✟ 大きすぎる三色餃子 ✟
未来の魔女との戦い、後に〝魔女大戦〟と称された日々から、程よく月日は流れている。
バラムガーデンに帰ってくるつもりがなかったサイファーが、なんだかんだでガーデンに回収されてから、月日も経った。
クレイマー夫妻がニコニコ笑顔で身元引受人にサインをしていた姿に、引きつった顔をした日々も遠い。
すっかりサイファーが、SeeDの運営陣の一員。他の人間曰く、スコールの専属下僕になっている状況も、バラムガーデン内部では見慣れた光景に成り下がった。
そして、スコールがサイファーの監視という名目で同居が確定した時に、少し嫌な予感がしたのだ。
部屋に入って飛び込んできた、そこそこ無駄に良さそうなキッチン設備。
大型の冷蔵庫。色々と調味料を配置できそうな棚。
後ろを振り返れば、喜々とした目でこちらを見ている、スコール・レオンハート。
監視役なんて、名目上に過ぎない事は、すぐわかった。
彼が何を求めているのかも。
だからサイファーは、あまりにもくだらない顛末に、溜息をつきながらフライパンを手に取ったのだ。
時間があれば、毎日の夕飯を二人分作る日々。
そして、雑過ぎる食べ方で、美味しそうに嬉しそうに食べるスコールを見る日々。
それは別に、嫌いではない。
――――ただ最近、奴が奇行に走るのだけは、解せない。
―――――――― ▼ ――――――――
むぎゅり、と無造作に胸を揉まれて、サイファーは無言で見下した。
両手でむぎゅむぎゅと胸筋を揉まれる。揉んでいる犯人は、眉間に皺を寄せてじーっとサイファーの胸筋を見つめている。
「ムカつく」
「……お前な」
また何か言われたらしい。溜息をついて、サイファーは頭を掻く。
真顔でもぎゅもぎゅと胸を揉みながら、ぶつぶつと「舐めやがって」「今度会ったら覚悟しろ」等と物騒なことを呟いている。
下から掬うように、胸を全体的に揉まれる。そのことに、ぐっと歯を噛み締めて、眉間に皺を寄せて、サイファーはスコールの両手を掴んだ。
「おい」
「……ずるい」
「ずるくねぇよ」
なんであんただけ、と顔面に書かれているスコールに、片手を離して強くデコピンする。
額の痛みに呻く彼の両手をペイっと放り捨てて、サイファーはキッチンへ向かった。
最近、スコールは忙しい。
それはSeeD総指揮官に正式に襲名したこともそうだが、何よりも魔女大戦で名前と知名度が売れてしまった事だろう。あの未来の魔女が、未来にて語られる存在だと証明してしまった存在。
卵が先か。
鶏が先か。
スコールが先か。
アルティミシアが先か。
誰にも分からない事実だ。けれど、未来に残る存在だと知られてしまった事は、事実だ。
だからこそ、サイファーとは違って、スコールの顔はそこまで売れていないが、存在と容姿のパーツは知られている。
未来にて語られる存在。未来の魔女を退けたとして、後にさらなる偉業を行わないとは言い切れない。
だからこそ、たらればの考えで、スコールと顔を繋ぎたい権力者は山ほどいる。
一介の傭兵であるならば、無視でもよかっただろう。
けれどスコールは、ガーデンに繋がれた。
SeeDの運営陣の一人に、指揮官室という運営組織に所属させられた。
権力者と顔を繋ぐ事が出来る機会を逃すのは、決していいとは言えない。
なんせバラムガーデンの抱える傭兵部隊SeeDは、依頼制だ。
依頼されなければ、金も稼げない。依頼されなければ、受理の可否も何もへったくれもない。
出てくる内容はどうであれ、金のある権力者は依頼者としては便利な存在だ。
ただし、そこで障害になってくるのが、スコール・レオンハートの中身だ。
実年齢は、17歳。
傭兵として優秀でも、まだ学生。
先の大戦で活躍はしたが、その後始末に現在奔走中。
綺麗な男だが、基本形状として女顔。
見た目が屈強ではなくて、鍛えているように見えづらい。
そして致命的に愛想はない。
そして出てくる、見た目で侮る人間の数々。
