❖ 僕らのハロウィン★ナイト! - 4/8

 

想定よりも規模が拡大し、会場警備の任務を請け負うこととなり、バラムガーデン総出でハロウィンイベントを乗り切る事になった。
それはいい。
ただ、スコールが想定していない事態が多発しただけで。

「 お い 」
「いや~~ん!スコール綺麗~~!」

ドスの効いた呼び声も何のその、話を聞きつけて遊びに……否、助っ人に来ていたリノアは、自身の会心の出来にニマニマと緩む笑顔を隠せない。
己の魔女兼元恋人を見つめつつ、スコールは溜息をつく。深々とついた吐息と共に肩が落ち、さらりと肩から長い髪が零れ落ちた。

ストレートロングの黒髪ウィッグ。
碧色のカラーコンタクトレンズを入れた瞳。
詰め物をされて、そこそこのサイズにされたバスト。
喉仏を隠す首元のスカーフ。
肩幅を隠すために、布飾りや金属製の飾り留め具で盛られたドレス。

下半身のあれこれを隠すために、たっぷりとボリュームを盛られた腰から下は、特にふんわりとした軽やかさをイメージしている。
ゴシックというには軽く、パーティードレスと言うには華やかさに欠ける。
そして最大の特徴は、見た目にははっきりわからない、深すぎる切れ込み。
たっぷりとした漆黒の布レースで盛り付けられた裾の下、何層にも重ねられた布の一番の内側に、足を大きく上げても苦にならない切れ込みが入っていた。
額の傷を隠すべく、リノア渾身の出来である化粧をされた顔は、切れ長の美しい目を不機嫌そう煌めかせる。
美しく彩られた魅惑的な唇は、不満そうにへの字だが、それさえも美しさは損なわれない。
化粧が剥がれるので、眉間に皺を寄せるなという厳命を重視しているので、顔の表情の動きは薄い。
極めつけに、全体的に纏め上げ、かつ体格差を誤魔化す大きな鍔を持つ、とんがり帽子を頭にセット。
完成されたのは、美しき漆黒のドレスに彩られた、魅惑の魔女(スコール)である。
そこそこサイズ調整もできる、漆黒のパーティードレス(女装用)を、バラムガーデンの備品室から引っ張り出したセルフィは、リノア渾身の作品に満足そうに頷いていた。
「うちの目は正しかった」
「スコール、本当に綺麗だよね~」
「嬉しくない」
ドスの効いた声で抗議をするも、魔女とその手下には何一つ響かない。
きゃらきゃらと自分たちの〝作品〟に喜ぶ二人から視線を逸らして、スコールは室内を見渡す。

――――凄まじく目立つ〝それ〟に、声をかけないという選択はない。

「……あんた、なんだそれ?」
「俺様が知りてぇよ」
でもちゃんと着たんだな、という言葉を飲み込んで、スコールは自分の姿を棚に上げして、上から下までじっくりとサイファーの姿を観察した。

