❖ 僕らのハロウィン★ナイト! - 3/8

 

古代セントラ文明において。
10月の末日は、死後の世界たる冥府の扉が開き、冥府へ旅立った魂が現世に舞い戻る日と信じられていた。
舞い戻った魂は、家族や友人、自らの縁深き地に里帰りを行い、朝日と共に冥府に舞い戻る。
しかし、必ずしも善の魂のみが、帰ってくるわけではない。
かつての悪の魂、罪ありし者達、そして死した魔女さえも、現世に舞い戻ってきてしまう。
その為、冥府に連れ去られないように、親しい者達以外から、自らの素性を仮面や衣装で隠して、身を守る〝仮装〟を行って、家の中で一日を過ごす。
もしも外出するならば、火を絶やすことなく魔除けとして作り上げた、〝カブのランタン〟を持って出歩くこと。

それが資料から読み取れる、古代セントラ文明が発祥の〝セントラ式ハロウィン〟である。

対して、街を盛り上げるべく〝古びた風習〟を発掘して、それを現代風にアレンジ。
若い人々も受け入れやすく、そして町が一丸となって盛り上げる事の出来る。
そんなコンセプトを設定するべく、練りに練り上げられたお祭りイベント。
仮面や衣装で身を隠して、現世に戻る魂と共に〝誰でもない誰か〟としてお祭りを満喫して、一日を労い、そして気持ちよく冥府に還っていただく。
〝誰でもない誰か〟になる為に、〝仮装〟を身に纏い、明かりの絶えない悪しき魂を寄せ付けぬ、魔除けの〝かぼちゃのランタン〟に彩られた街中を練り歩く。

それが、街を盛り上げるべくトラビア地方の、とある街が作り上げた、〝トラビア式ハロウィン〟だ。

ようするに、コンセプトのあるお祭り。
――――人間も亜人も魔女もお化けも、皆でわいわい盛り上がって楽しい日を過ごしましょう。
文章で表現するならば、それだけのもの。
けれど、だからこそ。
今現在、〝トラビア式ハロウィン〟は、世界中のあらゆる街に飛び火している。
第一として、手を出しやすいコンセプト。
仮装・ランタン・カボチャ。
この三種のイベントアイテムがあれば、それっぽく演出できるお手軽さ。
伝統的な逸話。
遡れば、由緒正しきイベント。
古き風習を現代に復活させた事が切欠であり、その理由も街おこしという美談。行政からしても市民を納得させやすい、新しく導入できるお祭り。
さらに戦後の空気を打ち破るような、子供がわかりやすい〝楽しく新しい祭り〟。
仮装をして、街中を歩くというコンセプトは、子供こそがやりやすい。
いつもの見慣れた街が非日常に変わる様は、戦闘などの嫌なことで大人以上に疲弊した子供たちにとって、いい気分転換になる。
そして何よりも、トラビア式ハロウィンの方が、国際的に受け入れられたきっかけは――――。

 

「「「トリック・オア・トリーーート!!」」」

 

「はいよ。ご苦労さん」
「ありがとー!」
「ありがとう」
「ありがとう、先生!」
「わぁ~、かわいい」
「……ありがとうございます」
「じゃーなー!カドワキ!」
「先生をつけな!!」
六人班となった幼少組の一組が、保健室を訪れては、カドワキにお菓子を貰って去っていく。
お調子者の一人が、自分を呼び捨てにしたのを叱りながら、手を振って見送ったカドワキは、珈琲を啜って一息を突く。
「まったく、保健室がこれほど平和な事で、賑やかになるなんてねぇ」
普段は殺風景な保健室が、今ではキラキラと様々な色彩豊かな飾りをつけられている。
正直言えば、少し落ち着かない。
バラムガーデンの校内イベントでも、大体が保健室は〝保健室〟として機能するべく、飾りなどは行われない。
それが今回、盛大に飾り付けを行ったのは、保健室が〝お菓子を貰えるチェックポイント〟の一つだからだ。
「やれやれ。あの子たちも、遠慮ってもんをしないからねぇ」
イベント趣旨を分かりやすくした、スタッフ用の案内資料。
そして、学内生徒どころかバラムに住む子供達にも配られた、ハロウィンイベントのパンフレット。
臨時のイベント用机に並べられたそれらを見て、カドワキはくつくつの喉の奥で笑った。

