❖ その息の根を止める ~S.L.Birthday 2025~ - 7/8

 

耳に届いたのは、確かに〝答え〟だった。
今まで俺がサイファーに質問してきた、その疑問に対する答え合わせ。
8月23日。
その日付が意味するのは。
どうして俺が、こんな場所に放り込まれたのか。
どうして、相手がサイファーなのか。
きっとサイファーも知らない、裏側の答え。
バラバラの欠片が組み合わさって、何もかもが一本の線に繋がる。

 

「Happy Birthday! Squall」

 

一生忘れないとは、到底断言できない。
SeeDである以上。
G.F.との関係を断ち切らないと、選択した以上。
未だ存在する副作用の事を思いながら、日々を噛みしめながら過ごして、時々日記を記している。
それでも、

――――きっと忘れたくないと思う、光景だった。

花火が上がっている夜空。
静まり返っている湖に反射する、逆さ花火。
それを背景に背負いながら、こちらを悪童の顔で笑っている、見知った男の姿。
自分よりも、11㎝も高い憎たらしい身長も。
見た目より筋力がある、バランスの取れた黄金比のような肉体も。
花火の光が反射する、短い金髪も。
花火の明かりで、水面と連動するように時々煌めく碧色の瞳も。
何もかもが、腹が立つ程に綺麗で、美しいと思った。
――――だから。
もう自分に嘘をつくのを、やめよう。
目の前のこいつは気付いていないが、俺の感情はリノアに即バレした。
だから、リノアに背中を蹴りつけられたのだから。
おそらくリノア経由でバレている幼馴染を含む仲間達が、自分たち二人がバラムガーデンにいなくてもいいよう、万全にバックアップをしているはずだ。
ならばそれを維持する為に、学園長やまま先生にまで、話は回っているはず。
さらにお膳立てされている現状を見るに、きっと連絡網で色々回った挙句、ラグナにまでバレている。
あまりにも恥ずかしい現実に、頭を抱えたくなるけれど。

――――それよりも。

目の前の〝自分に何も関係がない〟と思っている男に、思い知らせないと気が済まない。
何を他人面してやがるんだ、あんた。
誕生日プレゼントがそれだと?
ふざけるなよ。
あんたも全部込みの休暇なんだぞ。
ぜんぜん分かってない。
自覚もない。
考えつきもしない。
それが一番腹が立つので、思い知らせてやる。
「……誕生日プレゼントでも、貰えるのか?」
「おいおい。今回の休暇が、じゅ~~~~~ぶんなプレゼントだろ?」
「足りない」
「はぁ?」
「全然、足りない」
この島に二人だけという事は、邪魔が入らないという事で。
誰もいないという事は、デバガメしそうな変な奴も、いないという事で。
時々出没する、スクープ目的の頭の悪いメディアもいないという事で。
なんて好都合。
呆れた顔の男の下に、足を進めていく。
ドンドンと、重たい花火が打ちあがる音がまだ続いている中で、まるで自分の心臓のようだと思った。

「……スコール?」
「サイファー」

一気に様子がおかしくなった俺に、訝し気な顔をしたサイファーに笑いかける。
きっと何も考えていない。
この男は、監視役を頼まれたから、ここにいるだけで。
ちょっとしたプライベートを兼ねた、仕事だと思っているからここにいて。
俺の幸福に、自分が一欠けらも関係ないと思っている。
ふざけるな。
本当に、ふざけるな。
そういう割り切った考えが、
そういう一歩引いている立場を自然と熟す姿が、
どうしようもなく俺のコンプレックスを刺激する。
その態度が、俺の苛立ちを加速させるとも知らないで。
だから。
どうしようもなく、腹が立つ。
自分はいずれ、俺の下を去るのだと、勝手に確定事項にしている。
その思考回路が、気に食わない。

――――俺があんたを手放すと思われているのが、気に入らない。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

「あんたがいい」

まだ飛び立ち続け、宙で弾ける音は止まない。
背中から届くその音は、その言葉をかき消してはくれなかった。
顔を覗き込むように、見上げてくる青灰色の瞳に映る花火が、花弁のように散らばる様が美しい。
――――その瞳に映り込む自分が、場違いに見える程に。
伸ばされた手が、ぐっと腕を掴んでくる。
「あんた、気づいてなかっただろう」
一歩、
二歩、
徐々に距離を詰められる。
「日付を言われて、俺には、すぐわかった」
吐息がお互いの身体にかかるほどの、至近距離。
疲労と眠気を吹き飛ばした青灰の瞳が、こちらを覗き込んだ。