女顔は、スコールのコンプレックスだ。
筋肉が見た目でつかない身体も、スコールにとってコンプレックスだ。
自分に愛想がない事も、対人対応が苦手な事も、何もかもスコールのコンプレックスだ。
サイファーから見ても、そこまで気にしなくていいだろうにと思ってしまう程、全身コンプレックスだらけ。
人の目を気にしすぎる男。一歩間違えると、対人恐怖症のレッテルが張られる神経質。病的な程に周囲を気にしているのに、あえて無視する事で自己防衛をしていた猜疑心の塊。G.F.の使い過ぎでエピソード記憶力は滓。
そして基本的に短気であり、面倒が嫌い。ずぼら。休日は一日寝ていたい男。何もかもが嫌になると脳筋に走る戦闘狂いなのに、常人っぽく見せるのが上手い男。
先の大戦で、彼が人として成長したと言われているが、サイファーからすると取り繕ってたのが元に戻っただけだ。根本は何一つ変わっちゃいない。
それが、サイファーが知っているスコール・レオンハートだ。
だから学園長に連れられたり、指揮官としてパーティーに参加しなければならない時。
その後に、スコールは大体として、奇行に走る。
……ストレス溜めすぎだろ。
今回は、特に身体の事でとやかく言われたのだろう。
こういう時、サイファーの身体に、一直線にスコールはぶつかってくる。
胸を揉んだり、太腿を撫でてきたり、尻を揉んだり。腕を掴んでじっと見つめてきたり。鎖骨を浮いた太い首をじっと見つめてきたり。
とにかく、サイファーの身体をじっと見て、干渉したり触ったりしてくる。
そして、最近は揉んでくる。
ちらりと後ろを振り向けば、ブツブツとまだ立ち尽くして何かを言っている。青筋まで額に浮かんでいる程で、ぎりぎりと歯軋りまでする。
ここまで不機嫌だと、もしかしたらサイファーと身体を比べられたりしたかもしれない。
ありえない話ではない。あの日、あの時に、サイファーの姿はとても目立っていた。電波放送が復活した日だからこそ、映像は残っているだろう。
だからこそ、初手開幕にスコールを見た者達は、大体が思うのだ。
――――この華奢な身体で、あれを押えたのかと。
未来の魔女の、本当の容姿なんて誰も知らない。
あの時間圧縮で赴いた、あの時の者達しか知らない。
彼らが〝伝説のSeeD〟と比較するならば、〝あの魔女イデア〟と、その隣にいた〝イデアの騎士たるサイファー・アルマシー〟だ。そして大体の権力者が、後者とスコールを比較する。
そして大体が比較対象より、小さい・筋肉少なそう・女顔という三種の見た目神器で、スコールのただでさえ短気の導火線に火をつける。
スコールは基本的に、女顔だとして華奢ではない。
そこら辺にいる、一般学生より鍛えられている。しっかりとした戦う男に身体だ。
ただ、隣の比較対象にされた男が、彼より大きい・筋肉付いてる・目立つだけで。
しかし、その場で着火できないので、大体が比較対象のサイファーを見て、時間差で導火線が着火するのだ。
サイファーにとっては、飛んだとばっちりである。
背中越しに届く怨念を無視して、献立の予定を変更する。
今日は気分が乗っていたから、チマチマと作り置きをしていたが、一気に放流するか。
頭の中で「酷いもんよサイファー!」と泣く雷神がいるが、また作ってやるから許せ。
ということで、冷蔵庫から大型の保存袋を取り出す。
ずぞっと重たい袋を三つ。こんな時に、スコールのやり過ぎだろうと思った大型冷蔵庫が役に立つ。保冷庫も大きいため、作り置きを冷凍するのに最適だ。
……主夫か俺は。
最近の自分の行動に、溜息を一つ。
どうせ、サイファーはバラムガーデンから基本的に出ない。
出ることはできるが、色々と面倒だ。
悪い意味で、顔が売れている自覚はある。
それをとやかく言うつもりはないが、顔が売れた事が面倒臭い。
三ヶ月前の外出時など、それが顕著だった。
「お迎えに上がりました!」とかいうトチ狂った事を言う、旧政府体勢下にいたらしい、元ガルバディア軍属・戦争推奨派の人間に襲撃された時。
