❖ 指揮官専属デリバリー・HONEY - 4/6

 

✟ トッピング増し鶏だし塩ラーメン ✟

 

スコールがバラムガーデンを不在だとしても、仕事はなくならない。
むしろ、指揮官がいないからこそ、代理業務がぐるっと回ってくる。
例え、その隙間にリノアが襲撃してきても。
セルフィから、今年度の学園祭のあれやこれやを振られても。
ゼルから、うっかりまたも没収されたTボードの返却懇願があれど。
古巣に戻っているアーヴァインから、ガルバディア国とガルバディアガーデンの間で行われた会議の報告書が送られてきたので、それを纏めたり。
再建中のトラビアガーデンに出張中のキスティスからも、定期報告が届いているので、それをチェック。
他にも、緊急性の高いSeeDの報告案件から、ただの定期報告に、今年度のSeeDの受講資格申請書の可否に。
……そろそろ、業務を区切って分けるか。
指揮官と補佐官、その他という指揮官室の緩い体制も限界に近付いてきた。
今はほぼ身内ともいえる仲間が多く、何かあれば補佐に入れるが、今後どうなるか分からない。
学園長とマスターであるイデアとの話し合いにて、ガーデンの運営業務は完全デジタル化を行わない事が決定している。
理由は数多くあるが、おおむね三者共に納得している事だ。
なら、バラムガーデンの組織改革が完了し、新生SeeDを売りに出している今、SeeD業務の拡大は運営上の確定路線だ。
……効率化を考える時期か。
本日の業務最後の書類にサインをしてから、ペンを放り投げる。
「んじゃ、後は頼むわ」
「了解。良休日」
「お疲れ様だもんよ~!」
今日の指揮官室の通常業務及び待機仲間だった、風神と雷神に手を振りながら退室する。
廊下を歩きながら、ふと明日の休日を考えた。
休日には、いつかやろうと思っていた用事を済ませる事が多い。
しかし偶然にも、明日は用事も何も入っていない。
久方ぶりの完全なるフリー。
「…………」
寮室へ続く道の途中で、足を止める。
ぐるりと回る思考で考え出した暇潰し。それを実行するべく、元来た道を戻り、目的地に向けて足を向けた。
……好奇心を満たすには、丁度いいな。
スコールもいない。完全に一人だけのフリー。
何をするにも、誰にも気を使う必要も、考える必要もない。
失敗したとしても、自分で対応するだけだ。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

本日、用意したのは食堂で引き取ってきた鶏ガラ(コカトリス)。
可食部を無くしたそれから、内臓や血を丁寧に洗い落として準備。
大鍋に入れて、一度茹でる。全体的に白っぽくなり、火が通った段階で一度ザルで鶏ガラを引き上げて湯を捨てる。
ザルに入っている鶏ガラを、もう一度流水で洗う。浮かんできた汚れを丁寧に洗ってから、再び大鍋へ。
そこそこの量の生姜とニンニクを刻む。青葱の青い部分も刻んで、それを全て大鍋に。
たっぷりの水と、料理酒も入れて、徐々に加熱。
沸騰した所で、アクを丁寧に取り除いて、コンロの火を弱火に。

 

――――そして気が付けば二時間経過。

 

