❖ アザレアを掲げて殴れ【上】 - 5/5

 

がんがんと何かに頭を叩かれるような、揺さぶられ続けるような、独特の頭痛。
スコールは、なんとか瞼を押し上げて、目を覚ました。
頭が重く、頭痛がする。この独特の感覚は、どう考えても二日酔い。
「うぅ……うぅ……」
思わず呻き声を出してしまう。
寝台の中で、布団にくるまって、うごうごと虫のように蠢く様。普段の凛と立つスコールしか知らない者が見れば、二度見する程度に見せられない惨劇だ。
「うぐぅ……うぅ、ぅー」
「死んでねぇな。よし」
「うぅぅ、う……?」
呻き声をあげていると、静かな声が耳に届いた。
頭に触りがない程度に、控えめな声に、もう一度うっすらと目を開ける。布団からなんとか頭を這い出して、声のある方に視線を動かした。
「オハヨウ」
「……ぁ?」
どこかぎこちなく、片言に聞こえる挨拶を疑問に思いながら、首をかしげる。
頭痛で頭が回らない。うーうーと唸り声をあげるだけの人間に成り下がったまま、自室に入ってきたサイファーを見つめる。
「起きれるかよ?」
サイファーはトレーを持っていた。サイドテーブルにトレーを追いて、からかい交じりにこっちに囁いてくる。ぴんぴんしている姿に腹が立つ。
「うぐ……うぅ、う」
「無理すんなよ」
「んんー」
腹が立つので、ぐわんぐわんと揺れる頭を我慢して、根性で起き上がる。ずりずりと壁に縋る様に身体を持ち上げて、ぜぇぜぇと呼吸が荒くなる。
「飲めるか?」
ぼうっとする思考の中、目の飛び込んできたのはペットボトルだ。
有名なスポーツ飲料のそれを手に取って、なんとかキャップを捻る。口につけて一気に呷れば、冷たい水分が喉を通り、胃に心地よく流れ込んでくる。
ぶはぁ、とペットボトルから口を放す。ちょっとだけ目が覚めた。
「ほら、食べれるなら食え」
深く吐息を吐いていると、半分以下にまで減ったペットボトルを回収されて、代わりにガラス製のボウル容器を手渡された。
中を見れば、皮も薄皮も剥かれ、カットされて食べやすくされたグレープフルーツ。その微かな赤身ある瑞々しい実が、ごろごろと入っているヨーグルトだ。
「ん」
「……?」
声をかけて手渡されたそれを、疑問に思いながら反射的に受け取る。先が三叉に割れた、先割れスプーン。
使用用途が明確だったので、遠慮なくそれを使って、ヨーグルトの中に突っ込む。
もはや反射で動いている自覚はある。
何も考えずに、グレープフルーツとヨーグルトを絡めて口の中に入れれば、程よい酸味とヨーグルトのほんのりとある甘さが、口の中いっぱいに広がった。
もっきゅもっきゅと、口の中で果物とヨーグルトを噛み締める。
噛み締めて、少し理性が戻ってきた。
ここまでのあらゆる事を冷静に考えて、なんだか情けなくなってきた。
なんだこの、サイファーに手厚く介護されてるような状況。同居してから今までもそうだったが、これではサイファーがいないと日常生活を送れない、ダメ人間みたいじゃないか俺。
……今頃気づいたのかと、溜息を吐く脳内キスティスがいるけど、きっと気のせいだ。
いつの間にか、皿の中は空っぽになっていた。
がじり、と先割れスプーンを噛んで考え込んでいると、溜息が聞こえてきた。
「お前、昨日の夜のこと、どこまで覚えてる?」
「昨日……?」
サイファーの苦笑した顔を眺めつつ、うろうろと視線をさ迷わせて考える。
昨日は、サイファーが酒を飲んでいるのが気に食わなくて。
酒を奪って飲んで、自室で着替えて、サイファーに勧められてご飯を食べて、酒を一緒に飲んで。
それから。
それから――――?
「俺、いつの間に部屋に戻ったんだ?」
「なるほど、な」
納得したようなサイファーに、不安になってくる。
酒を飲んで記憶が飛んだ事なんて、今まで一度もなかった。それだけ疲労していたのだろうか。それでも、こんなに一気に記憶が飛ぶことあるか?
「……サイファー、俺、何かやったか?」
恐る恐る声をかけて聞く。記憶がない中で、もし迷惑をかけていたら嫌だ。
ただでさえ色々と、昨晩は迷惑をかけた自覚はある。あれ以上に、面倒を見てもらったりしていたら、羞恥心で死にそうだ。
サイファーは、少しだけ沈黙していた。
沈黙して、それで。

 

「……イヤ、ベツニ?」

 

絶対に何かあったとわかるような、歪な声で視線を逸らして言ってきた。
えっ、こわ。
俺こわ。

寝台で座り込む男と、その傍で立つ男。
昨晩の記憶が一部ないと男と、昨晩の全てを覚えている男。
奇しくもアルコール摂取により、二人の関係が少しだけ変わった日になった。

 

「……え、サイファー。俺、何したんだ?」
「だから、何もねぇよ」
「いや絶対俺なんかやっただろ?何したんだ俺?怖いんだが」
「大丈夫だ何もない。何もないんだって」
「嘘だ!!!」

 

 



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