❖ 指揮官専属キッチン・ALMASY - 5/8

 

✟ ツナマヨコーンのチーズホットサンド ✟

 

ぺらぺらと古びた本を捲る。
バラムガーデンの図書室の一角。忘れられたような角棚にあった、地域料理の紹介書物。他国の文化を知る為の資料の一つなのだろうが、サイファーにとっては好奇心のための材料だ。
借りてきたそれを読みながら、頭の中で材料を考える。
料理を趣味にしてよかったと思うのは、こういう食べたいという好奇心が出た時に、その手段がなんとなく頭に浮かぶことだ。
「何、読んでいるんだ?」
「抱きつくんじゃねぇ」
そういいながらも、サイファーは振り払わない。やっても無駄だと、もう悟った。
「だって眠いんだ」
時刻は、朝の7時。
くわり、と耳元で欠神が聞こえる。まだまだスコールは眠いらしい。
……で、それが俺に抱き着く事と、何の関係がある?
喉から出力される寸前の言葉を、そっとサイファーは飲み込んだ。
サイファーが座っているソファーの背中側から抱き着いてきて、するりと頬を寄せられる。その仕草そのものが、既に猫じみている。
猫を飼ってないのに、飼ってる錯覚がひどい。
「何か作るのか?」
「考え中」
するするとスコールの手が、サイファーの身体を這う。
ほうっと万感の感情を込めながら、零される吐息にぞくりと背筋が粟立つ。そしてスコールの手は、サイファーの胸に到達すると、むぎゅっと軽く掴んでくる。揉むというより、形を確かめる様に掴んでくるので、それが何だか癪に障る。
イラっと苛立ちを発する前に、するりと手が離れていくので、怒るタイミングが毎回なんとなく消えている。
そのまま、脇腹や場合によっては背中など、あらゆる体のパーツに手が這っていく。まるで形を確かめるようなそれに、毎回サイファーは眉間に皺を寄せている。
……奇行がひどくなったな。
ストレスが溜まりすぎているなら、訓練施設に引っ張っていくべきかと、内心で首をひねる。
こいつも俺と同じだ。暴れれば、しばらくすっきりするはず。
「なぁ」
呼びかけと同時に、はぁ…と熱い吐息が首にかかる。
サイファーがちらりと視線を向けた先、眠いのかトロリと溶けた瞳が、サイファーに向いている。
「サイファー、俺」
ビービービービー!というアラートが鳴り響いて、一気にスコールの顔面が、すとんっと無表情に落ちた。
緊急の呼び出し音だ。
サイファーが自分の情報端末を見るが、サイファーの物は鳴っていない。ということは、スコールの指揮官としての立場が必要な案件なのだろう。
するりとサイファーの身体から、スコールの両手と身体が離れる。無表情で情報端末を取り出したスコールの目が、どんどん冷たさを帯びていく。
「…………くそが」
盛大に舌打ちをして、スコールがふらりと自室に戻っていく。支度をするらしい。
ごそごそと動く気配が煩い。不機嫌だと全身で訴えている雰囲気が、部屋越しにこっちまで届きそうだ。
……あの空気のまま、出動されても困るだろ。
頭で考えたのは一瞬で、行動するのも同時だった。反射的に動き出した身体に従って、サイファーはキッチンに向かう。
棚からツナ缶とコーン缶を取り出して、適当な皿に全部入れる。冷蔵庫から迅速にマヨネーズを取り出して絞り、一気に皿の中身を混ぜていく。
食パンを二枚取り出して、フライパンタイプのホットサンドメーカーをコンロで熱する。
取り出した食パンにマヨネーズを塗り、一枚をホットサンドメーカーに乗せる。その食パンの真ん中にマヨネーズを混ぜたツナコーンをざっくりと盛る。
盛った具材に被せる様に、マヨネーズを冷蔵庫に仕舞う序でに取り出した、スライスチーズを被せてしまう。その上にもう一つの食パンを置いて、ホットサンドメーカーの上部分を閉じて固定。
後は、焼く。
取り出したアルミフォイルを引っ張り出して、備え付けの刃で切る。
皿と弁当箱の代わりだが、持っていくだけなら、荷物にならないこちらがいい。食べたら捨てればいいのは、どこに行くか分からないという点では便利だろう。
間に合わないかと思ったが、間に合いそうだ。
どったんばったんとスコールの部屋から、格闘する音が聞こえる。
大方、服がないかヘアスプレーがないか、身嗜み道具がどっかに行ったんだろう。だからあれ程に、一度整理しろと言ったのに。自業自得だと頷いて無視。
食パンの焼けた匂いがする。
そろそろいいかと、ホットサンドメーカーをひっくり返す。上になっていた部分を、コンロの直火で熱していく。
蓋を開けてみると、程よく焼き目が付いたホットサンドが目に飛び込んでくる。ホットサンドメーカーをコンロから離して、火を消す。そのまま中身をまな板に引っくり返して、優しく落とした。
上下の食パンの耳が張り付いて、しっかりとサンドされている事が確認できる。
「よし」
一つ頷いて、包丁を取り出す。そのまま、熱々の状態で刃を入れる。
本当は時間を置いた方がよさそうだが、そんなこと言ってもいられなさそうだ。
切れ味のいい包丁で、ホットサンドを半分に切断する。左右に分けると、とろりとチーズが糸を引く。適当に焼いたが、よく焼けている。
二つになったホットサンドを、其々個別にアルミフォイルで包む。
まだ余熱があるが、大丈夫だろう。二つになった銀の塊を、さらにラップで包み、ランチボックスが入る保冷バックに突っ込んだ。
ほぼ同時に、慌ただしくスコール自室の扉が開く。ガンブレードケースを片手にして、SeeDの正装に身を包んでいる。どうやら緊急は本当らしい。
眉間に皺を寄せているスコールに、保冷バックを無言でぶん投げた。
反射的に受け取ったスコールが、ちらりとこちらを見るが、何も言ってやらない。ひらひらと手を振って見送ってやれば、ますます不機嫌になっていく。
「……ありがとう」
不機嫌な顔で、眉間に皺を寄せて、苛立ちを全身に纏いながら。
それでも礼を言って、慌ただしく出て行ったスコールに、苦笑する。
「……あ」
ふと、見送ってから気づいた。
今日の昼飯は、スコールのリクエストだった。
なるほど、不機嫌になるだろうなと、サイファーは納得した。
確かにスコールの不機嫌の理由は、リクエストの料理を食べられないこともあった。
けれど、最も不機嫌になった理由は違う。
そのことに、サイファーは気づかなかった。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

