❖ Plant SeeDs - 2/4

 

ハンティング・グローリアとは。
三ヶ月前に発売され、ゲーマーの話題性を掻っ攫っていった人気急上昇中の〝問題作〟である。
基本となるのは、モンスターハントゲーム。
プレイヤーは、村の防衛の為に派遣された新米ハンター。
モンスターや動物を狩猟し、依頼を熟していくスタンダードタイプだ。
ただその中身のシステムが、あまりにも細かい事が話題性を呼んだ。

モンスターを狩猟する。
『モンスター知識』が不足しているので、発見率及び遭遇率がゴミ確率。
まず『モンスター知識』が、何処で学べるのか探す羽目になる。
正解はハンター組合の無駄に奥まった所にある二階資料室。

狩猟したモンスターから部位を切り取る。
『解体知識』がないので、少ない量しか捕れない。
村にいる『解体知識』が豊富な、無駄にハイド性能が高い三代目猟師長を探す羽目になる。
正解は初期エリアの森の片隅、無駄に四つん這いになって狩猟している。

森で果実や薬草を採取する。
『植物知識』がないので、成否判定により採取ポイントで採取しても半分がゴミ。
もしくは採取ポイントを見つけられない。
及び『毒物汚染鑑定知識』がないので、元々毒があるのか、モンスターに汚染されたのか、食べても安全か不明。
安全ではないなら毒物が出来上がり、飲んだらデバフを食らう。
清く正しく安全な生活と素材提供をするために、村にある老舗の薬屋にて弟子入りを目指す羽目になる。ハンターなのに。
薬屋の調合士をしているおばあさんより『植物知識』を、素材鑑定士をしているおじいさんより『毒物汚染鑑定知識』を学ぶことができる。これは比較的に簡単なルートだ。

狩猟モンスターのランクが上がると、道具がなければ狩猟できないタイプも出てくる。
そのため、狩猟道具を増やしたい。
しかしながら、『狩猟知識(道具)』が不足しているので作れない。
及び、『狩猟検定◯段位合格証』がないので、使用許可がなく、使えない。
正解はハンター組合にいる狩猟道具マスターを探しだし、ハンター講座を受けて『狩猟知識(道具)』の取得する。
最終的にハンター組合の検定試験を受けて、『狩猟検定◯段位合格証』を取得する。
これにて、モンスターを狩猟する→ハンター講座を受ける(能力ステップアップ)→検定試験を受ける(次の依頼レベル解放)という巡回路が判明する。
なお、どこにも教えてくれるガイドキャラはいない。

提供された拠点生活(ボロ家)を修繕・リフォー厶したい。
お遊び要素と侮る事なかれ。モンスターハント前に拠点でご飯を食べると、バフスキルが付与できたり、状態異常が治るお得なコンテンツだ。
しかしここまでの流れで分かる通り、さくっと終わるわけもない。
まず『修繕知識(家)』が無いので、修繕できない。その為、キッチン設備が食糧庫が壊れているせいで、解放できない。
『建築知識』が足りないので、リフォームできない。その為、装備や道具などを保管する、保管庫の拡張ができない。
『修繕知識(家)』を持つ、ハンターを兼業している大工キャラ(実は先輩ハンター)を探して、『修繕知識(家)』を伝授してもらう。
定期的に村に訪れる行商人を経由して、リフォーム依頼を建築士の出す。
家のリフォームが進むと、選択肢によっては建築士に気に入られて『建築知識』を伝授してもらえる。伝授してもらうと、自力でリフォームが可能となるので、行商人を待たなくていいので便利。

等々、等々。

何をやるにしても、何を達成するにしても。
須らくこのハンティング・グローリアというゲームは、『知識』がモノを言うゲームである。
もはや『モンスターハント』というより、『知識ハンター』と称される羽目になる程、細かい知識が山と積まれている。
それを示すのが、初期依頼を全て熟すと〝ここからが本番です〟と言うより流れる、オープニングムービーとその文言。

『須らく、この世は知識と工夫である。』

先人の知識を、先駆者達の工夫を、それらを蓄え発展させるのは貴方である。
村を導き、偉大なる栄光の旗の下、モンスターを狩猟し自然と共生し戦い続けよ。
そして栄光の階段を上り、輝ける王となるがよい。

 

――――簡単に言うと。

 

