部屋の中はシンプルだ。
物は少なく、一歩間違えれば寂れた部屋という表現が似合う程に、生活感はない。
身を寄せて一年以上がたつが、部屋の備品が増えた事はない。
ただ一つ、古びた寝台があり、タンスがあり、小型の旧式冷蔵庫が音を立てて稼働している。
今寝転がっている寝台の下に置いている、古びたケースの中身に思いをはせて、彼は寝台から起き上がた。
鬱陶しいと思う、腰まである金髪を振り払いながら、身支度を整える。
無難なズボンとシャツを身に着けて、最後に防弾効果のある生地で作られた、漆黒のコートを羽織る。
前のファスナーをきっちりと締めきれば、シンプルな装いの男ができた。
見慣れてしまった、それでも邪魔過ぎる金の長髪を一つに縛り、溜息を零す。
最近は忙しいせいか、時折訪れる頭痛に悩まされている。
ここでは、薬も簡単には手が出しずらい。
幸いにも、そこまで酷い頭痛ではなく、頭の一部が疼いたり、落ち着かなかったり、稀に吐き気がする程度だ。
今日はそこまで酷くもない。
予定も詰まっているし、休むのも自分が嫌だ。
ちらりと見れば、時計の針は既に、仕事の時間だった。
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世の中で大きな戦いがあろうとも、その出来事の登場人物でもなければ、ただの他人事。
そんな事情は多々存在し、それはSeeDという存在も変わらない。
傭兵部隊SeeD。
傭兵という業種の中で、ブランド化されたコードネームであり、極上の戦力である。
部隊の人間は、全員がバラムガーデン所属の学生であり、若ければ15歳で所属が決まるというのだから、傭兵業界において怪物とも称される。
けれど、SeeDには金がかかる。
ブランド化されたことで、一つ一つの駒が極上の戦力のせいで、一般的な企業から見れば金がかかって仕方がない。
特にモンスターハントを必要とする、都会から外れた田舎の人間等、そんなブランド品とは無縁の日々を過ごす。
ガルバディアが魔女に支配された。
あそこは戦争上等の侵略国だろ。人間だろうと魔女だろうと戦争好きの侵略者に変わりない。
バラムガーデンのSeeDが、未来の魔女を倒したらしい。
未来だの現代だのどうでもいいよ。それよりも、近所のあのモンスターを倒してくれよ。
エスタが沈黙を破って出てきたらしい。
へぇ。……で、エスタってどこ?
長らく電波障害が発生し、長距離の連絡が覚束なかった世界。
情報端末など古びた代物に成り果て、田舎の者達ほど、最新機器とも縁が遠い。
なんせ、最新機器を入手する必要性を感じない、自然豊かで逞しい生活をしているからだ。
人口が少なければ少ないほど、外界との繋がりも積極的に持つことはない。
何故なら外界にはモンスターが蔓延り、長距離の移動も難しい。
それこそ、モンスターを打倒せる戦力でもいなければ。
一般的な傭兵やモンスターハンターは、そういう必要な所を求めて、ふらふらと移動していく。
田舎の町に腰を落ち着けて、住民になる未来もよくある事だ。
逆にモンスターの返り討ちにあい、弔われずに自然に帰ることだって、よくある事だ。
ここも、そんな都会から遠く遠く離れた、寂れた世界の一つ。
南方の大陸。
かつて約400年前に名を遺す、セントラ文明の名を遺す国家があった。それは100年前の〝月の涙〟の直撃を受けて、国家としては滅亡した。
現代においては、国際的にはどこの国家の領土でもなく、あくまでセントラの定住者たちの領土として考えられている。
定住者は極めて少なく、細々と集落や村、大きければ町を形成。その集団をコロニーと呼ぶ。
各コロニーの代表者が、近隣のコロニーに対して情報交換等を行う事はあれど、セントラ全体としての纏まりはない。
国際的な名称としては、〝セントラ地方コロニー群〟と総称されており、国際的な取り決めを行う際には、力を持つ複数のコロニーより、代表者数名選出され、国際会議に出るという。
最も、国際的な会議に出た事など、ここ100年ありはしないが。
セントラの土地は、月に涙の影響からか、大半は荒れ果てて豊かな地はありはしない。
近隣にある有名な名所と言えば、セントラ遺跡という、食べる事の出来ない太古の建造物が歴史を語るだけ。
しかし、転機が訪れる。
数十年前の戦争時より、セントラ地方は人口をわずかに増やした。
相次ぐ戦争により、故郷を失い、さりとて身寄りもない戦争難民。
戦争ばかりの祖国に嫌気がさして、人の少ない大地を求めた移住者達。
両親を失い、路頭に迷った戦争孤児。
理由は様々だが、大舞台となった大陸から脱出し、セントラを目指した者達が入ってきた。
一時的な定住であれ、継続的な定住であれ。人口が増えた事に変わりはない。
それを歓迎するコロニーがいる一方で、現状で精一杯のコロニーは彼らを受け入れられず。
その中でも逞しい者達は、新たなコロニーを形成し。
もしくは、コロニーから離れた地に身を寄せて、そこでの生活を開始した。
ここ数年知名度を確固たる者とした、かの有名な英雄。バラムガーデンが誇る〝伝説のSeeD〟も、伝え聞いた所では、セントラにあった孤児院が出身だという。
恐らくコロニーに属さず、独自に生活をした人々の中で、育ったのだろう。
調べたセントラ地方の情報を纏めた、ファイルを閉じる。
到着した寂れた埠頭。船の上で、賃金の回収が始まる。
素直に賃金を支払って、そこそこ年期の入った船を降りた。
ハンフリー諸島から、定期便として出向する連絡船に乗れたのは、幸運だった。
なんせハンフリー諸島から、ポッカラヒレリア島までの連絡船は、一ヶ月に四回。つまり一週間に一度の頻度である。
そこに悪天候とモンスター警報による停船を含めれば、もっと頻度は落ちる。
「……ついた」
踏みしめた大地の感触も、空気が違う。
「ここが、セントラ文明の地。――――セントラか」
ずっしりと重たい旅行装備に、調べ上げて厳選した資料の数々。
これからの先行きに、少しだけの不安と、ちょっとした未知を知りたい冒険心。
そしてそれを大きく凌駕する、好奇心。
数々の感情を抱え込んで。
アルパレド・ルッティンは、記念すべきセントラの大地に、その一歩を踏みしめた。

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