 

当初、バラムガーデン内部で行われるはずの〝ハロウィンイベント〟は、情報がバラムの街中に漏洩されたことで、規模を一気に拡大した。
バラムの行政側が打診し、バラムガーデン側と協議を重ねて、バラムの街中のイベントして一気に花を咲かせることになった。
元々、バラムは島国である。
国土は小さいが、豊かな自然に支えられて、観光地としての地位も築いている。
けれどそれを支えるべく、新しいイベントを探していた行政側にとって、バラムガーデンが行おうとしているイベントはチャンスだった。
特に今は、魔女大戦の記憶も新しい。
このあたりで一気に、戦火の香りが擽るガルバディアはともかくとして、バラムは平和になった事を対外アピールするには丁度いい。
――――新たなる、観光需要という意味でも。
バラムの実家でハロウィンイベントを、何気なく話をしてしまった数人の学生は、国を巻き込む事態に発展してしまった事に顔を真っ青にした。
休暇明けに其々が、指揮官室にスライディング土下座入室に来たが、仕方がないとお咎めなしになったという裏話もある程だ。
それほどに、話が巨大化してしまった。

まさか、ここまでバラムが国家として食らいついてくるなんて、誰も想定していなかったので。

かくして地方を限定しているとはいえ、バラムガーデンそのものと、バラムガーデンが腰を下ろす埠頭町を中心とした場所で、盛大なハロウィンイベントが幕を開いた。
期間は、住民がそこそこ楽しめるように。
そして観光客も来やすいように、しっかりと三日三晩。
10月29日から、10月31日の朝日が昇るまでが、ハロウィンイベント期間と定められた。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

青と白を中心とした街に、橙色と黒を中心とした、ハロウィンカラーの装飾が彩られている。
色彩の暴力かと思う色合いは、デザイナーの力によるものか、非日常を彩る調和を醸し出している。
今宵はハロウィン。
怪物が練り歩く、亡霊と共に踊る日だ。
「壮大だなぁ」
開催地がバラムという事もあり、ティンバーから電車一本で来れる立地。これは仕事の気分転換を兼ねて行くしかないと、意気揚々と男はバラムに入国した。
屋台の海鮮ネタは、流石に魚の珍味が有名な島国だけあって、美味い。
もぐもぐと口を動かしつつ、携帯端末でポチポチと味の感想を入力しながら、とある企業の食品開発部門の男は、刺激も求めてふらふらと町中を練り歩く。
会場となった町は、男の想像よりも大盛況だった。
「さすが、ガーデンのお膝元」
行きかう人々の年齢は、若い人々。特に学生層が多い。おそらくバラムガーデンから生徒が下りてきているのだろう。
ただ、ハロウィンらしく仮装をしているので、誰がバラムガーデン生徒か判断は難しい。それに、バラムは観光地としても有名だ。多くの若者が、旅行先に選出しても不思議ではない。
……防犯上においても、ハロウィンは便利って事かな?
街中を歩くと、実感する。
仮装をしている人々が多いせいで、誰がどんな人物なのか考察もできない。食品開発の参考にターゲティングしようにも、化粧や衣装で年齢が分かりにくい。
「うーん。これはこれで悩ましい」
しかし逆に、今まで手に取れなかった人々が、イベントをきっかけに手を伸ばせるかもしれない。
それは、商品を売る側として考えれば、新しいイベント販路だ。
「帰ったらハロウィン限定の商品を、来年までに考えてみるかな」
来年の目標をメモしてから、男は仕事の事をすっぱりと忘れて、バラムの街を歩くことにした。
何度目かの小道を曲がり、大きく開けた広場に出た。
多種多様の屋台が多く展開しており、恐らくお祭り会場のメインステージの一つだ。

 

「目的地はっけ~ん!」

 