全身漆黒で統一された、金属質の鎧。
上から下まで、全身がフルプレート。
肩の接続パーツから流れ落ちる、たっぷりとした布地のマント。

昔話や舞台に出てくるような、城にいる騎士をイメージさせるデザインだ。それだけならば、何かを参考に作り上げたモノで済む。
しかし知識があるせいで、スコールはいち早く気づいてしまう。
……これ、どうみても〝オーディンの鎧〟だよな?
あの魔女大戦の旅路の中、縁を結び、時折力を貸してくれたG.F.オーディン。
全身漆黒という色彩は異なれど、形とデザインは〝本物〟を知っているスコールから見ると、コスプレだとよくわかる。
そして本物とは違う形の頭部のパーツは、鎧の色彩の合わせたのか、真っ黒だ。
ただ目と口の所だけが、橙色に装飾されているので、表情はよくわかる。ニヒルに笑う、巨大なカボチャのお化け。
近年、ハロウィンの代表格にあたる〝ジャック・オ・ランタン〟。有名なカボチャのお化けの頭を模した被り物。
それを行儀悪く組んだ膝の上に乗せて、不機嫌そうにこちらを睨むサイファーの姿は、嫌味な程に様になっている。
……セルフィ。
仮称衣装を分配しているセルフィに対して、深々とスコールは溜息をついた。
何故、オーディンの鎧をサイファーに渡したのか。
そもそも、よくオーディンの鎧とカボチャ頭を引っ付けようと考えついたなとか。
斬鉄剣返しで一刀両断にし、G.F.さえ返り討ちにした男に対して、これは嫌がらせなのか勢いとノリなのか。
……ノリだよな、たぶん。
スコールに魔女衣装を渡した勢いからも、イベント大好きなセルフィにとって、気合十分に精力的な活動中なのだろ。
その元気いっぱいなセルフィを見て、楽しそうなアーヴァインも嬉しそうである。
そんなアーヴァインの衣装は、百年前のガルバディア貴族でも連れて来たのかと言いたくなる程、豪華な貴族風の衣装。
首元のスカーフに、胸ポケットに入っている懐中時計。シルクハットに杖と、小道具まで本格的だ。
「アーヴァイン」
「あ、スコール。僕、吸血鬼だって?似合う?」
「……吸血鬼」
吸血鬼だったらしい。
んあ、と開いた口には、装飾アイテムとしての牙がある。いや、そんな付け牙みたいな小道具まであるのかと、スコールは知らない世界に溜息しか出てこない。
「なんで俺はこれなんだよ!」
「ゼルが動きやすいのがいいって言ったから~!」
ぎゃぃぎゃぃと言い合う声に、スコールとアーヴァインは視線を向けた。
「はい、これ被ってね」
「邪魔くせぇ~~~~!!」
散々に文句を言いつつ、それでも受け取ったゼルの姿は、G.F.ブラザーズの弟に近い衣装だった。
違いとして挙げるなら、その尻には尻尾が付いている事。そして、今まさにセルフィから受け取ったのが、狼を模した頭部パーツだったことだろう。
「狼男?」
……だろうな。
アーヴァインの謎を解いたような顔で呟いた答えに、声に出さないまま内心でスコールは同意する。
「ねぇ、本当にこれを本番に着るの?」
カツカツとヒールの音を響かせて、登場した真打。
誰が来たのか分かっていたスコールは振り返り、アーヴァインは一言かけようと口を開いて閉じて、お互いに顔を見合わせる。
別室で着替え終わって、衣装合わせとお披露目として確保した会議室に颯爽と現れた、その姿。
「キスティス似合う~!♡」
「ええやん!ええやん!これなら、ファンクラブも文句言えんはずやで!!」
「……そう?」
リノアとセルフィの歓迎に、どこか照れた顔で、はにかみながら微笑んだキスティス。
ファンクラブができる程の、美貌の顔を彩るのは赤い縁の大きな眼鏡。
仄かなピンク色に染まったナース服。
その裾は限りなく短いが、それを感じさせない同色の超ロングブーツ。そのブーツの留め具は、太ももを締め付けるベルトだが、それに気づけた者は幸運だと言える、絶妙な位置にある。
さらに、その細すぎないスタイル抜群の腰にぐるんっと巻かれているのは、作業員等が愛用するツールを入れられる工具ベルト。真っ赤な色に染まったベルトの、ツール格納部分に刺さっているのは、大中小とサイズが様々な数多くの注射器だ。
装備のせいなのか。
それともキスティスのイメージからか。
ナースの仮装というよりは、あまりにも物騒な雰囲気が、男達には見えた。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

きゃいきゃいと女性陣で盛り上がっている場所を見て、そっとスコールはサイファーが我関せずと座っている場所に下がっていく。
アーヴァインも、スコールについていくように自然とそちらに寄った。
「……何してんだ、てめぇら」
「いや、なんかこう」
「うーん、ちょっと僕も、なんかこう」
「あー……、うん。似合わないわけじゃないんだけどよ」
いつの間にか寄ってきたゼルも、口をもごもご動かして、右へ左へ視線を向ける。
そこでやっと、三人が自分の所に逃げてきた方向を眺める。
興味なさそうに見ていたサイファーは、リノアとセルフィに褒められているキスティスの衣装を見てから、何かに納得したように頷いた。
「いつもの鞭でも持ってこりゃ、ティンバーの裏路地にあるSMプレイ提供店で人気が出」
スコールは、おそらくこの日。
いやスコールだけではない。アーヴァインと、ゼルと同じだろう。
この日、英雄と称されるチーム男子は、120%のシンクロ率を発揮して、悪逆非道(当社比)なる魔女の騎士の、その邪悪(当社比)なる口を抑えにかかった。
話している最中に三人がかりで口を抑えられた男は、呆れた顔を向けていた。
気まずい思いをしている三人は、その口から語られる言葉が真実だと告げているのも同然であることを悟りながら、そっと視線をどこかにさ迷わせていた。

 

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