❖ 第336回「動画配信」
青白い白銀と、闇深き漆黒が、激突する。
刃の擦れる音と火花の散る音。
火薬と硝煙の匂い。断末魔の様に砕ける大地に、引き千切られるような風の音。
相対する相手を翻弄しながらも、威圧するように翻る白いコート。
それを物ともせず駆け抜けて、返礼を返す様に吠える黒いジャケット。
現在の彼らにとって、お互いの顔を彩る鏡合わせの傷痕さえ、お互いに刻んだ獲物のマーキングだ。
止めどなく刃は激突し、死線と攻防は止まない。
〝魔女の騎士〟という代名詞で名を馳せる、悪名高きサイファー・アルマシー。
〝伝説のSeeD〟という英雄名が広がった、世界一有名なSeeDたるスコール・レオンハート。
今の世界情勢で、最も有名なガンブレード使いの二強として名を馳せる二人は、存分にお互いの力を競い合っていた。
お互いの顔には、興奮と狂気が入り混じり、歯をむき出しに吠える様は、猛獣が縄張り争いをしている様に似ている。
サイファーが、指を二回鳴らす。
G.F.に頼らない疑似魔法の使用演算と、その結末により大気が震える。無造作に射出された複数のファイアは、あっさりとスコールに回避された。回避したスコールは、一気に身体を横に飛ばす。
置き去りのファイアが地面に着弾し、砂を巻き起こして煙幕を生む。
その煙幕を切裂くように、左右から衝撃波という名の斬撃が飛ぶ。
片方は、竜巻のような無数の絡み合う斬撃。
片方は、連射した銃撃の様に飛んでくる斬撃。
お互いの飛来した斬撃同士が激闘し、序でのように砂埃の煙幕を細切れにして、視界は一気に鮮やかに広がる。
きっちりとお互いの斬撃を、示し合わせたわけでもないのに、同じ威力で同じ回数で放ち、見えないはずのお互いの立ち位置にきっちり合わせた攻撃は、頭がおかしい。
双方の位置は、物理的に刃の間合いからは、到底外れている。それでも、彼ら二人は笑ってガンブレードを振るった。
その刃から放たれる斬撃が、まるで銃弾のように双方を狙いすまして――――。
「あかんやろがっ!!!!!!」
セルフィ・ティルミットは、絶叫して机に両手を叩きつけた。
「ほぁ?」
丁度、大きくドーナッツを頬張ったゼルは、隣に座っている仲間の大絶叫にきょとんと目を丸くする。
「ぜんっぜん!だめじゃん!!!」
もっぐもっぐと大きく噛み締めているゼルを尻目に、セルフィは絶叫して机に頭まで打ち付けた。
「ほぉか?」
ごくんっとドーナッツを飲み込んだゼルは、首をかしげて〝映像〟を見る。
セルフィとゼルの前には、何台ものモニターが設置されている。
そして何よりも狭苦しい。
それもそのはずで、彼ら二人がいるのは、真っ赤な飛行艇のラグナロクである。
そして映像の二人がいるのは、ポッカラヒレリア島の一角。周囲に人が少なく、そもそも町もなく。紛れ込んだとしてもモンスターだけであり、二人に切り刻まれる憐れなモンスターが山になるだけの場所だ。
彼ら四人はある目的の為に、セントラまでラグナロクに乗ってわざわざ出張してきた。
「これやり直しは嫌や~~~~!!!」
その出張理由は、現在まったく果たせていない現状に、セルフィは頭を抱えていた。
たんまりと買い込んで積み込んだ食料の内、間食用(ゼルの自費)ドーナッツに再び手を伸ばして、ゼルは嘆くセルフィを横目に〝映像〟で喜々として暴れる二人を見る。
最近は二人ともが指揮官室で書類ばかり捌いてたので、暴れられるのが楽しいのだろう。
なぜか斬撃飛ばし勝負になっている現状に首を傾げつつ、ドーナッツをもぐもぐと食べていたゼルは、はたと気づいた。
「……これ、もしかして、使えねぇ?」
「使えるわけないやんか!!!!」
ようやく気づいてくれた隣の仲間のドーナッツ袋からドーナッツを毟り取り、セルフィはヤケ食いを実行した。ああ~!と隣から聞こえたが知らない。
んあっ、とお上品から程遠い大口の頬張りで、もちもち生地の程よく甘いドーナッツが、舌と脳にじんわりと染み渡る。おそらく疲れているのだろう。
「スコールもサイファーも気づいてへんやん!!撮り直しや~~~!」
「……撮り直しするのか?」
「…………それか動画編集で、切り取りまくって、都合つけるとか」
「誰がやるんだよそれ」
「私とゼルに決まってるじゃん」
「だよな~~~~!」
もぎゅもぎゅ、もっぐもっぐ、と二人でドーナッツを食べながら、あーだこーだと意見を交わす。
どうせこの依頼元は、学園長である。
なんとかなるといいなという希望的観測の元、二人は動画編集の段取りの打ち合わせを始めた。
映像の二人が、何とかしてくれるという意識はなかった。
なんといっても彼らは、二人揃うとバラムガーデンで名を馳せる問題児なもので。