……何してるんだろうな、俺様。
ぐつぐつ沸騰して煮込まれている大鍋を前に、仁王立ちをしながら考える。
やりたい事ではあったが、料理店でもない個人でやるのは正気の沙汰ではないと思っていたのに、なぜ手を出したのか。
……気になったから、仕方がねぇ。
鶏ガラスープは数多くあれど、コカトリスガラスープなんてレシピ、何処にもなかった。
それはそうだろうな、とも思う。
コカトリスの肉を食う事はあれど、コカトリスの骨でだしを取るまで考える奴は、基本的にいない。
バラムガーデンの食堂の奴らにも聞いたが、よく見知った彼女たちは俺の言葉に豪快に笑っていた。
出来たら感想を聞かせてくれとまで言われたので、この結果で食堂メニューが追加されるかもしれない。
……よくある鶏ガラスープのやり方の一つを選択したが、あってんのか?
成否も分からない。
誰もやったことがない未知の挑戦だ。
待てよ。実はかつて実行者はいたかもしれないな。だが情報が表に出ていないから、結局不明のままだ。
……いやだから、俺様は何をしているんだ?
一時間が経過した辺りから、自答自問が止まらない。
止まらないまま、二時間が経過して今だ。
ぐつぐつ煮込まれたスープが、徐々に黄色に染まってきている気がする。
……見れば見る程に、鶏ガラスープだ。
材料がコカトリスという情報が俺の頭になければ、誰も分からないぐらい見た目は鶏ガラスープだ。
大鍋に煮られている鶏ガラの骨が、通常の鶏ではありえないサイズでは無ければ、現状でも見た目も完璧だ。
そんなくだらない事をだらっと考えつつ、さらに一時間。
合計三時間じっくり煮込んだ、現状の物体X。
大き目のボウルを用意して、ザルを上にセット。
キッチンペーパーを一枚。いや二枚用意して、ザルの上にセット。
キッチンペーパーがズレないように、四方をキッチン用クリップで止める。
大鍋から、トングで取り出せるだけ固形物を取り出す。デカすぎる鶏ガラは、念入りに取り除く。細かい物は後で取るので無視。
ある程度取り終わったら、次。
両腕にキッチンミトンをしっかりと嵌めて、大鍋の取っ手を握る。
中身を零さないようにボウルに向かって、大鍋を傾ける。様々な物で濁っているスープが、キッチンペーパーでこされて、綺麗なスープになっていく。
全て注ぎ終えた大鍋をシンクの流しに置き、キッチンミトンを外す。
中身が零れないように、慎重にキッチン用クリップを外しながら、キッチンペーパーを上に引き上げていく。
四方を上で一つに纏めて、残った部分を絞ってボウルに落とす。
「……こんなもんか」
手の中に残ったぐしゃぐしゃのキッチンペーパーは、シンクの三角コーナーへ。

ボウルに並々と出来上がったのは、透き通った黄金色のスープだ。

顔を近づけて、香りを嗅ぐ。
臭いは完全に鶏だ。材料の可食部を考えれば、確かにそうだなと納得はできる。
お玉に一杯だけ掬って、小皿に入れる。
小皿から少しだけ味見。
……鶏だ。
何も感慨も驚きもなく、普通に鶏ガラスープだ。
コカトリスとは何だったのだろうか。やはり鶏肉なのかあれは。鶏から進化してモンスター化したのか?それともモンスターが弱体化して鶏になったのか?
……いやそれはどうでもいい。
コカトリスの謎はきっと誰かが解明してくれるだろう。
今はこの出来上がったスープの使い道だ。
……残すか少し。
ドリンクピッチャーを引っ張り出して、零さないようにお玉で掬って入れていく。ある程度入れ終わったら、そのまま冷蔵庫へ保存する。
ボウルに残ったスープ量を考えて、すぐに出来そうな料理を考える。
要するに俺の夜飯だ。
「あれにしよう」
ストックしてあった袋麺を取り出して、材料を取る為に野菜室を開けた。

 

バラムは島国で、昔から漁業が盛んだ。
だからこそ、短い時間で食べられるライスと総菜を合体した丼物や、出汁をたっぷり入れた汁に麺を突っ込むうどん等の麺類が発展した。
さらに時短をするべく誰か考案したのか不明だが、熱いままズルズルと音を立てて麺を啜る、独特の食べ方が根付いている。
その食べ方の仲間として、最近セントラ発祥。トラビアで魔改造した料理として、広まってきたものがある。
黄色い麺が特徴な麺類。つまりラーメンだ。
「あー……っと?」
作るのは二回目だ。一度目は分量通りきっちり作ったが、二回目だから魔改造してもいいだろう。
鍋に水を入れて沸騰……させることなく、ボウルに入った鶏ガラスープを沸騰させる。
袋麺から、固まっているラーメンを取り出して、沸騰したスープに入れる。
キッチンタイマーをセット。
今回の袋麺のスープの素は、前入れか。
……失敗してもいいから、全部入れちまえ。
青葱の、鶏ガラスープで使わなかった白い部分を包丁で刻み、鍋に入れる。
肉はどうするか考えたが、面倒になってパックタイプで購入したスライスハムを一つ開封。適当に刻んで入れる。
……他に何かあったか?
野菜室を覗くと、毟り続けた結果、小さな小玉になったレタスが出てきた。あと使いかけで残り少ないミニトマト。
……これでいくか。
このままだとスープの味が濃そうだ。どうせなら野菜室の整理を兼ねて、色々入れてしまえばいい。
レタスを一口サイズに切り、ミニトマトは半分に切る。
そしてそのまま、全て鍋に入れる。
使ったものを全て流しの近くに置いておく。時間がないから、後で片付ける。
キッチンタイマーが鳴ったので、冷蔵庫から卵を一つ取り出す。
コンロの火を切って、箸で真ん中を開ける。
時短で出来るようになった、片手で卵を割る手法。パカッと殻を割り、卵が落ちれば、完成。
「……このまま食うか」
鍋敷きを掴んで、ダイニングテーブルに移動する。
そのまま鍋敷きを置いて、その上にラーメンの入った鍋を置く。
キッチンに戻り、取り皿を一つ。冷蔵庫からミネラルウォーターをボトル一本掴んで出す。コップはいらない。一人だからそのまま飲む。
取り皿をテーブルにセットして、スプーンと箸をおいて。