ハンティング・グローリアは、狩猟ゲームの皮を被ったSF系生活RPGであった。
ひたすら図書館や石碑、実践や先人からの知識を取得していき、『知識GP(グローリア・ポイント)』を習得し、それを元手に自身のステータス強化や、道具の製作成功率を上げていく。
最終的に、村の地下に眠っていた、失われし先史文明と機械化された改造モンスターと、死闘を繰り広げる。
その果てに、プレイヤーは選択を迫られる。
要するにマルチエンディング形式。
先史文明は、多くを語らない。
ただアイテムの概要欄と、改造モンスターから読み取れる文面、村に残された伝承と、遺跡の文面だけが全てだ。
公式から回答アナウンスもない。
戦闘ゲーマーは燃えた。
箱庭ゲーマーも燃えた。
考察ゲーマーも燃えた。
元々、ハンティングゲームとしか宣伝していなかった分、謎多き大ボリュームのゲーム性に、多くの賛否両論生んで、三ヶ月。
無駄にリアリティ満載のモンスターハントのシステムや、無駄に現実に存在するモンスターを参考に作り上げられたキャラクターは、若い世代を中心として話題性を十分に攫っていた。
電波障害より解き放たれた現在、ネットワーク技術は留まる事を知らない。
動画投稿サービスや、ネット配信サービス等、コミュニティツールは増加と一途を辿っている。
ハンティング・グローリアというゲームは、その流れに偶然にも引っ掛かり、多くの話題性をネットワーク上で攫っている。
その話題性の一端をバラムガーデンが意図せず担ってしまい、賛否両論の原因の一つともなっている。
バラムガーデンとしては、寝耳に水だったわけだが。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

