❖ Plant SeeDs - 3/4

 

スコールは脱いでいない。部屋着をきっちり上下に着たままだ。
サイファーも服は脱いでいない。ただ前を開けられて、上半身は見えるけれど。
白い肌が外気に触れて、少しだけ肌寒い。
「んっ」
剥き出しの胸をスコールが両手で揉み、力を込めていない胸筋が沈む。その手と指で、ぷくりと立ち上がった飾りを弄られる。
はぁ、と熱い吐息がサイファーの首にかかった。ぞくんっと痺れるような刺激を、サイファーの身体が自然と快楽として拾ってしまう。
抵抗はしなかった。
ただ、そっとスコールの腰にサイファーは手を回す。ゆるく抱きしめられるようにされたまま、スコールの動きは止まらない。
たっぷりと唾液を滴らせた舌で、サイファーの首筋を舐めて、色濃き痕を付けていく。
絡み合った足を擦り合わせ、あらぬ部位を押し付けられて、サイファーはふるりと背筋を震わせた。
スコールが、サイファーに密着する。
着たままのスコールの服と、むき出しにされたサイファーの肌が擦れあう。
狭いソファーの上で、お互いが作り上げる空気に酔っていく。
捻じ込むようにお互いの身体の間に手を入れて、サイファーは片手で器用にスコールの布ベルトを外していく。羽織って前を重ねて合わせるだけの、ゆったりとした部屋着だ。その前の重ねを留めつつ、腰で絞る布ベルトを器用に解く。
緩んだ布ベルトを、もう片方の手で背中側から引っ張り、するりと抜き取った。
羽織の裾が開けて、スコールの上半身も露になる。
サイファーのそれ程に、肉付きはよくない。その事実は、スコールにとって筋肉が付きづらいコンプレックスを刺激する事実だが、パッと見ても鍛えられた戦士の身体だと分かる。
気にしなくていいのにとサイファーは思っているのだが、それを言うとジト目で睨まれるので言わない事にしている。
三ヶ月前にそれを言って、寝台の中で一晩中放してくれず、あらぬ所が筋肉痛になったので。
「はぁっ、サイファー」
「……っ」
荒い呼吸の合間に、耳元で名が呼ばれる。
サイファーとスコールの、お互いに剥いだ肌同士が擦れあう。
上半身の前だけがはだけ、それ以外は着こんだまま、服と肌が擦れあう。
肌と肌が触れあうのが気持ちいい。他の相手なら殺しているけれど、スコールと剥きだしの裸体で触れる事をサイファーは嫌っていない。
スコールの足の膝で、股の間をぐりぐりと苦しくない絶妙な力で刺激されて、はふりと熱い呼気が溢れる。
狭いソファーの上で抱きしめられて、かぷり、と首筋を歯で軽く食まれる。
その刺激に、思わず首をぐっと反らしてサイファーは浅い呼吸を繰り返した。
背中に手を回してスコールを掻き抱くと、スコールの舌がサイファーは耳の中にぬるりと入ってきた。
その独特の感覚に、ぞくりと肌が粟立ち、腰がはねてしまう。
「……っ」
それでも声を零さないように、サイファーは何とか唇を引き結ぶ。
じんわりとした刺激は気持ちよくて、理性を保ったまま快楽でじりじり炙られる。
合間に挟まれる、弱い耳と即物的な股の刺激だけが強くて、その度に体が震えてしまう。
「はぁっ、はぁっ」
興奮した声が耳に届き、すぅっと深呼吸までしている事に、サイファーは笑いが零れてきた。
少しだけ、という言葉の通りに、スコールは柔らかい快楽を伝えてくる。
時々強い刺激になるのは、ご愛敬という物だ。
寝台に引きずり込まれて、サイファーが半狂乱になる程に叩きつけられる夜の快楽に比べれば、お遊びみたいな心地よさだ。
いつもなら、とっくにサイファーの胎の中に、スコールが沈んでいる頃だ。それがなく、ただ触れあいだけに留めている事実が、行為の始まる前の言葉をスコールが守っている証拠だ。
