❖ サイスコ版ワンドロLOG - 6/6

 

❖ 第323回「エプロン」

 

料理をするときに、面倒なので基本的にエプロンはしない。
ただ例外があるとすれば、菓子を作る時と、汚れそうな料理を作る時だ。

買ってきた材料を、どかどかとキッチンカウンターに置いていく。
ひき肉に玉葱、卵にチーズ。付け合わせのレタスとトマト。
電子レンジに冷凍ご飯を入れて、解凍スイッチを押す。
腕を回し、首を横に倒す。グキリと音を鳴らし、指をぐっぐっと動かして準備運動。
「ふぅー……、やるか」
鍋に湯を沸かす。
沸騰したら、鍋の火を止め、そっと卵を投下する。
後は、ゆで卵になるまで放置。
次に包丁とまな板を取り出して、包丁をチェック。見た目、切れ味に変わりなし。
玉葱を皮を剥いで、ざくざくと包丁でみじん切りにする。
山となったみじん切りの玉葱を、油を引いたフライパンに投下。
弱めの中火にかけて、しっかりと火を通す。焦げないようにヘラで混ぜ、全体的にしっかり茶色になるまで混ぜていく。
しっかり茶色一色に染まった玉ねぎを、耐熱ボールに移す。粗熱が取れるまで放置。
その間に、ひき肉を別のボールに投下。
あとは粘りが出るまで、ひたすらにひき肉を捏ねる。
程よく粘りが出たら、塩胡椒を入れ、粗熱を取った玉葱をひき肉に混ぜる。タネに卵はいれないので、一体化するまでがっつりと混ぜ合わせる。
タネをそのままに、一度手を洗う。
時計を見て、経過時間を確認。放置していた鍋から、卵を取り出す。水で冷やして、殻を剥く。
出来上がったゆで卵と、買ってきたチーズを袋から取り出しておく。
ハンバーグのタネを、目分量で分ける。
ゆで卵を中に入れた物、チーズを中に入れた物、何も入れないシンプルな物を作る。
成形できたら、再び手を洗う。
フライパンを手に取り、コンロへ置く。
ずらっと並べたハンバーグ各種を見て、思う。
「無理だな」
一度に焼くことを諦めて、まずはシンプルなハンバーグを焼く。これはどうせ今日は食べないので、軽く焼いて皿の上に。余熱を取っておく。
次に焼くのは、ゆで卵入りハンバーグ。ころころとフライパンの中で転がして、全体を満遍なく焼く。
最後に、チーズ入りのハンバーグを焼く。じゅうじゅうと何度目かの肉の焼ける音と、油のにおい。
漕げないようにフライパンに注いでいた視線が、ふいに横を向く。
「……美味しそう」
無駄に気配を絶って、自室から歩いてきたらしい。
ハンバーグを焼いていたサイファーは、ふらりと自分の後ろから顔の覗かせたスコールに、溜息をついた。
「お前が言ったんだろうが」
「そうだったか?」
「そうだよ」
「そうか」
ふふ、と笑いながらスコールがサイファーに抱き着いてくる。
ぐるりと腰の辺りから腕を前に回して、すんすんと背中に顔を擦り付けて匂いを嗅がれる。美味しそうだ、と面白そうに笑う姿に、サイファーは毒気が抜かれる。
「これ」
「それは明日だ」
「ふーん」
冷凍袋に入れられたシンプルなハンバーグを指さして、くふくふと笑うスコール。その穏やかな姿に、落ち着いたら言おうと思っていた文句も萎む。
「はぁ」
ぎゅぅぎゅぅと背中から抱きしめられて、サイファーは焦げないように、チーズ入りハンバーグをひっくり返した。

寝不足で隈の浮きかけた半眼の目。ただでさえ表情が少ないのに、完璧に冷徹な表情筋が進んだ青白い顔。
画面を見すぎたのか、充血した目もあり怖い。そして全身から吹き荒れる、不機嫌オーラも怖い。
全身で名が示す通りの嵐を背負ったスコール指揮官様を見て、指揮官室から回れ右をした奴らが多いこと。
「サイファー、肉」
「あ゛?」
「肉」
負けずを劣らず、サイファーも不機嫌だった。
びきびきと青筋の浮かんだ顔。
ただでさえ老け顔と言われるような、いい意味で大人びた、悪く言えば悪人面を凶悪に歪ませて、イライラとキーボードを叩き続けている。
任務達成・完了の報告をしたところ、金銭に難癖つけ始めた先方依頼者に「てめぇふざけてんじゃねぇぞオラ(エリートのごときオブラート包みVer)」で言葉と資料を剛速球で打ち返した所である。
なお、三度目のやり取りである。
これで再び打ち返して来たら、直接対決も辞さない。不良がメンツを気にするような凶悪な面のまま、スコールに振り返ったサイファーは、耳に届いた言葉を反芻する。
肉。
スコールは肉をご所望だ。
……で?
くいっと顎で続きを促したサイファーに、スコールは口を開いた。
「ハンバーグ」
一言だけ届いた言葉に、指揮官室の中の空気が止まる。
ちなみに部屋の片隅にセルフィとゼルもいる。二人は顔をそろそろと見合わせて、セルフィはサイファーを、ゼルはスコールを指さして、お互いに首を振る。
二人ともわかっている。
最近のバラムガーデン指揮官室は多忙を極めている。それは任務が多いとか、ガーデン内部の組織改革とか、教員不足とか、そういう慢性的な問題ではない。