襲撃というよりは、中身は勧誘だったけれども。あの時の貴方が素晴らしかったとか、様々なことをつらつら言っていたわけで。
あまりに意味不明な言葉の羅列に宙を見ていたら、自分をガン無視して、俺に話しかけた事にブチ切れたスコールが蹴散らしたわけで。
いや、これはどうでもいい。
俺にとってそれよりも、こいつの発言だよ。
何だよ。「俺のだぞっ!!」じゃねぇよ。何時から俺は所有制になったんだ。ふざけるな。
この案件のせいで、大体において俺は指揮官室で執務中だ。嫌な程に、書類捌きが凄く上達していく。
その隙間に、モンスター討伐任務が入る程度だ。その討伐任務でさえ、スコールが隣でピリピリしてやがる。
……面倒すぎて仕方がねぇ。
ぐりぐりと米神を刺激しつつ、フライパンに油を敷く。
保存袋から取り出した、自作の冷凍餃子を並べていく。並べるというよりは、円形にぎゅうぎゅうに詰め込む。焼き上がりが気になるが、いいだろう。どうせ、消費するのは俺とあいつだ。
水を入れて、蓋をする。
強火で火をつけて、フライパンを熱する。
もう一つのフライパンを用意。同じ工程を繰り返して、蓋をして強火。
付け合わせをどうするか、と考えていると、するりと腕が腹の前に回ってきた。
「おい、近い」
「……今日は、なんだ?」
「餃子」
「あれか?」
「あれだ」
あれか、とスコールが嬉しそうにフライパンを見ている。
腕の力が強くなるのに、溜息を一つ。
気分が浮上したわけではなさそうだが、妥協はしたらしい。もしくは、それより腹が減ったのか。
べたり、と背中に奴の頬がひっついた感覚がする。
……最近、本当にスコールの奇行が目立つ。
胸揉んだり、引っ付いてきたり、こうして料理中に身体を引っ付けてきたり。正直に言って邪魔過ぎるのに、邪魔だと苛立ってくると、すぐに逃げる。
……猫か。俺は猫でも飼ってるのか?
ふぅ、溜息をついていると、カシャリという独特の音。
振り返ると、フライパンに向けて、スコールが情報端末を向けている。
微かに微笑みながら、スコールが端末を操作している。また何かカメラ機能で、記録を取っているらしい。
「お前のそれ、よく続くな」
「……カドワキ先生から言われたからな。三度目があったら、バラムの病院に検査入院させられる」
「よかったじゃねぇか。行って来いよ」
「絶対に嫌だ」
ぽちぽちと端末でキーを打っているスコールは、夕飯の食事を記録している。
一度、サイファーがモンスター大規模討伐でいない一週間があった。
その時、丁度バラムガーデンでも一時的なサーバーダウンが発生し、復旧に忙しすぎたスコールが生活力を削って倒れたせいで、保健室の鬼ことカドワキ先生から厳命された記録である。
「あんたはやらないのか?」
「やらねぇ~よ。めんどくせぇ」
サイファーは答えながら、フライパンの蓋を開ける。
まだ水分が残っている事を確認し、蓋を閉めた。
忙しいとまず初手で食事から抜いていく。
そんなスコールに、怒ったカドワキがした制裁がこれだ。報告書が面倒だと、顔にべったり張り付いていたスコールに、妥協としてカドワキが渡したものが、ネットワークサービスだ。
ここ半年の間に有名になった、通称SNSと呼ばれているもの。
どこかの技術者が社内活用で作った物を、サービス業に転用して、提供を始めたモノらしい。
ただ、個人情報の流出等、利用者側の不注意で問題も発生している。しかしそれを凌駕する勢いで、広告として利用が期待できるとして、企業側も見守っている技術だ。
カドワキの要請を受けて、セルフィが代理でアカウントを取得し、スコールに押し付けてきたのが発端。
元々、外部に対しては秘密に包まれ過ぎているバラムガーデン。機密を扱う関係もあるが、先の大戦で不安視されたのも事実だ。
故に、機密に関わらない程度に、学園生活の一面を外に発信しようと、広報関係も担うセルフィが準備していた物の一つだ。何人かのSeeDと上層部に、試作運用としてバラムガーデン公式アカウントとして配布している。
