色彩も増えるし。
では、再開。
適量の牛乳を注ぐ。全体をよくかき混ぜて、だまにならないように注意。
徐々にとろみがついてきたら、くりぬいた中身のバターナッツかぼちゃと、塩を入れて混ぜる。
真っ白なホワイトソースが、もったりとした艶と共に、薄く色がついていく。
取り出したスプーンで、ひと掬い。
湯気が出て熱いと分かるそれを、ふーふーと息を吹きかけて冷まして、口に入れる。
……まぁ、初めてにしては。こんなもんか?
ただ、コーンを入れたせいか。薄い気がするので、塩を少し追加しておく。
「問題はこれだよな」
お綺麗に飾ったことなどないが、やるだけやるかと気合を入れる。
くりぬいた器になるバターナッツかぼちゃに、出来上がった中身を入れていく。なるべく零さないように、慎重に。
綺麗に分けられたら、その上から程よく溶けるタイプのチーズを盛る。
「しまった」
……余熱、忘れてたな。
そもそもライスを電子レンジで温めていたので、一体型オーブンが使えない。調理設定を今からするのも、なんだか面倒だ。
溜息をつきつつ、自分の持つ調理家電を振り返る。
「…………できるんじゃねぇか?」
レシピでは、予熱したオーブンで焼けと書いてあるが、トースターでも行けるのでは?
問題は熱が通るかだが、バターナッツかぼちゃ自体はセイロで蒸し終わっているので、柔らかいから問題なし。
ようするに究極的な事を言えば、上に盛ったチーズが溶ければいい。
「よし」
食い気により、ちょっと大型のトースターの蓋を開ける。
流石に二つは一気に入らないので、一つ目を乗せて、タイマーを回した。
様子を見ながら焼いていけばいいだろう。試作だし。
―――――――― ▼ ――――――――
細長いひょうたん型の、バラムでは珍しいその形を、まじまじとスコールが見下ろしている。
焼き上がったトロトロのチーズの上に、パセリと粗挽き胡椒を散らしてある。
目的の為に、比較的に控えめに降ったので、お好みで粗挽き胡椒を追加しろと思いつつ、テーブルには瓶を置いている。
ちなみにサイファーは追加で胡椒を振った。
「これ、なんだ?」
「バターナッツかぼちゃ」
「……ナッツ?」
「ちげぇよ。かぼちゃの一種だ。匂いがナッツ系なんだよ」
「へぇ」
大皿にでんっと乗った、バターナッツかぼちゃを丸ごと使った、贅沢なグラタン。一つを二人で分けているので、美しく真っ二つだが、見た目はそこそこにいいと思う。
普通のかぼちゃを使う事も考えたが、恐らく見慣れているだろうし、変わり種を使ってもいいだろう。
「皮も薄いからな。全体的に蒸かしたし、丸ごと食えるぜ」
「……面白いな」
ライスもお茶も用意した。
食べるに準備に不足はない。
まじまじと眺めているスコールを尻目に、サイファーはナイフを入れる。
思ったよりも綺麗に斬れた。器が斬られた事で、詰まっていたグラタンが、とろりと零れていく。
溶けたチーズを絡め取り、グラタンも皿から拭うように掬って、フォークに乗せて食べる。
思ったより熱い。はふっはふっと口の中の熱を逃がしながら、力を入れずに噛み締めれば、ほろほろとバターナッツかぼちゃが砕けて、グラタンと馴染んでいく。
バラムで見慣れている形のかぼちゃにはない、どこかナッツを思わせる香りに、バターのようなねっとりとした舌ざわりと、滑らかな食感。
レシピを調べた時に、お勧めの食べ方として、バターナッツかぼちゃはポタージュがいいと書いてあっただけはある。グラタンに混ぜたバターナッツかぼちゃの実の部分も、程よくトロトロと良い味が出ている。
この丸ごとグラタンも、バターナッツかぼちゃのお勧めの食べ方の一つだったが、意外と美味い。
……見た目のインパクトもあるし、これはいいんじゃないか?
米を口に含んで噛む。舌に残るグラタンの味と混じって、なんとなくドリアのような感覚がする。
……主食の組み合わせを考えねぇと。
これは、一品料理で出した方がいいかもしれない。主食は別で作るほうが、見た目のインパクトが印象に残りやすい。
そこまで考えて、サイファーはもぐもぐと食べながら、一つ頷く。
「なぁ、スコー」
ル、と言いかけて、サイファーは口をつぐんだ。
――――無い。
いや、言葉に語弊がある。
無くなったわけではない。
ただ、サイファーが一口を食べながら考えている間に、スコールのグラタンが四分の三、消失しているだけで。
そっと二口目を切り分けながら、様子を伺う。
もっもっもっも、と両頬をぱんぱんに膨らませて、うんうん頷きながら食べているスコールがいる。
よく見ればライスも、もう半分以上が無くなっている。
「んっ、んむぅ?」
「……食い終わったらでいい」
もっぐ、もっぐ、と口を大きく動かしながら、こちらを見るスコールが面白くて。
美味しいとよくわかる有様が、なんだかくすぐったくて。
自然と零れた笑みを浮かべながら、サイファーも二口目を口に含んだ。
今回のメニューは採用しよう。
そして、次に作る時は、スコール好みに肉を多くして、塩胡椒を強めにするかと考えながら。

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