❖ その息の根を止める ~S.L.Birthday 2025~ - 6/8

 

湖に落ちてずぶ濡れ。
なら、何も気にする事はない。
服を着たまま、自分の自己鍛錬も兼ねて、水遊びという名の泳ぎをすることにした。
幸いにも薄着で出発していたので、濡れた所でたかが知れた重量だ。
むしろバラムガーデンでは、新人学生が先輩待機の下、海に学生服のまま放り捨てられる海難訓練は多々行われる。
学生服を着たまま、ざばざば男女が泳ぐ風景は、バラムにおいて風物詩の一つだ。
バラムの漁師が、よく酒盛りしながら笑って見ている。
今にして思えば、やばい風物詩の気がしてきた。
泳ぎ始めると、サイファーが岸に上がろうとしたので、どうせなら巻き添えにするべく再び疑似魔法を放ってみた。

――――戦争になった。

疲労と多忙から、体力が削られている身の上だ。
それでもSeeDだ。SeeDならやれる。というか、極限状態で動けないと死ぬのが傭兵業界だ。
お返しに疑似魔法が飛んできた時に、負けじと疑似魔法を炸裂させる。
湖で泳ぎながら、簡易的な疑似魔法を撃ち合い、回避し、時には湖の水さえ利用して波を起こし、相手の上を取るべく謎の攻防戦。

――――気が付けば、日が暮れていた。

 

「……俺たち、何してるんだろうな」
「てめぇが始めたクソ戦争だろうが」
「うるさい」
最終的に体力が付き、疑似魔法トリプルからのクエイクを利用した、サイファーの大波戦法で、顔面どころか全身直撃を食らって湖に漂う水死体未満となって敗北した。
悔しいので次は勝つ。
具体的に言うと、ドロー頼りはやめる事にする。
とにかく面倒くさい手間がかかるが脳内演算で、疑似魔法を使う速度を上げる訓練でもする。
「ほら」
「……ん」
ほかほかと湯気が出ているマグカップを渡されて、ふぅふぅと息を吹きかけて一口啜る。
温かい紅茶が、長時間の水中及び水上戦争で、冷え切った体に染みわたる。
……いや冷静に考えてもおかしくないか?
「サイファー、持ってきたのか?」
「あ?んな面倒な事してねぇよ」
今いるのは、あの湖の近くにある、小さなログハウスだ。
意識が復帰した時には、既にここに運ばれていた。
……悔しいが、今回はサイファーに運搬されることが多いな。
まぁいいか。
サイファーだし。
「ここに用意してあるんだよ。宿泊客が自由に使っていいようにな」
サイファーが指差した棚に、確かにずらりと缶が並んでいる。
俺のいるところからは見えないが、おそらく種類が貼り付けられているのだろうラベルらしき物が見えた。
「……凄いな」
ここがどこかは未だに教えられてはいないが、島のようだという事は分かっている。ついでにここまで準備万端だと、高級な宿泊プランだという事は察しが付く。
「島一つが宿泊施設か。確かに非現実的で、特別な気分が凄い」
「んだよ突然。島が欲しいのか?」
「いらない」
なぜ、いきなり俺が島を購入するという所にまで発展したのか。
これだから、時々疲れるんだ。
サイファーは頻繁ではないが、間の考えがごっそりスキップして、答えだけ出力されることがある。今回もおそらくそうだろう。
思考回路が地味に早い天才肌過ぎて、追い付けない。
そこが昔から地味に腹が立つ。
こちらの考えも知らずに、自分の紅茶を用意したサイファーが、向かいの椅子にどっかり座り込んだ。
お互い、用意されていたバスタオルを肩から羽織った状態。
かつ、パンツ一丁。
……今の光景を見られたら、死ぬ自信がある。
目の前の男は、きっと気にしないだろうが。
「服が渇くまで時間かかるな。どうするよ?」
「……ここ、食べ物があるのか?」
「保存食ならあるぜ?」
「じゃぁ、ここで」
「ふーん」
「……なんだよ」
「いや?」
紅茶を一口飲んだサイファーが、ニヤッと面白そうに笑っている。
何かありそうだとは思うが、突っつく気力もない。紅茶を一口飲んで、目を閉じた。

 

―――――――― ▼ ――――――――

 

正直に言えば、賭けではあった。
疲労で頭が回っていない。
隔離された場所に、突然休暇で放り込まれた。
激務で日付感覚が曖昧。
かつ、ここには元々、非現実を演出する為にカレンダーがない。
つまり、サプライズをする上では、十分な環境と状況が整っている。
最大の問題は、相方が自分である事だ。それだけは解せない。
この島は、各絶景スポットや遊びポイントに、必ずログハウスが設置されている。
その場所には休憩や食事ができる環境が整っていて、事前申請すればバーベキューもできるらしい。
今回は、予定が不明だったので申請していない。
それでもログハウスの常駐設備で、十分に豪華な夜だった。
全くスコールは気付いていなかったが、紅茶の茶葉は有名な高級メーカーの代物だったし。
保存食とは言われていたが、どう見ても有名なレストラン監修の、高級保存食だった。
肉食系のスコールに合わせて、ハンバーグにしてみたが、普通に美味い。
冷凍保存されていたハンズを解凍及び焼いてから、挟むネタとしては高級すぎたかもしれない。予想より溢れる肉汁に、目を白黒させるスコールは少し面白かった。
空に浮かんでいた太陽は、とうに暮れている。
月明かりはあっても、森の中を進むのは危険行為だ。任務中ならいざ知らず、プライベートで危険行為をするのも億劫だ。
ログハウスには、簡易的な寝袋もある。
キャンプ気分を味わえるようにという設備だが、任務よりは快適に眠れるだろう。
それに、ここから移動するつもりはなかった。
湖が見えるポイントに近く、方向もいい。
元々、このログハウスに来ることは予定に入っていた。
「なぁ」
腹も膨れている。
日中の運動で、肉体も程よく疲労している。
正直に言えば、普段の就寝時間より早いが、寝袋に入ればすぐに眠れる。
すぐ眠るつもりもなく、合図を待って窓を見ていると、スコールから声がかかった。
「何をしている?」
「なんだと思う?」
「……あんたは今回、全部それだな」
呆れたようにだらりと椅子に凭れ掛かり、両足を伸ばしているスコールの姿は、怠惰を謳歌している猫のようだった。
答えるつもりは、全くない。
何故なら回答がもうすぐ出るからだ。
「スコール」
「?」
だらけきったスコールの目が、こちらを見た。
「外に出ようぜ」
ちかちかと光る合図を確認して、訝し気な顔をするスコールの腕を掴む。
別にこのまま眠ってしまってもいい。
でも、これはあいつ等が用意した代物なので、主役はとっとと外に出ろや。

 

「本当に、なんなんだよ」
不機嫌そうに顔を歪めて、それでも歩くスコールは、在りし日の子供のようだった。
「なぁ、スコール」
「だから」
「今日、何の日か覚えているか?」
「――――?」
予想外の事を言われたと、顔にでかでかと書いてあるスコールが、面白くてたまらない。
馬鹿みたいに仕事漬けになって、馬鹿みたいに夏休み期間は稼ぎ時だと仕事を詰め込んで、馬鹿みたいにワーカーホリックになったから、こんな目に合うんだぜ。
……ざまぁみろ。
耳に届いた独特の音。
時間指定された自動点火装置は、立派に役割を果たしたようだ。
夜空に登るに微かな煙を確認してから、きょろきょろと視線をさ迷わせるスコールに笑いかけた。

 

「今日はな、8月23日なんだよ」

 

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