スコールは、それを利用して〝夕飯を食べました〟報告を発信している。
監視要員の一人として覗いているセルフィ曰く、「やる気がなさ過ぎてこまる」とのこと。
「結構、あんたの料理、カドワキ先生に評判だぞ」
「知るかよ」
もう一度、フライパンを開ける。
水分が十分になくなった事を確認して、少量のごま油をぐるっと一周。もう一つのフライパンも同じ様にしてから、本格的に二つとも焼いてしまう。
するっと腹の前から、スコールの腕が解かれる。
食器棚からごそごそと皿を取り出してきて、すっと横から大皿が提供される。それを無言で手に取って、フライパンを揺する。ぐるんっと綺麗に円形になった餃子が、フライパンの中で回る。焦げ付いてはいないらしい。
そのまま、受け取った皿を蓋の様に被せて、フライパンごと引っくり返す。これが一番、安定感がある。
出来上がった餃子の大皿を、隣に立っていたスコールに渡す。いそいそと持って行ったスコールを見る事なく、サイファーはもう一つも同じことを繰り返す。
出来上がった皿を、スコールがまた持っていく。
それを見送って、炊飯器の蓋を開く。
ふっくらと炊けたライスを盛り付ける。こんもりと二つ分。餃子用の薬味とタレ用の小皿も、何枚か用意する。
忘れていた物を思い出して、冷蔵庫からタッパーを取り出してみると、用意していた物はカウンターからほとんど消えていた。腹減りの行動は早い。
テーブルには、全部設置されていて、椅子にちゃっかり座っているスコールがいる。
冷蔵庫に入れていた、水出しの冷茶まである。どれだけ楽しみに焼き上がりを待ってたんだと、少しだけ擽ったい気分になる。
「おらよ」
机の隙間にタッパーを置いて、スプーンを渡す。スコールの口が、むにゅりと動いて、嬉しそうに緩む。
いそいそとタッパーを開けて、手渡されたスプーンを、ざぶっと液体に潜らせる。持ち上げれば、ざく切りされたトマトと、たっぷりトマトを浸していた酢と胡椒が纏わりついている。
小皿にせっせとそれを盛っていくスコールを見て、こいつも慣れたなとサイファーは思う。
一時期、トマト嫌いだったはずなのだが、せっせと食わせたら好きになったらしい。気まぐれでサイファーが勧めた、餃子のトマトダレが好きになるぐらいに。
スコールの用意を見ながら、サイファーも自分の分を用意する。
醤油瓶を取って、小皿に垂らし、酢も入れる。大体割合は6:4にする。これがサイファーが好きな割合だ。
中央のタッパーから、自分の分のトマトダレも小皿に盛っていると、カシャリと音がした。サイファーが視線を向けた先、きちんと画面の中に納まった食卓写真を見て、微笑むスコールがいる。
……何がそんなに楽しいんだか。
初めはいやいやだったのに、最近は特に楽しそうに、夕飯の写真を撮る。どんな心境の変化か知らないが、食事がコイツの中で切り捨てられる物ではなくなったのなら、きっと良い事だ。
「いただきます」
丁寧に言葉を紡いで、スコールが箸を伸ばす。
綺麗に引っ付いている羽を切り離して、ずもっと重たい餃子を持ち上げていく。小皿に盛ったトマトダレに、半分くぐらせて、ぐわりと大口を開けた。
……よくやるな。
サイファーが作った餃子は、数は多くない。
けれど、満腹感は凄い。
それが分かる程に、パッと見ても重量級だ。
なんと言ってもその特徴は、サイファーの手の平にジャストサイズの規模。
一つ一つが、通常の餃子サイズのざっと三倍。もしかしたら、四倍はある巨大さを誇る。
このサイズに落ち着いた原因が、そもそも雷神だ。
ティンバーの一角にある小さな料理店。多国籍料理を出す店で、セントラ料理として出された餃子。
美味かったが、雷神には小さくてすぐになくなってしまった。もっと大きいのが良いと言った雷神に、身体作りの礼としてサイファーが作ったのが、このでかすぎる餃子だ。
