✟ 挽肉のトマトソースと自家製平麺パスタ ✟
真っ直ぐに振り下ろされたフォークが、ザクザクザクッ!っと目標を一纏めに串刺しにする。
バランス良く、大きな塊となったそれを、んあっと大きく開いた口が一口で食む。
モグモグと大きく動く頬。口の中がぱんぱんになる程に頬張ったせいで、唇の端から閉じ込めきれなかった雫がとろりと垂れる。
トロトロと夢見心地にうっとりと溶けている目が、相変わらず嫌に目立つ。
幸せそうに口が動いている状態で、次のターゲットにフォークが刺さる。
ぐっと持ち上がった量は、少し減らせと思うぐらい多い。それを、ぐるぐる巻いていく。挽き肉のトマトソースを平麺が絡み取り、大きすぎる塊を作る。
サイファーとしては、半分に減らせと言いたくなる量のパスタを、ぐわりと大きく顎を動かして、食らいついていく。
手打ちで作った、サイファー好みのモチモチ平麺のせいで、通常の乾麺より歯応えはがっつりしている。
そのせいで咀嚼し辛いと思うのだが、それを物ともしない。
フォークだけを器用に抜いて、スコールはもごもごと麺を噛み締めている。
その女性的とも称される唇に、口に含みきれなかった挽き肉のトマトソースが着いている。気がついたのか、フォームを持っていない方の手で、ぐいっと指で雑に縫う。
そのままティッシュで拭うことも無く、口内に隙間ができて動かせるようになった舌で、べろりと舐め取る。
そのまま、もぎゅもぎゅと咀嚼を繰り返し、ごくり、と喉を通った時にほぅっと熱い吐息を一つ。
……肉食獣かよ。
スコール指揮官様に夢を見ている者達が、百年の恋も冷める程の、雑すぎる食い方。
良く言えば、ワイルド。
悪く言えば、クッソ汚い雑さ。
口がぱんぱんになるぐらい、口の中に詰め込まないと気がすまない。口から零れ落ちても気にしない程、美味しくて好きなものを、口の中がいっぱいになる幸福を味わう。噛み締める事が難しい事も、スコールにとって幸せなのだ。
大きな塊を頬張って、口の中が寂しくないように、口の中が全て無くなると即座に次を放り込む。大口で早食いにも見えるが、これがスコールの幸福感を存分に味わえる〝好きな食べ方〟だ。
早食いに見えるのは、あまりにも大口すぎて、皿の中がすぐに消えていくからだろう。常人の二口が、きっとスコールにとっての一口だ。
再び、付け合わせのサラダにフォークを雑に振り下ろして、トマト・レタス・生ハム・サイコロチーズを一気に串刺しにした塊が、ぐわっと開いた口に放り込まれる。
……今回は好きらしい。
サイファーは、昨日の夕飯の勢いと、今日の勢いを比べる。
――――スコールは、分かりやすい。
美味しいと感じた自分好みの料理は、長く味わいたいのかゆっくり咀嚼する。それ以外だと、どんどん咀嚼が早くなる。
嫌いな物なんて顕著だ。場合によっては眉間に皺まで寄せて、こっちをジトリと見つめてくる。
……いや、あの時は食わず嫌いだったから、口の中に放り込んだな。
顔を盛大に歪めた後。美味しいと気付いた時の、スコールの顔は傑作だったとサイファーは小さく頷いた。
どうせ料理を作るなら、美味いと食ってもらう方が良い。
それは料理を作るようになった時の、サイファーの持論だ。
ぐるぐるとパスタを巻き、ソースを拭うようにフォークを動かして、サイファーも自作を食べる。前回より、トマトではなく挽肉の割合を増やしたが、やはりスコールはこっちが好きそうだ。
……圧倒的に、肉派なんだよな。こいつ。
魚より肉。
野菜より肉。
お菓子より肉。
ちなみに、ステーキよりハンバーグ。
そして全体的に、食べる時に面倒がない方が好き。
基本的に、面倒が嫌いで、テーブルマナーも嫌いだ。
2週間前のパーティー潜入任務で、フルコース料理を出された時。
流石スコールだと感心する仲間たちの前で、完璧なテーブルマナーで食べながら、しおしおと干乾びた魚のように目が死んでいたのを思い出す。
無表情で目が死んでるのに、誰も気づいてなかった。あれ程分かりやすいのに。サイファーはこっそり笑ってしまった程だったのに。
任務が終わった後に、やってられないと呟いて、俺を引き摺って深夜営業の店飛び込んだ。
肉の塊を引っ付かんで即決で購入。店の外で俺にそれ押し付けて、焼けと据わった目で言うまでが傑作だった。焼くわけねぇだろ明日にしろ。
疲れた時はステーキが優先されるらしい、という事をサイファーが学んだ日だ。
「……ごちそうさま」
はふっ、と満足そうな吐息を吐いて、スコールがフォークを置く。見れば、皿の上は綺麗さっぱり無くなっている。
「オソマツサマ」
言ってから、サイファーも最後の一口を放り込む。作るのが手間だが、自分好みに生地を作れるのは満足感が違う。また時間がある時に作るかと、サイファーは自己満足で頷いた。
そんなサイファーを、スコールはじっと見つめていた。
ただ、じっと見つめて、ぺろりと舌で唇を湿らせている。
「……?足りなかったか?」
「いや」
コップに満たされている、水を一口飲んで、スコールは微笑んだ。
「十分だ。ありがとう」
「そ~かよ」
ご馳走様、とサイファーも呟いて立ち上がる。
そのサイファーの食事の皿も、自分の皿も一まとめにして、スコールはキッチンへ消えていく。
いつからか、片付けはスコールの役割になっていた。
流しから、皿を洗う音が聞こえてくるのを聞きながら、サイファーは雑誌に手を伸ばした。

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