❖ 僕らのハロウィン★ナイト! - 7/8

 

「どうするんだ、あんた」
「うるせぇよ」
「酸欠で頭が回ってない中、派手にやらかしてるんだぞ」
「うるせぇって」
「見ろよ。俺のこの通知履歴。イデアと学園長に、セルフィにキスティスに、リノアにゼルにアーヴァインにシュウ先輩にニーダにって、まだいるし多すぎる」
「……うるせぇ」
「風神からも来たぞ。なんで皆、俺にあんたの事を連絡するんだよ」
「…………」
「あんたに直接言えって言っていいか」
「……煩い」
金属の床に転がりながら、サイファーはひたすらに煩いと繰り返した。
スコールが色々言っている事さえ、煩わしい。
分かっている。
十分に分かっている。
分かっているから黙って欲しい。
自分がやらかした事を、今更ながら自覚出来たせいで、サイファーの脳内会議は紛糾しているからだ。

一般市民が沢山いる中で、
大剣を抜く。
斬撃を飛ばす。
疑似魔法を四連発出す。

本来ならば、危険行為すぎて反省文ものだ。
しかし、これらが人助けになってしまっている為、反省文は回避されているはず。
だが同時に、別の問題が出ていた。
あまりにも話題になりすぎて、バラムのハロウィンイベントを電子の海で検索すると、必ずそれに辿り着く。

――――ハロウィンナイト。

ニヒルに笑った、身体に見合わないデカいカボチャ頭。
全身漆黒の甲冑服。背中に翻るマントはかっこいいが、その背中に書かれた〝お掃除見守り隊〟という文面がチャームポイント。
ずらっと並んでいる話題は、全てこのお化け騎士。誰かから〝ハロウィンナイト〟と名付けられた彼に対する、無数の反応だ。

 

大剣を抜く姿がかっこいい。
危険行為すぎる。
猫ちゃん守ってる凄い。
疑似魔法の展開速度がおかしい。
手段が危険すぎるだろ。
何してんだこいつ。
斬撃気楽に飛び過ぎ――――!?
処理能力が早すぎる頭おかしい。
大剣使いって、皆がこれできるの?
できません。
風評被害過ぎる。
大剣使いやめて転職するべきか。
疑似魔法すごいな。こんな速度でやれるんだ。
やれねぇよふざけるな。
バケモンだよこれ。
中身絶対にSeeD!SeeDだよ!!
ありえる~~~~~~!!
絶対かっこいい。結婚してくれ。

 

「殺そう」
「何言ってんだお前?」
ネットワーク上で飛び交う、ハロウィンナイトの評価。
その一部を読んでいたスコールが、真顔で言い放った言葉にサイファーは顔を顰めている。
「俺のモノと結婚しようとは、いい度胸だ」
「誰が誰のだってぇ?」
「あんたが俺のもの」
「ふざけんな」
「ふざけてない」
流石に様子がおかしいと思い、サイファーは身体を起こした。
「嫌に不機嫌じゃねぇか。何か気に食わない事あったのかよ?」
「あんた」
「……あ?」
「あんたが気に食わない」
「言うじゃねぇか」
だんだん腹が立ってきて、サイファーは顔を顰めつつ振り返る。
その視線を交わらせる必要もない程に、至近距離で魔女がこちらを見据えていた。

 

――――魔女の皮を被った、嫉妬の化け物が。

 

瞳孔が開いたような、殺気交じりの視線。
殺す、という言葉が気楽に出てくる、精神状況。
思えば昔から、この男は執着心だけは人一倍強かった。
一度自分のモノだと思えば、絶対に掴んで離さない。
自分の姉だったエルオーネへの執着心と、依存心がいい例だった。
リノアとこれが付き合っていた頃の、リノアと仲間以外の人間が近くにいた時の、無表情を装った不機嫌全開の眼差しが、彼の執着心をまざまざと突き付けていた。
そういえばそうだった。
このコンプレックスの塊は、自分のモノだと思うと、執着と依存が強くなる。
だがまさか、それがサイファー自身に適応されるとは、サイファー自身が思っていなかった。
お互いに言葉にすれば、何重にも重なる関係性の積み重ねだ。
例えライバルと称されていても、お互いが競い合う関係だと納得しても、はっきりとこうであると明言できる関係性を固定できない。
だからこそ、一つぐらい関係性が追加されたところで、態度が変わるわけがない。
「お前、まさか」
もしかしたら違うのではないかと、サイファーは自分の思い違いの可能性を考える。
絶対に外で外すなと、仕事に赴く際に言われた言葉の意味。
先の魔女大戦にて、未だに賛否両論ある〝魔女の騎士〟だから顔を見せるなと、そういう意味だと思っていた。
……思って、いたが。
まさか周囲への牽制のつもりだったのか。
まさか周囲で騒ぐ、有象無象に嫉妬してるのか。
……んな馬鹿な。
例え関係性が増えたとして、自分たちの在り方に変わりはない。そのはずだという疑問が、サイファーの口から零れ落ちる前に。