考えなくても分かる。
初手で、おそらく自分は失敗したのだ。
彼の視線は、どうあがいても変わらなかった。引っ付いてみたり、胸を揉んでみたりと、色々と積極的に分かりやすく動いているが、全て奇行として目に入っているらしい。
鈍い。
鈍すぎる。
舌打ちが思わず出る。
サイファーへの罵詈雑言を頭の中で並べても、それでも身体は動きを遂行する。バラムガーデンが所有する車に乗りこんで、目的地まで向かう。
車の中で、情報端末をぽちぽちとキーを押して操作する。そこにずらりと並ぶ評価に、現実を横に置いて小さな幸せを感じてしまう。
サイファーは、きっと知らない。
興味もないだろう。
自分が、どう呼ばれているのかを。
世間から、自分がどう見られているのかも。
ふふ、と小さく微笑んだ。
気分が悪い事も、チャンスを逃した事も、帳消しにできる程に嬉しい。
あとは、現実で捕まえるだけだ。

『やりすぎだよぉ~!スコール! ><』
『やり過ぎても足りない』

届いた秘匿メッセージに、意気揚々と返信をする。
十分な牽制が出来た事に充足感を感じながら、スコールは保冷バックを開く。
そこから出てきたアルミフォイルに、その中身に、へにゃりと眉が下がる。

――――本当に、責任を取らせたい。

俺の胃袋を掴んだ、責任を取れ。
かつてのサイファーの笑顔に愚痴を言いながら、スコールはホットサンドにかぶりついた。
相変わらず、美味しい。
こんなに俺を駄目にしたのに、相手に自覚がない。
悔しすぎる。
だから、絶対に俺の物にする。
いいや違うな。
最初から、あの時から、彼を隣に引き摺りこんだ時から。

 

――――俺のモノだ。

 

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