「ッチ」
ガチャガチャとコントローラーの操作音が、部屋に響く。
画面上では、プレイヤーキャラクターが大斧を担いで、ぶん回す。討伐依頼のドラゴン型モンスターが、咆哮を上げて向かってくる。
自分が買ったわけではない、今話題のハンティング・グローリアを、舌打ちしながらサイファーは操作する。
プレイヤーキャラクターは、回避に失敗して負傷していた。
攻撃に被弾したせいで、HPバーが半分以上消し飛んだまま動く。高難易度の依頼だと、死にゲーかと思うほどに、威力がおかしい攻撃が飛んでいくる。
次に被弾すると、確実に依頼は達成できない。強制帰宅タクシー(救難信号を受け取って救助後、村の自宅に搬送されるという名の死に戻りシステム)に乗るのは嫌だ。
回避して隙を狙う。モーションは頭に入れている。ただ久しぶりにゲームをしているせいか、今一つノリが分からない。
「よし」
モンスターからの強攻撃モーションを回避し、カウンターで一撃を入れる。画面上でプレイヤーキャラクターのサポートキャラクター(ムンバに似ている)が、勝利のファンファーレを慣らし、モンスターの討伐を完了する。
『解体知識』の熟練度をMAXまで育て上げたキャラクターのため、部位回収率は100%だ。さくさくと必要なアイテムを回収し、村に戻るボタンを押す。
次の行動をどうするか考えていると、ぎゅむっと腹の圧迫感が増した。
思わず、サイファーの眉間に皺が寄る。
「今度はなんだよ?」
「………別に」
サイファーの視線の先。
自分の腹に腕を回して抱きつき、胡座をかいている片足に頬をベッタリと貼り付けて、腰から下はだらんと力を抜いている。
軟体生物と化した、スコールがそこにいた。
ちなみに、サイファーはソファーの上で胡座をかき、スコールはそのサイファーに引っ付いているので、ソファーから余剰分の足は飛び出している。
それでもスコールは、サイファーから離れない。
それどころか、腹に回った腕は苦しいぐらいに抱きしめてくるし、時々頭をぐりぐりと押し付けてくる。視線は眠いのかぼうっとしている。顔は画面に向いているが、見ているように見えない。
正直言って、先程から邪魔すぎる。
「何か要望あるなら言えよ」
「…………畑」
「りょーかい」
ぼそりと呟かれた、ハンティング・グローリアの持ち主の要望を受けて、サイファーはゲームを操作する。
プレイヤーキャラクターが、畑仕事に精を出し、食料アイテムを確保しておく様を眺める。
『農業知識』と『植物知識』が別の知識である事に、このゲームの狂気を感じていっそ感心する。
採取の成功判定が多めである事に満足しつつ、サイファーは片手をコントローラーから外して、スコールの頭を撫でた。
文句も飛んでこない。
常ならば、ヘアセットに時間をかけるスコールは、頭を撫でられる事を嫌う。
しかし今は、ヘアセットもしていなければ、着替えてさえもいない。ゆったりとした部屋着を着て、サイファーに引っ付いているだけの軟体生物だ。
……仕方ねぇ奴。
こっそりとサイファーは苦笑する。
突如として、話題性は知っていたが興味のないハンティング・グローリアを、サイファーがプレイすることになったのは、目が座ったスコールにソファー押し倒され、コントローラーを押し付けられたからだ。
そのまま、腹に軟体生物の腕が絡んだまま、サイファーはゲームをプレイしている。
スコールが、やる気が無さすぎる生命体に退化した理由を、サイファーは知っているので、何も言わない。
ただ好き勝手に、スコールが時々要望するように、ゲームを進行させてプレイしている。
わしゃわしゃと頭を撫でていると、猫のようにスコールの身体がぐぐーっと伸びた。腕を支えに頭が持ち上がり、体勢を変える。
「おい」
サイファーの呼びかけに、返事はない。
画面を見るのではなく、サイファーの胡座をかいた隙間の上に乗り上げて、椅子のように隙間に尻を収める。正面からサイファーに腕を阻害しないように、両腕を回す。頭はサイファーの胸にピタリと引っ付いた。余剰となった足は、サイファーの胡座をかいた片足を支えに、三角座りとなって放り出されている。
要するに、胡座をかく男の足の間に、横向きに女モデルが座っているような、雑誌モデル体勢になった。
男同士で。
「邪魔だ」
「うん」
うん、ってなんだよと思いつつ、サイファーは舌打ちをした。
それを気にすることもなく、スコールは頭をぐりぐりと胸に擦り付けて、ほうっと満足そうに吐息を吐く。
胡座の上にぴったりフィットした邪魔すぎる男を抱え直して、重みでもびくともしない体を持つサイファーは、ゲームの操作を続投する。
凄まじく邪魔な、自分の強制装備品を意識からあえて除外し、画面上のプレイヤーキャラクターの装備を整える。
どのモンスターを戦おうかと、依頼ボードをぐるぐる見ていると、すぅっと自分の胸元で深呼吸されてイラッとした。
「……嗅ぐんじゃねぇよ」
「嫌だ」
ぎゅぅっと強く抱きしめて、臭いを嗅がれるなど、この男でなかったらファイガで秒速燃焼している頃だ。
何度も深呼吸するんじゃない。
「…………そんな嫌だったのかよ?」
サイファーの問いかけに、スコールは顔を上げた。げっそりと疲弊した顔で見上げるスコールの顔が、事実を存分に語っている。
もはや、椅子にされたサイファーは何も言えなかった。
その沈黙をどう解釈したのか、ぐっとスコールの背が伸びて、サイファーの顔に頭が近寄った。
何を求めているか分かっていて、サイファーは避けなかった。
拒絶もせず、受け入れる為に瞼を閉じる。
スコールは遠慮なく、サイファーの口を口で塞いだ。
「……ん」
不意打ちで、弱い上顎を舌で擽られて、サイファーの声が漏れた。その声を逃がさないように、スコールは深く口づける。
首にするりと両腕が回ってきて、逃げられない事をサイファーは悟った。
お互いの口の中で、舌同士が絡み合う。
最初は軽く挨拶のような触れあい。そこから、徐々に動きが激しくなっていく。絡みあい、吸っては、お互いにお互いの唾液を飲み交わす。
サイファーの足の上に乗っているせいで、スコールとサイファーの身長差はあってないようなものになっていた。
舌を強く吸われ、少し苛立ったので、サイファーもやり返す。
段々と、水音の激しさが増す。お互い酸欠になるまで、甘い空気よりも意地の張り合いになっていた。
やがて酸欠になり、自然と離れた口同士を、唾液の糸が繋ぐ。
それを舌で絡めて薙ぐようにスコールは、サイファーの唇を獣のように舐めた。
サイファーも、飲みきれない唾液で汚れていたスコールの口元を、舌で舐める。
まるで獣のように、お互いを舐めあいながら、動いていく。
コントローラーを握っている片手に、スコールがそっと触れてきた。
促されるように、サイファーはコントローラーを机の上に置く。
画面上のプレイヤーキャラクターは、いつの間にか採取ステージで自動周回モードに入っていた。
その画面をぼうっと確認していると、スコールがサイファーの上から退いた。
サイファーは、重みから解放された両足の胡座を解く。
じんわりと血流が戻っていく足を解き、そのまま立ち上がろうとしたサイファーに、スコールは再び口づけながら綺麗に押し倒した。
そこそこ大きい、それでも188cmの戦士体格が寝転がるには狭いソファーに、横向きにサイファーは転がされた。
予想していなかったと言えば、嘘になる。
リップキスの雨を降らされて、自然と落ちていた瞼をサイファーはこじ開ける。
見上げた視線の先、何処か拗ねたような顔のスコールがいる。
「……ここでかよ?」
「最後まで、やらない」
サイファーのお気に入りの、青地に白い十字模様が特徴的な半袖衣装。その留め金をスコールは摘み、ゆっくりと下ろしていく。
ジジジッと噛み合った金具が分かれていく音と、露わになる鍛えて盛り上がった胸筋と、美しく割れている腹筋が見える。
スコールとは違う、色白の肌も目に毒だった。
「…………少しだけ」
ごくんっと生唾を飲む音が聞こえて、サイファーは笑ってしまった。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