――――膝立ちになったスコールが、サイファーの両肩を押した。

脳内会議に気を取られて、反応が遅れた。スコールの予想外の動きに反応する前に、サイファーは強引に押し倒された。
「っ!」
全身に纏う金属鎧と内側の肉体が、勢いよく押し倒されたせいでお互いにぶつかり合う。自然と呼吸が乱れた。

「全然あんたに届いてないから、思い知らせてやろうと思って」

男性骨格を隠すために、たっぷりと重ねられた布が重しになる。
逆光でスコールの顔が見づらいが、その声色は本気そのものだった。
「……いや、マジか?」
スコールが何をしようとしているのか理解して、サイファーは背筋がゾッとした。
ここは秘密の場所だ。
つまり、外だ。

 

「あんたが俺のモノだって、知らしめてやる」

 

それは、目が完全に据わっている。
嫉妬の劫火で焼かれた獅子は、とうに頭のネジが飛んでいた。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

ハロウィンのイベント開催是非の会議時に、セルフィ囁かれた言葉は、一つだけ。
そう、たった一つだけだった。

『仮装だから、サイファーとデートしやすくなるで?』

スコールとサイファーは、恋人同士だ。
それを公表した事は一切ないし、話したこともない。
幼馴染。
腐れ縁。
ライバル。
英雄と悪役。
伝説のSeeDと魔女の騎士。
言葉にできる関係図も、言葉にできない関係図も、沢山詰め込まれているのが、スコールとサイファーの関係だった。
そこにそっと、恋人という関係が追加されただけ。
スコールは自覚していた。
自分がとても嫉妬深い。否、執念深く嫉妬しやすい性質であることを。
執着心と依存心は、山より高く海より深い。自分から納得して手放すならまだしも、誰かに言われて手放すなんて真っ平だ。
リノアと別れた時も仲間たちに色々言われたが、お互いの夢の為に円満に別れただけだ。

スコールは、バラムガーデンの為、ひいては未来のSeeDの為に。
リノアは、ティンバーが夢見る独立の為に、ひいては彼女自身が選んだ本気の為に。

それでも仲間であった事実は変わりない。
今までも、これからも、立場が違う事はあっても仲間であり、彼女の新たなる魔女の騎士が現れるまでは、自分は引き続き魔女の騎士であり続ける。
……別れた時に、凄く驚いてたな。
そういえばそうだったなと、懐かしく思いながら、スコールは自分の下に敷いた男を真顔で見下ろした。
これがぐだぐだと考えている事は、理解している。
それがバラムガーデン側に立った意見であり、きっと男が正しいと理解している。
それでも。
いやだからこそ。
活発に外を出歩いていた男が、バラムガーデンに引き籠っている事実が、なんとなく気に食わない。
魔女の騎士である自身の影響力を考えて、意図的に任務以外で出歩かないようにしていると、理解はしている。それをスコールが納得できるかは、別問題だ。
だから、気楽に彼が出歩けるように、自分が傍にいて引率すれば何か言われても言い訳が立つように、デートしようと思っていたのに。
……思って、いたのに!!!
何を人目が多い所で曲芸なんて披露しているんだ仮装の意味を辞書で引け四連発ジャンクションなし疑似魔法の連発なんてできる人員はあんたを含めて数人しかいないんだぞ身バレするだろうがふざけるな仮装の意味を問えこの馬鹿野郎が俺のモノなのに何主張を繰り広げているんだ俺のモノだって言ってるだろうがふざけるな見るな減るだろうが負けず嫌いのプライド高い男が頭を垂れるのは俺だけであってお前らじゃないし俺のモノなのに何好き放題言いやがってふざけるな!!!!!!

 

「全部あんたのせいだ」
「まてまてまてまて!!」

 

ガッ!と鎧のパーツを剥ぎ取ろうとするモンスターに、ハロウィンナイトは立ち向かう。
全ては、皆の楽しいハロウィンの為に。
あと自分の尊厳の為に。
新たに生まれたハロウィンお化けの、最初の仕事は嫉妬のモンスターの迎撃であった。
なおモンスターは恋人である。

 

 

後に、バラムのハロウィンイベントは、毎年恒例行事。季節の目玉イベントとして定着。
イベント運営スタッフが、仮装をして練り歩き、掃除や警備等の業務に関わる事は恒例化した。
その中の一つ。
動物お掃除スタッフの中、猫部隊に必ず付いてくるお目付け役。
大きな大剣を背負い、チャームポイントを貼り付けた豪華なマントを翻す、デカすぎる頭にニヒルな笑みのカボチャ頭を乗せた、全身鎧のお化け騎士。

 

新たに生まれた島国お化け、ハロウィンナイトが定番化するのは、きっと必然であった。

 

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