色彩豊かなカボチャグッズやオバケ菓子を見ていると、不意に元気な声が男の耳に届いた。
気になって視線を向けた先に、ちょっと目立つ集団がいた。
「仕事するぞ~!」
「「「「おおー!」」」」
其々が、ネコの耳飾りを頭につけて、飾りの尻尾を黒い作業着から垂らして、トングや大きな袋を持っている、四人の子供たち。
其々が、気合を入れて声を出して、拳を振り上げていた。
よくよく見ると、仮装をしている子供の衣装の全面。カボチャマークが書かれたエプロンには、〝お掃除キャット隊〟と書かれている。
「お仕事にゃーん!」
「お掃除にゃーん!」
「片付けにゃーん!」
号令の様に言葉を発しながら、其々が練習したようなコンビネーションで、せっせせっせと動いている。
ゴミ箱スペースの、ゴミ袋を交換。
ぱんぱんになったゴミ袋は、ぎゅっと縛って荷台へ。
参加者多数のせいで、ゴミ箱から溢れていたゴミを、トングで掴んで手持ちのゴミ袋へ入れ、いっぱいになれば縛って荷台へ。
せかせかと働く可愛い猫たちは、確かに可愛い。
おそらくという憶測にはなるが、バラムガーデンの生徒なのだろう。
しかし、ハロウィンに合わせた可愛い猫衣装の子供たちの背後に鎮座する者が、一種異様な光景を作り上げていた。

――――巨大なカボチャのお化け。

ジャック・オ・ランタンの頭を模した黒い被り物。思ったより大きい頭だが、奇跡的なバランスを保っている。
その下に続く身体は、漆黒の甲冑だ。古い物語や、舞台に出ている騎士のような鎧のデザイン。
重厚感がある鎧だ。ハチボテには見えない。
……いや、まさか本物?
ありえないと言い切れないのが、バラムガーデンだ。兵士養成学校という名前からして、本物を入手できないとは言い切れない。
そして、その鎧の背中から垂れ下がるマント。よく見れば、背負われている大きな大剣まである。
そこそこ重量がありそうなマントが、ふわりと動きに合わせて動く様が、デカい頭の異様さを搔き消す美しさ。
しかし優雅な動きを台無しにする、堂々と中央に〝お掃除見守り隊〟と書かれているマントの有様が、カボチャ頭の男の正体を露にしていた。
……お目付け役かぁ。
それはそうだな、と自分の考えに納得しつつ、掃除風景を見つめてみる。
せかせかと動くキャットを見つめつつ、カボチャ頭の鎧男……おそらくきっと男は動かない。
「これもお願いしまーす!」
「しまーす!」
カボチャ頭の男の近くに停車中の荷台に、どかどかとゴミ袋が積み上がっていく。どうやら運搬は、カボチャ男がするらしい。
ふいに、カボチャ頭の首がこちらを向いた。
ぐるりと傾けるように、視線が合った気がする。
見すぎたかもしれないと思い、どうしようか考えたが、こちらが反応する前に視線が逸れた。
「おーしまい!」
「しゅっぱ~~つ!」
両手を高々に上げて、掃除の終了を告げた子猫たちに、カボチャ頭は頷いた。
荷台をがらがらと引いていくカボチャ男についていくように、小さな化け猫たちは楽しそうに付いていく。
運んでいるのはゴミだ。
それでも、それを見る街中の人々は、多くが微笑ましそうに見つめている。
……これ、いいかもなぁ。
イベント会場において、ゴミ箱周辺の問題は多い。
ゴミを適切に分類しない迷惑来場者もそうだが、何よりも次から次へとゴミが来るので、掃除人の仕事が進まない。
それが、このイベント会場においては、子供がお手伝いをする形。
しかも仮装した姿で登場した事で、一つのイベントの様に周囲が見守っていた。
ゴミ周辺を荒らしたりせず、追加で持ってくることもなく、彼らが居なくなるまで見守っていた。
これを完璧に熟せるとは思わないが、ゴミ掃除・収集の人間を、イベントの仕掛人の様にする事で、スムーズに掃除を完了させることはできるかもしれない。
……帰ったら、相談してみるかな。
部署は違えど、会社ではイベントの主催や協賛もしている。
今回のイベントで、撮り込めそうな所はメモしておこうと決意して、男は半分プライベート、半分仕事の時間を過ごすことにした。
男は仕事が好きすぎて、仕事から思考を離せないワーカーホリックの傾向が強かったが、ここにきてその素質が顔を出していた。

 

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