ついに被弾して、スコールは舌打ちをした。
剣から衝撃波を生んで飛ばす。要するに斬撃を飛ばしあう勝負に、一敗がついた。相対するサイファーがニヤニヤしているのが気にくわない。次は確実に自分が当てる。
どうせなら日ごろの恨みを込めて股間にでも一撃入ればいい。この前の行為はちょっと苦しかったので、仕返ししたい。
最近、早く展開できるように訓練をしている疑似魔法の使用演算で、自力構築したケアルを自分にかける。G.F.の補助の有難みと便利さが身に染みて、舌打ちした。こんなことを、相手は何年も行ってきたのだ。演算速度で負けている現状が、癪に障る。
もう一度、とライオンハートを構えて、スコールははたと気づいた。
「待て、サイファー」
「……あ?」
次はどこを狙おうかと、戦略を立てていたサイファーは、手の平をこちらに向けてストップを示したスコールに、構えを解く。
「んだよ。せっかく調子出てきてた所だぜ?」
「そうだな。わかってる。好きに暴れられるのは数か月ぶりだもんな。お互いに」
「わかってるじゃねぇか」
「そうだな。わかってるが」
ライオンハートを地面に突き刺して、スコールはさてと腕を組んで考える。
先程までの、サイファーとスコールの攻防戦。
「……俺達、ここに何しに来たんだった?」
「………………」
スコールの問いかけに、サイファーの不機嫌な顔が一気に消える。すとんっと無表情になり、宙に視線をさ迷わせたサイファーは、ここに来るまでの段取りを反芻する。
ことの起こりは単純だった。
スコールとサイファーが、もっとよく言えばガンブレード使いが有名になったせいだ。
有名になるということは話題性が出るという事。話題性があるという事は、武器の知名度が上がるという事だ。
廃れていくと言われたガンブレードは、ここにきて返り咲きを果たしていた。
それは偏に、ガンブレードの使い手が英雄である事と、その英雄と相対する悪役もまたガンブレード使いであったこと。
そして何よりも、未来の魔女が、未来から過去にきた存在が、ガンブレードのことを言及したことだ。
……まだまだ、ガンブレードという武器には、ポテンシャルがある。
魔女大戦以降、ガンブレードという武器に飛びつく者達は増えた。
それはプロもアマチュアも例外ではない。軍事関係者にジャンク屋、武器屋からハンターに至るまで、多種多様な職種の者達が〝ガンブレード〟を見直し始めたのだ。
世はまさに、英雄バブル。もとい未来知識バブル。
バラムガーデンも例外ではない。
それは別に、バラムガーデンが推奨しているというわけではなく、スコールとサイファーが有名になったせいだ。
ひいては彼ら二人という、ガンブレード使いを育成したバラムガーデンの、ガンブレード使いの為の授業に注目が集まったせいだ。
とは言えども、当時存在したマスター派教師は、バラムガーデンより立ち去った。
資料はあれど指導者はいない。現状の人員で、適切に指導できるかも怪しい。
ならば、今の使い手に教えてもらえばいい。
幸いにして使い手は世の中の流れを生んだ、元凶のガンブレード二人である。どっちかが生徒もしくは後輩にガンブレードを教える……という段階で躓いた。
スコールは、スタンダードな両手使いだが、多忙・人見知り・教えるのが下手。
サイファーは、そもそも両手使い推奨のガンブレードを片手で使い、実践戦技にまで独学で辿り着いたキチガイ。
初心者ガンブレード使いに、二人を前に出すのは無理だと、秒で却下が下りた。
では、どうするか。
実践資料を作ろう。
そして資料作りの為に、実技・実戦担当のスコールとサイファー、そして操縦・編集担当のセルフィとゼル。合計四人の無謀な挑戦者たちは、わざわざセントラのポッカラヒレリア島まで、人気の少ない広大な大地を求めて、ラグナロクを飛ばしてきたのだ。
全てはガンブレード使い同士の、映像を撮影する為に。
スコールとサイファーは、ガンブレード初心者の教育材料に成る動画を作るために、要するに教材として配信する動画配信素材を作りに来たのだ。
ここまで思い出してから、二人はお互いの顔を見る。
そしてお互いに思い出す。先程までの、自分達の攻防戦。
「……初心者って、斬撃飛ばせるのか?」
「…………飛ばせたら、そりゃ初心者じゃねぇよ」
後日、出来上がった〝ガンブレード初心者用〟動画配信用を見て、学園長は微笑みと共に却下を下した。
どうあがいても初心者に意味不明すぎる物だったので、SeeD限定の動画配信用教材として使われたという。
没にならなかった事に、セルフィとゼルは密かに打ち上げをしたとかしなかったとか。

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