言った言葉を忠実に守っているのが、健気で面白い。
あらぬ所はとっくに硬いのに、それを無視して身体全体で重なって、抱きしめあって、服を剥ぎあって。
今の現状が面白くて、くつくつ喉の奥でサイファーが笑っていると、スコールが不満そうに睨んできた。
「あんた、本当に」
「んっ」
不満そうなスコールに、耳輪を食まれる。じりじりと弱い刺激でも、積み重なれば立派な快楽だ。
堪えきれなくなってきた声が、サイファーの口から零れてしまう。
「人の気も知らないでっ」
「はっ、……ふ」
耳元で囁かれて、胸を揉みこまれる。
男の胸を揉んで何が楽しいのかと思うが、周到に揉んでくるのでスコールとしては何かあるのだろうと、サイファーは考えている。
これで、自分に筋肉が付かない腹いせなら笑えると、頭の片隅でぼんやり考えて、ふと思う。
「……そんな、に、……か?」
存分に抱きしめて、匂いを嗅いで。
身体を擦れ合わせて、耳や首筋を舐めて口づけて。
胸筋を揉んで自分より白い肌にしっかりと触れながら、スコールの眼は不機嫌そうにサイファーを睨んでくる。
はふり、と熱い吐息を零して、サイファーは鈍ってきた思考で考える。
どうやらスコールは、サイファーが笑っているのが、お気に召さないらしい。
サイファーは、スコールの頭を両手で抱えて撫でてやる。ぎゅむっと皺になった眉間を伸ばす様に指で触れて、そっと口づける。
覗きこんだ灰青色の瞳は、不機嫌なまま。剣呑な空気も少し入っている。
つまり重傷だ。
「おま…」
サイファーが言おうとした言葉は、あっさりとスコールに塞がれた。今日だけでも、幾度目かの口づけ。
何度も咥内を蹂躙され、舌を絡められて、敏感になってきた口の中は、刺激を存分に堪能する。
「手を掴まれた、だけ……だろ?」
「……だけ、じゃない」
ぞくぞくと全身に染み渡るような快楽を振り払うように、スコールからの口づけを外して、サイファーはなんとか言葉を結ぶ。
飛んできた質問に、スコールはゆっくりと目を細め、ぼそりと小声で返答した後に再び口づけを再開する。
「背後か、ら、……抱きついてきた、……ん、だった…か?」
「…………」
口付けの合間にサイファーが何とか言葉を紡げば、何で知っているんだと顔に書いてあるスコールが、動きを止めた。
サイファーは、入手した情報が間違いではなかった事に、意地が悪い顔で笑ってしまう。頬を撫でて、その頬に口づけて、サイファーはくつくつと喉の奥で笑う。
今回の任務で、スコールが任務として挨拶した相手は三人。
内一人がハンティング・グローリア関係者。
内一人がシド学園長の知人。
そしてもう一人が、スコールが軟体生物と化した最大の元凶であり、元依頼人。
パーティー会場の人気がない所で、スコールに手を出そうとした男だ。
その態度は最悪だったが、提供された話題が話題であった事から、パーティーから帰還したスコールの報告を受けて、バラムガーデン側が鬼電する羽目になった事案の切欠にもなった。
ちなみに手を出そうとした男は、最終的にスコールが権力に物を言わせて撃退していたのも、知っている。
スコールは今を時めく美しすぎる英雄であり、バラムガーデン内において強い影響力を持ち、次第に外部に対しても影響力を持つようになりつつある男だ。
父親が父親なだけに、そして自身が持つカリスマ性ゆえに、強ち間違いではない未来予想図だ。
ちゃっかりスコールを影で護衛していたSeeDは、一部始終をしっかり見ていた。
そして、しっかりサイファーに密告した。
別にサイファーが頼んだわけではない。むしろ何も言っていない。