――――食べる寸前に、少しだけ考える。

三週間、スコールがいない日々。
これは寮で同室生活をしている中で、今までで一番長い不在期間だ。
お互いに、なんだかんだと忙しい。
そして何より、スコールは〝伝説のSeeD〟と本人として不本意ながら言われる、今を時めく歴史に残ると確定している〝話題の人物〟だ。
SeeDが警備任務も請け負っている都合上、話題の人物に会うべく高額報酬をぽんっと投げてくる上流階級もいる。
それでも、高額な指名依頼を蹴り飛ばして、バラムガーデンから一週間以上離れる任務を、スコールは請け負わなかった。
どうしてもという時は、何故か俺を引っ張って行く。
今回の任務でも散々ぐだぐだ言っているのを、鬱陶しい思いで無視していた。
……後から何か心境の変化でもあったのか、素直に出発をしたのが不気味だったが。
深く考えても無駄だ。鬱陶しさが減ったのは清々しい思いだった。
そんな軽く考えていた出発直前。
ふと顔を上げて、スコールがこちらを真顔で見た。
『俺がいない間。誘われても、どこにも付いていくなよ』
俺をなんだと思っているんだと、どう文句をつけようか黙っていると、深々と溜息を付いた。
『今、あんたを口説いてるのは俺なんだから、俺以外に口説かれるなよ』
こいつは何を言っているんだと、理解する前に。
『わかったな』
ビシッ!と無駄にこちらを指差ししてから、ラグナロクに乗船していく後ろ姿を見送った。
何かを言おうとして、何も言葉が浮かばず、思わず後ろを振り返る。
あらまぁ、と顔に書いてある、お見送りメンバーの一人。よりにもよってイデアと目が合った。
にこにこ笑っているイデアに、もはや何も言えないまま、その場を立ち去る羽目になった。
あれは戦略的撤退だ。逃げたわけじゃない。違う。
……思い出したら、腹が立ってきたな。
イデアに見られたのもそうだが、何より不満そうにこちらを睨みつけてきた、あの視線が気に食わない。
あの態度も気に入らない。
本当に、あれは馬鹿だと思う。
……いるわけねぇだろ、お前以外に。そんなもの好き。
サイファー・アルマシーを口説く人間がいると、打算もなく、欲望もなく、ただ恋人になって欲しいと口説く奴がいると信じて疑っていない。
個人的に、頭が花畑にでもなったかと思うような、発想をしている馬鹿。

