❖ 僕らのハロウィン★ナイト! - 5/8

 

定められた時間による業務を終えて、一息つく。
そこまで苦ではないが、頭が重い。どちらかというと、バランスが崩れそうな感覚が、気持ち悪くて、被り物の下で舌打ちする。
荷台を引きながら、最終的なゴミ収集場への道すがら、わいわいと小声で話して楽しそうに歩く小さな子供達。
どうして自分がこの役にと、幾度目かの溜息が零れ落ちそうだった。
その道すがら、トラブルが出た。
通りすがる誰かの悲鳴。
逃げるように叫ぶ通行人。
メキメキと拉げる音。
慌てている周囲と、崩れそうな屋台の主の絶望顔。
猫に扮した子供達の、小さな悲鳴。
……別に、このまま見過ごしてもいい。
おそらく杜撰な準備を行って、屋台のメンテナンスを怠ったか、それとも屋台の資材料金をケチったか。
いずれにしても、小さな人災であることは明白だ。
勝手にしてろと捨てる事も簡単だ。
……はぁ、めんどくせぇ。
これは子供の祭りだ。
子供を主体とした、祭りだ。
ならその子供達が悲しく怖い思いをすることを、きっとイデアは……あの夫婦は許さない。
溜息を飲み込んで、背中に背負った大剣を引き抜く。
右手の中で一回転。
頭の中で疑似魔法の使用演算を組み立てながら、一歩前へ。
左手で、子供の頭に手を置く。
それだけでぴたりと止まった掃除部隊の子供の群れに、教育が行き届いている事を確認して、さらに一歩。
右手で大剣を振り抜く。距離はあるが、届かない事はない。斬撃を飛ばすことなど日常茶飯事だ。欠伸をしていたって出せる。
こちらの行動に慌てて、屋台の主が頭を下げた事は分かった。下げなくても当てるわけねぇだろうが。
へし折れる屋台の上、屋根の部分と焼き台と土台を切り離す。
大剣を背中に収納しながら、左手で指を鳴らす。

一度目で、軽度のレビテト。屋根の部分をさらに上に浮かせる。
二度目で、頑丈に作ったプロテス。バリアで屋根部分を包み込む。
三度目で、ファイガ。プロテスの中にある、屋根の部分を燃焼。
四度目で、ブリザガ。燃え滓を瞬時に凍らせて、氷の小玉に返る。

「あいてっ!?」
屋台の店主の頭の上に、氷の小玉が降り注いでいるが、知った事じゃない。
周囲が静かだが、それもどうでもいい。
普通に頭が重すぎる。
この被り物、もし来年もあるなら軽量化を訴えてやる。
振り返ると、ぽかんっと大口を開けている猫軍団。
声を出さないで、一番近くにいた子供の頭に手を乗せてから、荷台を押す作業に戻る。
前方から走ってくる、イベント運営委員会のトラブル担当チームとすれ違ったあたりで、後ろからドッと音が響いている。
頭が重たい。
早く脱ぎたい。
溜息を飲み込んで、荷車をガラガラと押していると、興奮した猫の叫び声と駆け足が後ろから聞こえてきた。
どうでもいいが、早く頭を外したい。
……外せねぇけどな。
絶対に外で外すなと、睨みつけるように言った面倒が多い腐れ縁の男の視線を思い出して、耐えられなかった溜息が深々と出た。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

「おお~~!思ったよりも大盛況や!」
電波障害から解放された今日、ネットワークという電脳世界は情報交流が盛んである。
それは観光事業に良くも悪くも活用されており、セルフィが見ている情報掲示板も、その中の一つだ。
白い兎の耳に、もこもこのミニスカート。お尻の部分には尻尾に扮したぼんぼんの毛玉アクセサリーが付いていて、白いブーツで足元も完璧に防御。
そんな露出がないバニーガールに扮したセルフィは、イベント会場の警備室にて、興奮からバタバタと両足を動かしていた。
「にしても、よかったのここで?」
「うん、いいの!」
警備室の中、リノアはにっこりと微笑んだ。
その衣装はスコールと似ているようで異なる、ボディラインが見える黒いマーメイドドレス。
机の上に置いてあるのは、白い造花で飾られている大きな尖がり帽子。
何処か古びたデザインなのは、このマーメイドドレスが彼女の母親の遺品だからだ。
箪笥の肥やしになっていたのを、父親との壮大な縁切り喧嘩の際に、根こそぎ私物を持って行った時に紛れていたもの。それを今回の仮装の衣装として、お色直し。
結果、立派にアンティークのようなドレスに仕上がっていて、それを着れたリノアはそれだけでもう満足だった。
けれど、セルフィは悟っていた。
リノアはきっと、現代の魔女として有名になってしまったからこそ、人の多い場所に行かないようにしているという事に。
だから、友達として言うなら一つだ。
「じゃぁ、私の警備シフト終わったら、一緒に回ろうよ!絶対楽しいよ!」
きょとりと驚いた顔のリノアが、セルフィの言葉を理解して、満面の笑みを浮かべた。
「うん!」

今日は仮装のお祭り。
お化けが街中を闊歩する、誰か分からない誰かのお祭り。
本物の魔女が紛れ込んだとしても、誰も気にしない。
そんな素敵なお祭りだ。

「ん?なんやろ」
ぴこぴこと情報端末が、セルフィに電話通知を告げる。
「はーい、こちら警備室~!」
応答したイベント取り纏め。イベント運営委員トップに君臨しているセルフィの耳に、飛び込んできた言葉。
「――――なんて?」
それは、現在のお祭り会場で巻き起こっている、トラブルを解決する為に尽力する委員会の一人からだった。
ただその内容が、全く頭に入ってこない。
『いや、ですから!』
電話の向こう側は、大盛況のようで、わいわい賑わっている。
声がとても聞き取りにくい。
トンカントンカン鳴り響いているのは、おそらく何かを作っている事は分かる。
向こう側の状況は分かる。
しかし耳に飛び込んできた言葉は、セルフィの理解を超えた。

 

『〝ハロウィンナイト〟に関する取材申し込みが殺到しているんです!!どうしますか!?」

 

バラムガーデン主催、バラム島国協賛。
小さな国を一つ巻き込んだ、盛大なハロウィンパーティー。
初回開催だとしても、大盛況。
第二回を考えるぐらいの良き手応え。バラム島国側もこれにはニッコリ。
特に、運営陣側を〝突発イベント要員〟にしてしまう事で、どんな清掃・工事・案内・警備もイベント感覚にしてしまう、お祭り世界に浸れる催し。
その仕組みとノウハウは、SeeDに依頼という形で、町興しアドバイザーの需要を伸ばす一方。

 

「〝ハロウィンナイト〟ってなんやねん!!!!??」
『俺が知りたいんですけどぉぉおおお!!!??』
「えっ、何どうしたの!?」

 

あまりにも素敵なお祭りだったからこそ、
――――受け継がれていく、〝一つの伝説〟が生まれてしまった。

 

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