それなのに、サイファーをパーティー任務系から締め出した後、スコールのパーティーでの行動を、サイファーに教えてくれる者達は何人も発生している。
それは幼馴染の者達であったり、スコールと同じくパーティーに参加していたSeeDであったり。
何故か皆、こういうことがあったとサイファーに密告する。
特に、スコールの機嫌が悪くなったり、落ち込んでしまっている時に。
「お前のこと、わざわざ、教えてくれる奴がいてな」
「…………」
心当たりが、何件かあるのだろう。ぎゅむむっと眉間に皺が寄り、スコールの不機嫌度が増す。
くつくつと喉の奥で笑うサイファーに抗議をする様に、喉仏にかぷりと軽く歯を立てられた。
「ぁっ!……んっ」
突然の急所への刺激に、思わずサイファーは声を零してしまった。
ぞろり、と舌で首筋を舐め上げられて、サイファーは思わずスコールの頭を掻き抱く。
スコールも、サイファーに答える様に身体の密着を増す。
ソファーの上で、お互いの身体を抱きしめて、素肌と服を擦れ合わせる。
「ん、ぁ……スコール」
「……?」
ガチャガチャと金具を外して、サイファーのベルトをスコールは抜き取りながら、サイファーに口づける。完全な部屋着のスコールとは違い、サイファーは二時間前に寮の外に外出していた。
その為、しっかり着込んでいたままゲームをしていたのだ。
トレードマークの白いコートだけが、壁のハンガーにかかっている。
名を呼ばれたのを気にせずに、スコールは寛げたサイファーの下に手を差し入れる。その悪戯な手を掴み、サイファーは顎でくいっと画面を示す。
ゲームの画面上では、プレイヤーキャラクターが採取完了の報告を上げている。
自動周回モードがいつの間にか終わっていた。
「終わって、る。……次」
「だめ」
「んぅっ」
コントローラーに手を伸ばしたサイファーの手を妨害して掴み、スコールはサイファーに再び深く口づけた。
その間も、サイファーの下に手を潜り込ませていく。
スコール好みのぴったりとしたサイズではなく、サイファー好みのだぼっとした大き目のズボンだからこそ、大きく前を開けばするすると手が容易に入っていく。
直接的な所を避けて、太腿の内側などに手を這わせる。ひくんっ、とサイファーの身体が震えるのが、スコールにとって堪らない気分にさせられる。
碧色の瞳が、とろりと素直に溶けていく様も。
身体から力を抜いて、委ねてくる態度も。
服を剥いで、存分に抱きしめても、殴り殺しに来ない所も。
このサイファーが、スコールを受け入れてくれる。その態度が、男のプライドを呷って止まない。
「は、ふっ」
「ん」
深い口づけを解いて、お互いに深呼吸。
まるで事後のような色のついた空気の中で、嫌な程にゲーム画面が現状を伝えている。
「やめ……、ろ」
更に服を剥ぎ取ろうと、前を広げた衣服に手をかければ、サイファーの静止が入る。
頬を赤く染めて、炙るように刺激した快楽に焼かれて、とろとろに溶けた碧色の瞳が美味しそうだなとスコールは思う。
けれど、その瞳がゆっくりと剣呑な色を帯びていく様を見て、ここまでかと身体を起こした。
理性を手放す行為は、まず仕事を全て終わらせないと許してくれないらしい。
絡み合った身体を解いていく。
じんわりと浸るような快楽が止んで、サイファーがほうっと溜息を吐く。
その最中に、意趣返しの様に首元に強く吸い付いて、スコールはその白い肌に痕を残した。
「んっ」
思わず零れたのであろうサイファーの甘い吐息に、今夜絶対に抱こうと決意して、スコールは起き上がる。
やる気がない気力を振り絞って、スコールはコントローラーを握った。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

