頭がガンガンと痛む。
原因は分かっている。昨日、やけ酒をしたせいだ。
全部を思い出して、一人で抱え込むこともできなくて、酒に逃げてしまった。なんとも情けない堕落の姿で、溜息も出やしない。
スコールは、自分の無様さに呻き声をあげながら、なんとか瞼をこじ開けた。
歪んだ視界の先で、見慣れた天井が見える。
「……起きたかよ?」
小さく囁かれた言葉に、眼球を何とか動かして、目的人物を探す。
意外と彼は近くにいた。
ソファーの背を間に挟むように、ソファーに寝転がっている自分を、覗きこんでいる。
げっそりと疲弊しきった顔に、自分がまた何かをしでかしたと、よくよく分かってしまう。
「…………すまない」
「本当に、な」
何をしたのか聞かなかった。聞いたところで、答えてくれないと分かるので。
ただ、視線をどこか遠くにうろつかせる彼に不安が募った。
このまま、どこか遠くに行ってしまうような、致命的な物を取り零してしまう予感がした。
だから、行動することにした。
なんとか手を伸ばして、そっとソファーの背に置かれていた彼の手に触れる。
びくり、と小さく震えた彼に、それでも口を開いた。
「サイファー」
「……なんだよ」
「好きだ。恋人として付き合ってくれ」
沈黙。
そこには静けさしかなかった。
スコールの体感時間において、永遠に時間が引き延ばされたのかと思うほど、長く感じる時間。
数秒か、数分か。
それさえ分からない程、引き延ばされたような時間。
嫌に心臓の音が響く。スコールはちらりとサイファーを仰ぎ見る。そっと触れた手は、振りほどかれはしていない。けれど、サイファーは身じろぎもしていなかった。
ただ、真顔で、静かに、スコールをその碧眼で、見下ろしているだけだ。
正直に言えば怖い。
本当に怖い。返答が怖いのではない。
拒絶されても口説き落とそうという、その決意だけはある。リノアに背中を押されたというか、蹴り飛ばされた事実もある。引きたくはない。
自覚したからこそ、彼がするりと逃げてしまいそうだと思ってしまったから、勢いで口に出したが本心だ。
でも、今、雰囲気が、すごく怖い。
やっと動いたサイファーは、ゆっくりと首をかしげてこちらを見ている。
嫌にゆっくりと、その唇は形を作った。
「お前、昨日のこと、覚えているか?」
「昨日……?」
やはり昨晩、自分は何かをやらかしたらしいと、スコールは頭を抱える。
まだ頭痛がするが、そんなことに構っていられない。
穴あきだらけの記憶をぐるりと見渡すも、何一つとしてサイファーに何かをした記憶はなかった。
「すまない。一人で飲んでいたことしか、覚えていない」
「そ~かよ」
ふぅっと深々と溜息をついて、サイファーが手をあげる。
その手に何があるのかを理解する前に。
花開くように、一気に室内に満ちた殺意の渦に反応する前に、
「禁酒してから出直しやがれっ!!!!!!」
勢いよく振り下ろされた何かで顔面を強烈に殴打され、ただでさえ二日酔いで頭痛がしていたスコールは、一気に意識を刈り取られた。
けれど、その一瞬の刹那に、確かにスコールは見た。
顔面を真っ赤に染めた、サイファーの顔を。
―――――――― ▼ ――――――――
はぁはぁと肩で息をしながら、サイファーは顔を上げる。
目を回して気絶したスコールの顔はよく見えない。勢いよく殴り降ろした物のせいで、美しい光景になってしまっているので。
「……無駄に美形だよな、本当に」
好きな映画の主演によく似ていたから、昔からサイファーはスコールの顔の造形が好きだった。
今は違う。そういう理由でもなく、彼自身が好きで、彼の持つ顔だから好きだ。
一生、言うつもりはないが。
改めて、スコールをまじまじと見下ろして、自分で作り上げた光景にサイファーは笑ってしまった。
「…………ドラマのワンシーンだな、これじゃ」
共用エリアのソファーの上。
横たわるスコールの頭を中心に、彼の眠りを飾る様に、赤と白の花弁があちらこちらに散っている。
実際は眠っているのではなく、サイファーが気絶させたわけだが。
「……あいつ、厄介な女になったな」
サイファーが、スコールの顔面に殴り付けたのは、昨日リノアにお節介として押し付けられた花束だ。
なぜか彼女におすすめだと力説された、赤と白の二色を混ぜているアザレアの花束。
確実に、彼女はサイファーの悩みを見抜いていた。
それは魔女の勘なのか、それとも人ならざる力で見抜いたからなのか。
スコールか自分が、彼女にとって分かりやすいだけなのか。
それとも女の勘だったのか、正確なことは分からない。
ただ少し癪に障る。
「ほんと、勘弁しろよ」
つんつんとスコールの額を突きながら、サイファーは上半身を起こして溜息をついた。
「……責任、取れよ」
本人に聞こえない所で、耳を赤く染めて小さな返答を告げた彼は、まだ知らない。
――――目覚めたスコールが、サイファーをもう一度口説くと決意する事を。
顔面に叩きつけられた花の名前と、その意味を調べたスコールに、実に一ヶ月に渡り、バラムガーデンで所構わず口説かれまくる未来を。
最近、過労気味だったスコールの開き直ったような猛攻を見て、サイファーに諦める様に諭す仲間のことを。
二人が結ばれるまで、セルフィがガーデンスクエアの公開日記に、二人の動向を書き込む未来を。
本当に殺してしまおうかと思う事が、双方共に年に何回もあると告白するような、バラム一物騒なカップルとして名を馳せる事を。
彼はまだ、知らない。

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