SeeDに届く依頼の中で、パーティーへの参加を前提とする任務は比較的に多い。
それは要人が集うが故の守秘義務という点で、数多くの傭兵業の中でもSeeDというブランドが群を抜いているからだ。
SeeDはパーティーのノウハウを知っているし、参加者にも、スタッフにも、警備員にも扮する事が出来る。無関係のパーティーの参加者に一切悟られずに、任務を完了した事例は数知れず。
前例が続けば、それに価値が生まれ、やがてブランドに成る。
設立より十数年であれど、積み上げた先人の努力という評判は強い。SeeDはパーティー会場の依頼率では、傭兵業界内でトップを走っている。
その日も、パーティーの警備員の補充という点で、SeeDに依頼があった。
同時に、同パーティー内部で、現行のガルバディア政府の反組織と繋がる裏組織の機密情報の交換があるというので、その情報奪取の別依頼も請け負った。
SeeDは二部隊に分かれ、其々に連携しながらも、二つの任務を同時に進行していた。

サイファーは、どちらの実働部隊にも、補佐部隊にも参加していない。

警備をするにしても、情報奪取の方を行うにしても、サイファーは目立つ。
それは、先の魔女大戦にて悪い意味で顔を売ったという事もある。
しかしサイファーが不参加になった最大の理由は、それではない。
最大の理由は、旧ガルバディア体制下の人間がいる場所に、サイファーを参加させる事を、スコールが異常な程に嫌がるからだ。
正式なSeeDではなくても、指揮官直属補佐官という役職を押し付けた以上、サイファーとてバラムガーデン側の人間としてパーティーに参加させられる事は皆無ではない。
それは、先の大戦の戦犯とも加害者とも、または被害者ともいえるような、国際的にも曖昧な立ち位置である〝魔女の騎士〟の手綱を、〝伝説のSeeD〟が握っているという対外アピールも兼ねている。
もしくは、バラムガーデン所属であることを、国際的にも示す為のパフォーマンスだ。
けれどその場所にガルバディア側が、特に旧体制派が参加していると、途端にスコールはサイファーの参加を勝手に取り消す。
しっかりと二重線で。
最初から不参加だったように、痕跡を消す。
一度、それで腹が立った怒り心頭のサイファーと、不機嫌すぎるスコールが口論から激突し、訓練施設で大暴れする事態に陥ったが、サイファーが折れる形になった。
結果として、過去のこの大激突のせいで、サイファーがパーティー関係の任務に行くことは稀になった。どうしても逃れられない時だけの参加が多い。
だからだろうか。
その代わりの様に、何故か周囲がパーティー会場で動くスコールの姿を伝えてくる。

今回もそうだ。

サイファーは知っている。
スコールが、彼に引っ付いて、離れなくなった理由を。
その一端に、ハンティング・グローリアが関わっていることも。

 

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