サイファーはソファーに仰向けになったまま、だらりと身体から力を抜いて画面を見ていた。
服がはだけて、中途半端に着たまま。それが異様な色気を出している事に、本人は気づいていない。
素直に促されるままに体勢を整えて、スコールの膝の上に頭を乗せ、ぼうっと画面を見ているサイファーの気の抜けた姿が、スコールの欲望を刺激する。
やっぱり今すぐ襲ってやろうかという悪魔の声を振り切って、スコールはコントローラーを操作する。
画面上のプレイヤーキャラクターが軽快に動く。
狩猟ステージ名は〝アプの森〟。
今回、サイファーとスコールがハンティング・グローリアを操作する事になった、目的地だ。
「でた」
「……でた、なぁ」
嫌そうなスコールの声に、サイファーも同意する。
画面の中で、プレイヤーキャラクターの間に立ちはばかる狩猟モンスターが、奇声を上げている。

ハンティング・グローリアは、七割が想像上のモンスターだ。
ただ残りの三割は、実在のモンスターを元に制作された、お遊びモンスターでもある。
その中の一体こそ、賛否両論の塊。話題性の急上昇の一端を担うモンスター。

名を、〝モルボット〟。

世界中の人間にアンケートを取ったとして、遭遇したくない嫌なモンスターの上位ランクに必ずランクインする事が確定する、面倒迷惑モンスター。
状態異常攻撃の代名詞。遭遇したら即座に離脱を推奨され、逃げ出したとして誰も恥と言わない程の怪物。
つまり、〝モルボル〟を元ネタにしたお遊びモンスターだ。
形は巨大なティーポット型。
形状は古風で、絵柄はお洒落なアンティーク調。
ポットの中身はドス黒い紫色の液体で、それをずるりと触手の様に伸ばしたり攻撃したりと、多様な攻撃・妨害のモーションの豊富さが有名だ。
画面の中で、プレイヤーキャラクターが攻撃の回避に動き、モルポットが妨害モーションに入る。スコールの手元がコントローラーを慣れた手付き捌き始める。ガチャガチャとボタンの音が煩い。
「……ッチ」
操作にミスをしたのか、スコールが盛大に舌打ちした。ちらりと膝枕したまま、サイファーが頭上に視線を剥ければ、画面を不機嫌に睨みつけるスコールがいる。普段しれっとした顔でゲームをしているのを知っているので、これは珍しい。
……大方、今ゲームをやる羽目になった事情にもイラついてるんだろうな。
サイファーが気にしていない事を、スコールは気にする傾向が強い。特にそれは、魔女大戦以後のサイファーの取り扱いに関する事が多く、誰に何を言われても気にしないサイファーに反して、スコールは色々と目に分かる程に苛立っている。
それは、風神と雷神にも共通する事だが、逆に周りがそうだからこそ、サイファーは何のリアクションもしていない。自分が腹が立つ前に、隣に爆発している男が居たら、逆に冷静になるようなものだ。
「よし」
ぼうっとサイファーが横道に思考を飛ばしている間に、決着がついたらしい。画面上でプレイヤーキャラクターが勝利モーションに入っていた。
そして、問題のイベントシーンに移行する。
ムービーが展開し、モルポットの素材を回収しようとするプレイヤーキャラクターの前に、森の奥から飛び出してくる影。
それは、大きな漆黒の大剣を担いで、現れたキャラクター。

太陽の光を受けて輝く、金色の短髪。
爛々と戦意に満ちた、碧色の瞳。
背中に真っ赤なクロスソードが描かれた、白いロングコート。
…………の、十歳前後の少年。

驚いているプレイヤーキャラクターの前で、倒れているモルポットの亡骸に視線をやり、その後に不敵な笑みを浮かべて口を開く。
『おあsjdrふぉいぇいふぁq@wpslfd@?』
セリフの吹き出しは、何一つ解明できない、意味不明な文字列だった。

「おい」
「はい」

思わずドスのある声をかけたサイファーに、スコールは神妙に返事をする。
イベントムービーでは、会話が通じないと理解した少年が、興味の失せた顔で去っていく場面になった。森の奥に帰っていく少年の背中を、呆然とした顔で見つめるプレイヤーキャラクターの顔で、ムービーは終了する。
「……〝アプ言語〟、入手しているよな?」
「…………熟練度、上げてないかもしれない」
ハンティング・グローリアは、須らく『知識』ありきのゲームだ。
何をするにも『知識』が前提であり、そしてそれは入手しただけでは機能しない。『熟練度』という、いかに知識を自分のモノにしたのかを示すゲージを育てなければ、使いこなせない。
それは『言語』も適応される。
〝アプの森〟ステージの先住民と会話する為には、『アプ言語』の入手と熟練度を上げる必要がある。
「……やり直しだなこりゃ」
「言語は比較的簡単だから、すぐ終わる。……と思う」

―――――30分後。

周回教育モードで『アプ言語知識』の熟練度をMaxにするまで放置する中で、間食をしたり、お茶を飲んだりと小休憩。
スコールは服も整えたし、サイファーは部屋着に着替えた。
テーブルの上に、眠気覚ましに珈琲二つ。間食に市販のクッキーを置く。
『アプ言語知識』の熟練度が、今度こそMaxになったのを確認して、依頼を受け直す。
今度は、サイファーがコントローラーを握る。
もう一度、モルポットを撃破して、再びムービー。

森の奥から現れた、どこかで見た事があるどころかスコールの隣に座っている男に似すぎたキャラクターが、口を開いた。
『また見た顔だな?この森の厄介者をこうまでボコボコたぁ、やるじゃね~か!』
『……君は、この前の』
『お?……へぇ~、今回は会話通じるのか?勤勉だなぁおい!』
言語が通じる事で、ムービーを介してイベントが進む。
プレイヤーキャラクターと、少年キャラクターの会話が進み、目的モンスターを討伐する為に共闘する事を約束して、邂逅イベントは終了する。