――――第三者によるハッキングと、攻防戦によるシステムダウン。

二週間前に突如として巻き起こった嵐は、ガーデン中を吹き荒れた。
深夜にも関わらず、緊急収集された情報系に強いメンバー。
ネットワーク構築、電脳戦に強いSeeD及びSeeD候補生(バイト扱い)。
ネットワークを介しての依頼受注の停止処置。
電話回線さえ駆使した戦いのせいで、電話回線が壊滅。
スコールはもとより、指揮官室の面々も緊急集合。
任務で不在の者達を除いて、動ける人間で無理やり組んだ24時間シフト勤務。
バラムガーデンのシステムに攻撃をしてきた第三者が、巷ではやりの電脳系愉快犯だったこともあり、発狂するSeeDが多数。捕まえる事を目的に暗躍し始める闇落ちSeeD数人。
そんなSeeDたちを支える候補生たち。
いつの間にかリーダー格に昇格し、指示を飛ばし始めるセルフィ情報リーダー
外部と連絡を可能とした仮ネットワークを構築し、それに成功した勇者ゼル。
昔の古巣()に連絡を取り、愉快犯の裏歴史をすっぱ抜いた風紀ヤンキー番長サイファー。
エレベーターシステムもダウンした中、機材搬入・運搬を自慢の筋肉で解決したマッスル雷神。
四大戦士を従えて、バラムガーデンに喧嘩を売ってきた相手を迎え撃つ王様スコール。
深夜テンションと睡魔で狂い始めた対策本部をノックして、夜食を届けに来てくれたシド学園長だけが唯一の理性だった。
そんな吹き荒れる嵐が穏やかになり、怒涛の如く届き始めた任務を捌き、報告の遅れた事に詫びを入れる案件があったり、クレーマーの対応があったりと折り重なる怒涛のイベント。
それらも捌かれて、ちょっとだけ一息入れられそう……という時に、この事件である。
他の面々を気にして、実は休めていないスコール。
スコールに付き合う形で、巻き添えで勤務しているサイファー。
寝不足を極めている二人が、顔を見合わせる。ごくり、とセルフィとゼルは唾を飲み込んだ。今、この場所で、二人が大暴れしたら止められる気がしない。
しかし、それは杞憂だった。
サイファーが不機嫌そうに鼻をならす。
「わかった」
……何が!?
ゼルとセルフィを置き去りに、二人の会話は終了。
そのまま、何事もなく仕事が終わり、彼ら二人が部屋に帰ってからも、二人は指揮官室でもやもやを抱えたまま仕事をすることになる。

そして現在。
あれから、スコールとサイファーは指揮官室から帰ってきて、同じ寝台でぐっすり寝た。
二週間ぶりの休日。
しかもなんかひと段落した後。
精神の余裕と安堵感が、半端なく心地よい。
ということで、そういった行為をすることもなく、お互いに引っ付いてぐーぐーと寝続けていた。
疲労度がピークになると、彼らは何故か一つの寝台で寝る習性がある。
仲間内でも知られていない、二人が同室になってから発生した習性である。
そして疲労をたっぷり睡眠で溶かして、朝方にむくりと起き上がったのがサイファーだ。
彼は横でまだぐーぐー寝ているスコールの頭を撫でてから、くわっと欠伸をして寝台から降りる。
そして、手早く着替えて買い物に出かけた。
目標はそう、スコールが食いたいといったハンバーグを作るために。

なお、昨晩スコールが言った言葉は、「サイファー」「肉」「ハンバーグ」である。

中に卵を入れて欲しいとか、チーズ入りが食べたいとか、一言もスコールは告げていない。
そもそも、明日食べたいとも告げていない。
それでもサイファーにはわかるし、わかる事をスコールも知っている。
この二人やっぱりおかしいと言われる、仲間が知っている習性の中の一つであった。

「ほら、できたぞ」
焼き上がった二種のハンバーグを皿に盛り、レタスとトマトを横に。
電子レンジから取り出した冷凍ご飯を、別の皿に添えて完成。
「ふふ」
「お前、まだ寝ぼけてるな?」
「んー」
スコールは嬉しそうに、サイファーのエプロンの結び目を、指でつーっと引っ張った。
しゅるりと結び目が解けて、鍛えられたサイファーの肉体と腰のくびれを強調していた、シンプルなエプロンが剥がれ落ちる。
そしてそのまま、頬に口を寄せて、口づける。
「おい」
「たべる」
突然の口づけに驚いて目を丸くするサイファーを置き去りに、スコールはくふくふ笑って去っていく。
抜き取ったエプロンを抱えたまま、スコールはふらりとダイニングテーブルに向っていく。
寝ぼけている事を知らせる様に、その足はふらふらと気が抜けたもので、気配を遮断して歩いていたのは何だったのか考えさせられる。
「……そんなんだから、お前は野生動物って言われるんだぞ」
自室の中、サイファーが近くにいる時にだけ、なぜか寝起きが悪いスコール。
そんなスコールが寝ぼけて奇行に走る様を見れるのは、彼の縄張りに入る事が出来た、一部の人間の特典であった。
奇行に巻き込まれるサイファーには、たまったものではないけれど。

自分が贈ったエプロンをして、料理をする姿を始めてみたスコールは、ご機嫌な顔でゆるゆると微笑んだ。
……やっぱり似合ってる。俺の男、かっこいい。
うっとりと惚けたままの顔で、昨晩入れそこなったモノを名残惜しく思いつつ腹を擦って、それでも朝からいいモノを見たと、スコールは気分がルンルンであった。

――――ハンバーグを食べている最中に、正気に返って頭を打ち付けるまで、あと数分。

なお蛇足だが、シンプルなハンバーグは次の日にサンドイッチの具材となり、指揮官室でゼルとセルフィに指を差されて絶叫される羽目になる。

 

 



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