――――思い出していたら、ふいに魔が差した。

業務以外で初めて、情報端末のメール機能を開く。
添付ファイルの項目にあるカメラマークを押して、カメラモードにしてから、目の前の夜飯を写真に撮った。
文面には何も書かない。
ただ、このラーメンの写真だけ貼り付けて、そのまま送信ボタンを押した。
……これでいい。
情報端末をテーブルに転がして、ラーメンを食べる前に手を合わせる。
そのまま左手でスプーンを握り、スープを掬って一口。
思ったより味は濃く無かった。丁度良く野菜で薄まったらしい。鶏ガラ(コカトリス)スープと塩味が、いい具合に混ざって美味い。
……初めての改造にしては上出来か。
鶏ガラスープを作ったという点で考えても、これは成功でいいだろう。
箸を右手で構えて、トッピングの山から麺を引っ張り出す。一度、二度と息を吹きかけてから、思いっきり啜る。
……最初に作った時より、美味いかもしれない。
水から作るより、出汁で作った方がラーメンも美味いのかもしれない。
スープの旨味だと思うが、味がまろやかだ。
塩と鶏の相性がいい事も成功の理由だろう。
……スープの素付き袋麺より、ラーメンの麺だけ買って、一から作っても楽しいかもな。
時間は捻出して、また暇潰しに作ってもいいかもしれない。
その時は鶏ガラは止めて、昆布やキノコとか簡単な具材で出汁をやる。もう鶏ガラは二度と作らねぇ。無理。三時間は虚無の時間だった。
芯の残ったレタスのシャキシャキ触感を楽しみ、ミニトマトの酸味、葱の甘さを楽しんでいると、情報端末が着信を知らせてくる。
……これはメールだな。
パカパカ光っている情報端末を見ながら、ハムで麺を挟んで、大口で啜る。
ずるずると口の中に入る途中で、スープも啜れるので美味い。この食い方を考えた昔のバラム漁師はたぶん天才だ。漁で忙しすぎて、早食いを求めただけのような気もするが。
……しつこいな。
パカパカ光り続けているという事は、何度も着信があるという事だ。
口の中に詰め込んだものを噛みしめながら、行儀が悪いが情報端末の画面を開く。着信履歴は案の定、一名様のみだ。

 

一通目のメールを開く。
『は??????』
何を伝えたいんだこいつは。
しかも文面これだけで件名もねぇ。なんなんだよ。

 

二通目を押して開く。
『いやちょっと待て。これあんたの飯か?今食べてるのか?あんたの夜飯なんだよな?美味そうなんだが????』
だから何が伝えたいんだよこれは。
また件名がねぇし。

 

三通目を開く。
『ラーメン?!あんたラーメン作れるのか!?俺が食べた事がない物を!俺がいない時に食うなよ!!!美味そうだろうが!!!食いたくなるだろ!!!!』
何だこのめんどくせぇ男。
件名が『許さない』になってる。食い意地が張り過ぎだろ。

 

四通目。
『あんたの飯が三週間食えない俺に虐めか???結構色々とこっちは来てるんだぞ!!あんたの飯食いたいのに食えないから腹が立つしエスタの料理よくわからないしあんたの料理食べたいそれ食わせろ』
なんか、どんどん文面が伸びていくな。そんなに料理的に欲求不満かこいつ。
件名が『よこせ』になってる。地味に芸を仕込むんじゃねぇよ。

 

テーブルに画面を表示したまま情報端末を転がして、麺を啜る。
ミニトマトは味変として、レタスは食感違いで入れて正解だった。葱とハムもいい。この組み合わせでまた作るか。
……これが帰ってきた後に。
口を動かしながら、情報端末を手に取る。
食べかけの写真を撮って、添付ファイルとしてつける。

『任務終わって、帰ってきたら食わせてやるよ』

送信ボタンを押して、情報端末をテーブルに置く。
最後の麺を啜り、トッピングも全て完食する。
鍋に残ったスープが勿体ないので、もう鍋を抱えて直接口をつける。
行儀が悪いが俺しかいない。気にせず傾けた。
喉を通る、まだ温かいスープが心地いい。鶏ガラも美味いが、塩も美味い。
思ったより満足感のある夜飯だった。スープも残らず飲み干した。
満腹感で少し眠いが、キッチンを片付けないと眠れない。
くわりと、あくびをしながら立ち上がると、情報端末に着信がきた。

 

五通目。
『今よこせ』

 

絶対に無理だと分かっている癖に、送らせてきたメールの文面が馬鹿らしすぎて。
次のメールを送ってから、テーブルに情報端末を戻してキッチンに向かった。

『ご褒美あって嬉しいだろ?いい子で仕事しろよ。指揮官様』

キッチンで片付けを終えて、情報端末を見る。
次に届いているメール着信がある事に、思わず笑った。

 

全部無視して寝た。

 

 

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