「……で、感想は?」
「いや、俺に何をリアクションしろってんだよ?」
「重要な任務だぞサイファー。あんたの意見で、バラムガーデン側の対応が変わるんだ」
「……過保護なこって」
イベントを見終わって、サイファーは頭を掻く。
スコールは珈琲を一口飲みながら、これまでの流れを考える。
ハンティング・グローリアとは、三ヶ月前に発売され、ゲーマーの話題性を掻っ攫っていった人気急上昇中の〝問題作〟である。
それはシステム面でもストーリー面でも、話題性を攫っていたが、社会現象一歩手前まで大きくなった原因は一つ。

一番話題を掻っ攫ったのは、〝実在人物モチーフのNPCが存在している〟という問題点だ。

しかも、モチーフ元だと思われる人々に対して、無許可でキャラクター化している。
発売してから一ヶ月で、その裏キャラクターを発見したプレイヤーが騒いだことが起爆剤となり、話題性は飛躍的に飛んで行った。
多くのモチーフ元の人間は、面白がって後から許可を出したり、自らネタにしたりと話題性にネタを提供したことも大きい。ネットワーク上のゲーム攻略交流場では、日々賛否両論を議論したり、元ネタの実在人物の考察が飛び交っている。
バラムガーデンにとって寝耳に水だったのは、その無許可キャラクター群の中で、〝サイファー・アルマシー〟だと思われる裏キャラクターがいた事だ。
匿名希望の第三者からの情報提供だったが、またこの裏キャラクターに辿り着くまでが、他の裏キャラクターの比ではなかった。
高難易度狩猟ステージ〝アプの森〟の解放。
高難易度討伐モンスター〝モルポット〟の討伐。
隠し言語知識〝アプ言語〟の取得。
この三つ、異様に難易度が高い。
その為、大体の裏キャラクターが出尽くしたと言われていた発売から二ヶ月後を、さらに一ヶ月過ぎた三ヶ月後にようやっと発見された。
この前のパーティー任務で、シド学園長の知人からも確信的な話が聞けた。
ハンティング・グローリアの関係者にも話を聞くことができた。顔を少し青ざめさせており、ハンティング・グローリア運営陣の約半数は寝耳に水であったらしい。裏ボスではなく、裏キャラクターは知っている人間が一部しかいなかったようだった。
現在でも、裏キャラクターに不快感を示した元ネタだと思われる実在人物の意向を受けて、アップデートで裏キャラクターを削除する対応もしている。
バラムガーデン側として出てきたスコールに、開幕謝罪を行っていたのが、少し憐れに思えるほどだった。
魔女大戦で話題性は十分。しかしその取扱いは要注意となっている〝魔女の騎士〟まで元ネタにするとは、誰一人思っていなかったらしい。
だからこそ、最初に発見して情報交流場で情報提供したプレイヤーも驚愕していた。
魔女大戦が終結して、それほど時間は立っていない。各国が国際的にも取り扱いに注意を払う実在人物を、あっさりキャラクター化した事に驚きコメントを書き込んでいた。
なお、一番驚愕したのはバラムガーデン側である。
そして現在。
元ネタにされた張本人。サイファーに確認してもらい、その意見で対応を決める事にした。
そのために、スコールはバラムガーデンの経費でハンティング・グローリアを購入し、ここまでせっせとプレイしたのだ。一部、隣の男にプレイを押し付けたりもしたが。
「いや別に、俺はどーでもいいんだが」
「よくない」
「……なんでお前が不機嫌なんだよ?」
困惑した顔のサイファーに、スコールはにっこりと微笑んだ。
その微笑みに温度はなく、とても怒っている事をサイファーに伝えてくる。
スコールは、困っているサイファーの顎に手を添えて、くいっと自分の方に向かせた。
「あんたを遊び道具にされたみたいで、ムカつくからだ」
「は?」
「俺のサイファーなのに、勝手に使われるのが腹立つってことだ」
すぐに意味を理解できなかったらしい。ぽかんと驚いた顔でスコールの顔を見つめるサイファーの顔が、みるみる赤く染まっていく。スコールの言葉と不機嫌な理由を、やっと理解してくれた事が嬉しくて、スコールはサイファーに手を伸ばす。
固まったままのサイファーを抱き締めて、スコールは目を閉じる。ばくばくと心臓の音が聞こえてきそうで、こっそりと笑ってしまう。
「…………なら、よ」
「ん?」
頭上から降ってきた言葉に、スコールは顔を上げる。
頬を赤く染めて、スコールの方を見ないサイファーが可愛く見える。末期だとスコール自身が自覚しているが、照れているサイファーは貴重品だ。
たっぷり堪能する為に、スコールは次の言葉を見つめて待つ。
「……うるせぇ」
熱視線が過ぎたらしい。手で目元を覆われる。瞼越しに当たる、サイファーの手の平が熱い。
そのまま素直にじっとしていたら、サイファーの言葉が聞こえてきた。
それは裏キャラクターに対する、サイファーなりの対応であり、バラムガーデン側が示すケジメのつけ方でもあったわけだが。
「……本気か?」
「お前が、許すならな」
予想外の言葉に、サイファーの手を退ける。スコールの視線の先で、悪童のようにサイファーは笑っていた。
サイファーの提案は、恐らくハンティング・グローリア側は予想していない返答ではあるだろう。意趣返しにもなるが、さらなる話題性を相手側に与えてしまう事でもある。
それでも。
「嫌か?」
「いや、それでいこう」
提案に同意すると思っていなかったサイファーは、スコールの同意に意外そうな顔をした。
その表情に、スコールは笑う。
「あんたと俺が、仲良しアピールに丁度いい」
耳元で落とされたスコールの声に、サイファーはますます顔を赤くした。
「そういう意図じゃねぇよ!」
「知ってる」
照れた顔に煽られて、スコールはサイファーに口づける。
目的を達成したので、もうサイファーの静止を受け入れるつもりもない。逃がさないように抱きしめたまま、スコールは存分にサイファーを食べ散らかした。
ゲーム画面上でプレイヤーキャラクターが、放置モーションの一つ。太陽に向かって身体を伸ばし、健康的なストレッチを行っている中。
現実では、非健全な行為が始まっていた。

