❖ 指揮官専属デリバリー・HONEY - 2/6

 

✟ 適当なブルスケッタ ✟

 

米は長期保存できるから、備蓄を切らさないように定期購入。
乾麺も長期保存でき、かつ応用が効くので在庫は切らさない。
パンケーキミックスも、主食や菓子の代用にも使えるので、必ず常備。
問題はパンだ。
流石に、強力粉とドライイーストを常備する勇気はない。時々、気分転換に手を出すことはあるが、常備していない。
手製のパスタ麺もそうだが、こういうのは本当に時間のある時や、気まぐれを起こした時に材料を揃えたほうがいい。
……俺は経験で知っている。
やる気もなく、なんとなくで材料を揃えた結果。賞味期限ギリギリで思い出すことがあるからだ。
風紀委員時代にやらかして、忙しい中で消費に全力になった日々は、今思い出しても得難い経験であり失敗だった。
ということで、パンは基本的に出来立てを購入して貯蓄している。
特にハードパンの類は、冷凍すればそこそこの長期保存に向いている。その結果、よく買ってしまう。
本音を言うと、ハード系のパンが好みだからだ。あいつの好みは知らねぇ。
買い溜めした食料をざっと思い出しながら、らしくもなくグダグダと寝転がっている。
今日は、一日休み。
そして一人っきり。
時計を見れば、午前9時。
「……あり合わせで行くか」
空いた小腹に適当に詰めようと、引き篭もっていた布団の要塞から脱出した。
適当に着替えて、ふらりと共用エリアに出れば、机の上に律儀に置かれたメモ用紙。書かれた文字を読まないまま、足はキッチンに一直線。
冷凍庫からスライスされた一品。元々は棒状だったハードパンを、袋から適当に掴み取る。四……いや、気分は六枚。
取り出した六枚を耐熱皿に並べて、電子レンジに突っ込み、無駄に高性能なモード選択で解凍ボタンを押す。冷凍のままトースターで焼いてもいいが、今日はきっちり作りたい気分だ。
解凍できた合図音がしたので、パンを取り出して、トースターに並べる。そのままぐるりとタイマーダイヤルを一回転。そのまま元に戻して、焼く時間にセット。
焼けるまでの間に、具材を用意。
ついでに冷蔵庫からカット済みタイプのバターを一つ取り出して、包装を剥いで置いておく。常温で溶けるだろ。
野菜室からトマトとアボカドを取り出す。トマトのヘタや、アボカドの皮を取り除いて、全て包丁で1㎝程に切る。
アボカドは一時、まな板の隅に置いておいて、トマトだけをボウルに入れる。
スパイス瓶シリーズとして売っている、お手軽バジルを棚から取り出す。ワンタッチ式の蓋を開けて、トマトに適当に振りかける。心持ち、多めに。
その他にオリーブオイルと果実酢を入れ、塩と胡椒。隠し味に砂糖を一つまみ。全てを投下し終えたら、スプーンで適当に掻き混ぜる。
軽快な音で、トースターが焼き上がりを告げた。
食器棚から平皿を取り出す。
取り出したフォークで、バターを一押し。緩く沈む柔らかさに頷いて、六枚に薄っすら塗っていく。たっぷり塗らなくていい。あくまで、パンが水分で台無しにならないようにする予防策だ。
本当は、おろしニンニクやオリーブオイルを塗るのだが、本日の気分はバターだ。どうせ一人だし、好き勝手にする。
準備が整ったパンを六枚、平皿に並べる。
その上に、ボウルに用意していた具材をスプーンで乗せていく。まずは三枚分。
こんもりと乗せ終えたら、まな板の隅に待機させていたアボカドを追加して混ぜる。
混ぜ終えたら、残りの三枚にこんもりと持っていく。

――――これで、朝食用のブルスケッタが完成。

それはそれとして。
…………余ったな。
ボウルの中を覗き込む。調子に乗って量を作りすぎたらしい。
断じて。
そう、断じて。
……二人暮らしに慣れ過ぎたわけではない。
一瞬、脳裏を横切った考えを捨てる。
少しだけ考えて、缶詰の保管場所からツナ缶と、冷蔵庫から粉チーズを取り出す。
残ったボウルの中に、缶詰を開けて油を切ったツナを投下。追撃に粉チーズをたっぷり振りかけて、しっかりと混ぜ合わせる。
「こんなもんか」
料理の出来上がった平皿と、ボウルをそのままダイニングテーブルへ持っていく。
なんとなくテレビのスイッチをつけて、朝のニュース番組を流しておく。
最後に、冷蔵庫から常備している牛乳を取り出して、マグカップに並々と注ぐ。
「ん」
マグカップをテーブルに置いて、椅子に座る。
雑音にしかならないテレビの音を流し聞きながら、両手を合わせた。

「いただきます」

一人だけ、というのは慣れている。
しかし少しだけ違和感を感じている。それを不服に思いながら、トマトのブルスケッタを一口齧る。
よくある一般的な組み合わせ。トマトとバジルが口の中に満ちる。さっぱりとする果実酢も入っているので、食べやすい。
もう一つの、トマトとアボカドも齧る。アボカドが追加されている分、食べ応えがある。とは言えども、同居人の肉食獣には不評になる未来が見える。
……肉、一つもねぇもんな。
あの肉好きはどこから来たのかと疑問に思う。
余剰分で作った、トマトとアボカドにツナと粉チーズを混ぜたサラダを、フォークで突き刺して食べる。
同じ材料と味付けだが、追加された具材や調味料で、味に変化が出て飽きない。
美味い。
自分の好みの味だし、満足感は十分ある。
しかしながら。
……どうするかな。
手と口は食べ進めているが、どうしても。
どうしても頭の片隅で、三週間の献立に悩んでいる自分がいて、溜息をついた。

 

サイファー・アルマシーが、バラムガーデンに回収されてから。
スコールの補佐官として、任命された日から。
初めてサイファーは、名目上とはいえ自分の管理者不在の日々を送る羽目になっている。
三週間。
一ヶ月というには短く、少しの間というには長い。
そんな中途半端なこれからの日々を思って、頭の中に入ってこないニュースを聞きながら、サイファーは朝食を食べ終えた。

 

 

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