一日目は、なんとなくで行動をしていると分かっていた。
コテージに蓄えられた一週間分の食料は、たっぷりある。ついでにサイファーが釣った川魚もある。
適当に昼食を準備して食わせて、風呂に蹴り出した。
戻ってきたスコールの髪をドライヤーで乾かして、少ししたら夕飯を食わせてから。
涙ぐましい努力の上で、サイファーはスコールをさっさと寝室に放り込んだ。
――――そして迎えた、問題の二日目。
……死んでやがる。
朝食を食べ終えて、食後の珈琲として準備したマグカップ二つ。
それを用意しているだけの時間で、スコールはリビングに備えられているソファーに撃沈していた。
確かにそのソファーは、ここが高級ランクの宿泊施設である証拠として、ふんわり柔らかくて居心地はいい。
元々が仲間内から〝過労〟の二文字が見えていて、ワーカーホリックに片足を突っ込んでいた男である。
段取りが悪いというか、誰かに頼るのが死ぬほど下手くそな弊害ができている。
あの魔女大戦の時に、そういうコンプレックスの塊が歩いているような有様からは、脱却できたとは聞いていた。
しかしながら、こればかりは仕方がない。
拗らせていた年季が違う。
さくっと変われるようならば、人の世の中はおそらく、そこら中に性格豹変者で溢れかえっている。
……どーしたもんかね。
珈琲を啜りつつ、サイファーは今後のプランを考える。
元々が休むというコマンドを忘れ果てた、不器用クソ馬鹿指揮官を休ませる為の休暇だ。このまま寝て過ごさせてもいいが、不健康に終わりそうだ。
……それは俺様がつまらねぇ。
半分仕事だとしても、プライベートも兼ねている。どうせならスコールなんて放っておいて、好き勝手に探索して見たり、キャンプみたいな事や、森林浴だってしたい。
なんせバラムは、島国。
序に、有名な観光地。
これだけ生い茂る緑の中を、安全に散歩できる事なんて滅多にない。
別に安全ではなくてもいいし、モンスターが出るなら出るで上等なわけだが、それでも何も気にせず歩いてみるのも面白そうだ。
それに、川の上流には大きな湖がある。
プライベートアイランドだけはある、見事な風景らしい。見ていて損はない。
「……とは、言ってもな」
今日はコテージで過ごすかと、飲み切ったマグカップを机の上に置く。
序に、寝ていて手を付けられなかったスコールの分のマグカップに口をつけて、二杯目の珈琲を堪能した。
―――――――― ▼ ――――――――
意識の遠い場所で、ぺらり、ぺらりと何かが擦れる音がする。
ふわふわする意識の中で、耳に馴染んだ音に、なんとなく意識を向ける。
瞼が重い。
身体も重い。
とてもではないが、起き上がれない。
状態異常でもかけられたかと、錯覚してしまう程だ。
自分の身体の上に、何か被っている。触り心地のいいそれは、暫定的に考えればブランケットのはず。たぶん。きっと。おそらく。
では、この音は何だろうか。
「……ん、ぅ」
何とか瞼を持ち上げる。
ぼやけた視界が、煩わしい。早くピントが合ってくれないかと思っていると、じわじわと像を結び始める。
……眼鏡。
いや違う。そうじゃない。
一番考えるべきはそこではないなと、冷静な自分が寝ぼけた自分にツッコミを入れている。
状況からすると、自分は寝転がっている。
この感触からすると、リビングの大きなソファーの上だ。
それはいい。
別に慌てる事じゃない。
視界に飛び込んできた光景は、もう一つのソファーに優雅に腰かけて、本を捲っている男の姿だった。
普段、バラムガーデンの中では見ない、フレームの色が白い眼鏡。自前のコートとカラーを合わせたのか。
そして何よりも、いつもの一張羅ではない。
黒いデニムパンツも、上のシンプルな青いシャツも。凄く似合っていて、どうしようかと思う。
……かっこいいな。
ただソファーに座って、
足を組んで、
本を読んで座っている。
それだけ。
たったそれだけの事しかしてないのに、本当にかっこいい。
……誰かが言っていたけど、〝黙っていれば美丈夫〟とは、よく表現していると思う。
座すは不良、立てば暴君、話せばヤンキー。
うん。
自分が付け加えるならば、
……思考は戦士、戦術は武人、夢はロマンチックな騎士?
うん。
的確な表現すぎて、自分で拍手したくなるな。
面白い。
いや待て。
怖い。
俺は何を考えているんだ馬鹿か。
……もう一度寝るか。自分の脳が怖くなってきた。
眠気で暴走している自分を堪えて、くわりと欠伸を一つ。
自分で持ってきた覚えのないブランケットに、遠慮なく潜り込む。
サイファーが優雅に、いや華麗に読書をする姿をもう一度見て。
くわり、と欠伸が一つ出る。
ゆっくりと目を閉じれば、あっさりと意識は旅立った。
すやすやと眠りに落ちているスコールを、片目を開けて眺めていたサイファーは、両目をしっかりと書物の文面に戻す。
自分が積んでいた書物は、これで残り少しだ。
久しぶりにゆったりとした時間を過ごしているなと、ぐっと背筋を伸ばして軽くストレッチ。
「……起きねぇのかよ」
しっかりと、先程の光景は目撃していた。
素直に二度寝を噛ました男に、これは仕方ないなと溜息を付いた。
夕飯の時には、叩き起こそうと決意して。

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