四か月後。
社会現象にまで到達した、問題と話題性が複雑骨折したようなゲーム。
魔女大戦終結後に発売したゲームの中で、驚異的な販売数を達成したハンティング・グローリアは、待望の拡張パッチを発売した。
プレイヤーの要望に多かった不具合の解消。新規の依頼やアイテムにモンスターの追加。
そして小ネタのような、シリアルからギャグにコメディまで。世界観を広げるイベントの数々の追加。
その中で、話題性を攫ったのが、〝アプの森の先住民イベント〟である。
〝魔女の騎士〟が元ネタになっているであろう、少年キャラクターの隣。追加イベントで登場した新規キャラクターは、〝裏キャラクターの追加〟という世間の話題性の斜め上を飛び越えていった。
『楽しませてくれよ!』
共闘キャラクターとなった、少年キャラクターが喜々として漆黒の大剣を振り回す。
『俺の傍から離れるなよ』
やれやれと気だるそうに、それでもしっかりと仕事をこなす。少年キャラクターのお目付け役として合流し、プレイヤーキャラクターにも森の先人として、情報を教えてくれる頼れるお兄さん。

月の光を受けて輝く、ブラウンの長めの髪。
射貫かれるような冷めた眼差しの、灰青色の瞳。
背中に獅子の刺繍が施された、黒いジャケット。
…………の、三十歳前後の男。

少年キャラクターと対となるような、純白の大剣を担いで戦闘を行う、イケメンキャラクター。
誰が見ても、もしかしてと思うキャラクター要素。
そして、何より〝魔女の騎士〟と対になるような構成。
〝アプの森の先住民〟にだけ許され、先住民と精霊に認められた者だけが扱える、〝精霊〟の力を借りて作られる〝精霊アイテム〟の導入。
極めつけに、拡張パッチ名は〝Plant SeeDs〟。
拡張パッチの意味を含め、公式発表から〝バラムガーデン公認〟とスポンサー名に名前を連ねたそれは、多くの話題性を生む。
そして、各企業からハンティング・グローリア側に、コラボの依頼が舞い込む起爆剤になった。

元ネタにされた二人は、拡張パッチを経費で落として、話題のゲームをプレイする。
お互いに似てる似てないと言い合いながら、仲良くゲームをプレイする姿は、恋人にも兄弟にも見える有様であった。

 

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