つまり、サイズ感覚としては雷神の一口、もしくは二口を想定している。
雷神の体格に合わせたせいで、サイファーでさえも、二口で食べるサイズだ。
それをスコールは、ほぼ一口で詰め込んでしまう。
肉汁もたっぷり詰め込んであるはずなので、口の中で破裂して火傷の危険もある。それを物ともせずに、もぎゅもぎゅと幸せそうに食んでいる。時折失敗して、口の端から肉汁やタレが零れるが、それもぺろりと舌で拭っていく。
「なぁ」
あまりにも幸せそうに食べるから、聞いてみたくなった。
もぐもぐと咀嚼しているスコールがこちらを見る。それに笑って、餃子を指さした。
「お前、どれが好きだ?次に作り置きする時に、参考にしようと思ってよ」
「…………」
スコールの眉が、途端に下がる。へにゃりと困った顔をしたスコールに、コイツも駄目かとサイファーは自分の皿に視線を落とす。
サイファーが作る餃子は、主に三種類だ。
白い餃子の皮に包まれているのが、スタンダードタイプ。豚の挽肉・キャベツ・ニラが入った肉餡。
橙色の鮮やかな皮に包まれているのが、アレンジタイプ。海老・蓮根・椎茸が入った、海老餡。
緑色の野菜を連想させる皮に包まれているのが、海老・アボカドを入れた、変わり種の餡だ。今回は、賞味期限が近かった卵を茹でて、崩した物も一緒に入れてみた。
元々、雷神への礼で作った物だったが、思いのほか雷神がすごく気に入ってくれた。以来、作り置きをする時にお裾分けもしている。
ただ、その時に「サイファー、どれがどれか覚えられないもんよ」としょぼくれた顔で言われた。わざわざ袋を分けたわけだが、駄目だったらしい。
仕方がないので、皮を改良した。
野菜粉末シリーズという、生地に色を付けるための無添加加工品を見つけたので、それを利用した。ぱっと見た目で分かるので、雷神は嬉しそうだったので良しとする。
サイファーとしても、作り置きをした後に、皮でパッと見て中身がわかるのは便利だった。
作ってから、焼くまでのタイムラグがあるせいで、全部が白いと確かに分かりづらい。
この生地に色を付ける手法は、以後も種類を用意する時に利用している。
「……白いやつ、が一番好きだ」
ごくり、と飲み込んで、眉間に皺を寄せてスコールが評価した。
「なるほどな」
そりゃ、肉が好きならそうなるかと、サイファーも餃子に手を付ける。
我ながら、頭がおかしい重量物を作ったと、箸で持ち上げても分かる。酢醤油につけて、半分で噛み千切る。ぶわりと溢れる餡を小皿で受け止めて、ゆっくりと噛み砕く。
緑色の餃子に手を付けたが、今回のも良さそうだ。海老とアボカドはいつもの定番だが、茹で卵を混ぜても美味い。他にも、この緑の餃子は三つ目の材料を好きに入れているが、今の所はずれはない。
……食いごたえもある。雷神も好きそうだな。
まだ冷凍が残っているので、今度お裾分けをするかと考えている間も、スコールが口に餃子を放り込みながら眉間に皺を寄せている。もぎゅりもぎゅりと噛み締めていて、ぎゅぅっと眉間にさらに皺が寄る。
その理由に予想がつく分、何とも言えない気分で見る。
「…………いや、でも。これも美味しいし。いや、うん。でも」
ブツブツと言いながら、白から橙色、橙色から緑色と、三種類の餃子を噛んで味わう。隙間でライスを食べて、タレを追加してと、スコールの口も頭も忙しい。
……選べないなら、そう言えよ。
だんだんと面白くなってきた。それを顔に出さずに、サイファーは残った半分を口に放り込んで、次の餃子に手を伸ばす。
皿の上が綺麗になった頃、真顔でスコールは腕を組んでいった。
「サイファー、やっぱり全部、同じ量を作ってくれ」
「お前、馬鹿だろ」
食ってる間、ずっと考えていたのかと、サイファーはとうとう笑いを堪えきれなかった。
げらげらと笑うサイファーに、スコールは心外だと不満そうな顔をした。

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