 

「あんたも、俺の誕生日プレゼントだ」

 

耳に届く言葉の意味を、理解できない。
いや違う。
理解したくない。
ずっと考えていた事ではあった。
……どうして俺だったのか。
考えれば考える程に、俺は〝監視役〟として不適切だった。
先の魔女大戦中、大暴れした事実は消えず、己の身はバラムガーデンに繋がれた事で生存を許されている一面がある。
序に言えば、腹が立つことに。
俺が大暴れしても、〝伝説のSeeDなら勝つだろう〟という世論と、〝洗脳されていた可哀想な少年〟という同情票が、これを後押ししている現状にある。
つまるところ、自分は世論と同情で作られてお情けで、生存と半自由を許されている。
それでも、何も変わっていない。
管理対象であり、
観察対象であり、
拘束対象である。
その事実は、何一つ変わっていない。
だから本当ならば、スコールと二人だけという現状を作る事が、難しいはずだ。
それなのに、あっさりと二人の四泊五日が許されている原因の心当たりは、一つしかない。
……あの野郎。
やはり、スコールの休暇だけが目的ではなかったのだ。
相方をリノアにしてやれと言った時。
右へ左へ上へ下へ、動揺を隠せず目をうろうろうろうろさせていた時に、話を突っ込んでおけばよかった。
リノアちゃんにはきっと難しいと思うからさ、ともごもご言っていたあの男。
だから君に頼みがあると、困った顔で笑っていた目の前の男の父親に、内心で舌打ちをする。
大好きな映画の中の憧れの俳優だとしても、殴って許されるはずだ。

「サイファー」

自分が、〝父親からの息子への誕生日プレゼントの一部〟に入っていた事実に、気づいたのが遅すぎた。
いや気づいたわけではない。
目の前の男から、知らない裏話を突き付けられて、内心で舌打ちをする。
意識を頭の中から、現実に戻せば、不満そうな獣の瞳がある。
現状は何も変わっていない。
あらゆる者に後押しされた、獲物を目の前にした獣がいる。

「サイファー」

言葉はない。
ただただ、名前を呼ばれる。
返事はしない。
それは必要がないと、知っているから。

「サイファー」

こいつが言いたい事なんて、手に取るように分かる。
いつも、そうだった。
言葉もなく、目だけが常に欲求を訴える。
俺に否定されるなんて、拒絶されるなんて、思ってもいない傲慢な眼差しで。
そのくせ、こちらからの要望は気が向かなければ跳ね除けて、煽れば負けず嫌いに火がついて手が付けられない。
この状況では、俺がいずれバラムガーデンを去る腹積もりでいる事も、見抜かれている気がする。

「サイファー」

だから、ここで拒絶した所で止まらないと知っている。
一度決めた事は、頑固な程に守ろうとすると、経験則で知っている。
病的な程に負けず嫌いで、子供の我儘というには、苛烈すぎる意地を張る男だと知っている。
とても残念な事を、一つ考えるなら。
この状況になっても、目の前の男を殴る気力も湧かない、自分自身の有様かもしれない。
恋愛感情を抱いているとは言い難い。
おそらく、スコールとの感情に釣り合いが取れない程、自分の感情は軽いと思っている。
……それでも、こいつにとっては小さい事ってか。
ついに密着した身体に、接触した相手の身体の一部がなんかこう、……形容しがたい状況になっている事を知らぬふりをして。

「サイファー」
「……うるせ、ぇ」

頭の中でぐるぐる騒がしいくせに、口からは何も出てこない。
内弁慶すぎる男の主張は、ギラギラとした目で分かる。
その視線に根負けして声をかければ、言葉が完成する前に音を奪われて。
何も見えない程にぼやけた視界に、仕方なく目を閉じる。

 

 

いつの間にか止んだ花火の音が、
耳に痛い程の静寂を伝えてきて、

 

 

――――煩い程に、二つ分の心臓の音だけが響いていた。

 

 

これより先の四日目に、彼らがどのように過ごしたのか。
五日目の帰る時、彼らがどのような有様だったのか。
ラグナロクで迎えに来たセルフィと、アーヴァインだけが少しだけ垣間見る事になるが。

全貌は、二人だけの秘密だ。

 

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