❖ サイスコ版ワンドロLOG - 4/6

 

❖ 第076回「離さない」

 

【!】モブキャラ会話あり。モブ→サイ表現あり。
【!】攻めの女装。襲い受け風味。

※サイスコ版ワンドロ:第325回「シャッフル」の続き

 

地毛と同じ色の長髪ウィッグ。ずらりと並んだ化粧品。
ティンバーで遊んでいた頃に、ノリと付き合いで遊ばれた時の事が、仕事で役に立つ事になろうとはサイファーも思わなかった。
唇に紅を塗る。鮮やか過ぎない色が、くだらない程にサイファーの肌色にあっていて、この仕事を持ってきた奴を殺してやろうかという殺意が、少しだけ軽減される。
本当に少しだけだ。
いつかあの狸に目にモノ見せてくれる。
出来上がりをざっと見る。
鏡の前に座る自分の、変わり様が凄く嫌だった。
化粧をしていようが、ウィッグをしていようが、骨格から体格から何もかもが〝男〟。
「うん、美しい」
鏡の向こうで頷いている依頼人に腹が立つが、理由が理由なだけに何も言えなくなる。
「馬鹿じゃねぇのか」
男らしく太い首筋を隠し、それでいてスラリと美しい肉付きを主張する、ホルターネック。
それに伴いデザインとして背中が大きく開き、美しく鍛えられた背筋を曝け出す、バックレスタイプ。
極めつけは、全体的に身体のラインがはっきりと浮かぶ、スレンダーライン。
要するに露出が強い、鍛えられた肌を魅せる事を重視した、デザインドレス(男性用)。
「いやぁ~、どうしても駄目かな?って打診し続けた甲斐があったなぁ~。こんなに美しい男が来てくれたし、何より顔見知りだし」
「……俺も予想外だぜ。お前、いつ起業したよ?」
「残念。三代目だ」
「はぁ~」
化粧とウィッグを汚さないように、サイファーは頭を抱える。
依頼人がティンバーで遊んでいた頃の知り合いだと知っていれば、全力で依頼を回避したものを。
それもこれも、スコールと少し前に行った、モンスター殲滅依頼の討伐数勝負で負けたせいだ。
制限時間切れでなければ、俺が勝っていたのにと、今でも腹が立つ。
あの時、スコールの構える依頼書から、〝女装して護衛任務(大規模パーティー内)〟を引いた自分が憎らしい。
「男性化粧品とパーティー衣装の宣伝に、SeeD使うか普通?しかも女装で」
「お金を釣り上げたらいける!っていう噂があってね。本当だったから吃驚だよ。あははは!」
「…………」
かつてのマスター派の余波がまだあるらしい。
まだまだ変な依頼がきそうだと、サイファーは溜息をついた。
「でも、真面目な話でさ。性別を気にして好きなお洒落ができないって、嫌だなって思うんだ。やり方によっては、色んな形で楽しめるって宣伝したかった。僕の所なら、色んな体格の人や肌の人に、様々なバリエーションを用意できるからね!」
「それで傭兵を使うんじゃねぇよ」
「あはははは!!我が社に綺麗な男がいないから仕方ないね!綺麗な女性は沢山いるんだけど!」
舌打ちをして、サイファーは立ち上がる。
前々からこうだった。この男、なんだか調子が狂う。
「仕事に戻ります」
友人としてではなく、傭兵としての口調に戻して、サイファーは部屋を出ようとした。
しかし、それを妨げるように依頼人の手が伸びる。思わず顔を向ければ、依頼人がウィッグに触っていた。ゆるくウェーブのかかった偽物の髪を、さらりと撫でていく。
「君のパートナー、すごく主張してくるね。ちょっと期待してたから、残念だ」
「…………あ?」
「君に不評だったけど、そのドレスの色は指定されたんだよ。デザイナーが頭を抱えたけど、綺麗で落ち着いた〝灰交じりの青色〟と〝純白〟の、美しいデザインになっただろう?」
ウィッグから手を放して、依頼人が背中をとんとんと叩く。そうして手をひらひらと振りながら、笑顔を浮かべている。
それはとても晴れ晴れとした表情で、サイファーは少しだけ困った。
「君の黒猫は、かわいいねぇ。サイファー」
「…………最悪の猫の王様だよ。あれは」

依頼人と打ち合わせを終えたサイファーは、宛がわれたパーティー会場の控室に戻ってきた。
様々な機材に囲まれて、サポート要員の一人であるスコールがこちらを見る。
「おかえり」
「ああ」
ヒールのついた靴を脱ぎ捨てて、皺になるという考えも頭の片隅に捨てて、サイファーはソファーにどっかりと座り込んだ。
本番はまだだというのに、なんだか気疲れしてしまった。
依頼人と出会ったのはティンバーの夜の街であったけれど、あんな男だっただろうか。
「サイファー、誰のこと考えている?」
ふいに、横から手が出てきた。
その手はそっと指で、サイファーの顎をくいっと横に向ける。
サイファーの身に纏う、冗談みたいなドレスを彩る色そっくりの、灰交じりの青眼が不機嫌そうに見つめてくる。
口を開く前に、スコールから口付けが振ってきた。
ぬるりと性急に舌が入ってきて驚いたが、その誘いに乗ってやる。ぬるぬると軽く舌を絡めて遊び、混ざり合った唾液を飲みかわす。
自然とサイファーの腕はスコールの頭の後ろに回り、スコールはサイファーの膝の上に乗り上げていた。
スコールの尻の下敷きになったドレスが、皺に成りそうな予感は、二人ともが蹴り飛ばす。
「……ん、ふぁ」
「ん」
最初に根を上げたのはスコールだった。
苦しくなった呼吸をぜぇぜぇと荒げて、肺いっぱいに酸素を吸う。サイファーはそんなスコールの反り返った首筋を、唾液に塗れた舌でぞろりと嘗め上げた。
「んん」
ぶるりと身体を震わせるスコールに、この格好じゃなければ食ってるのにな、とつくづくサイファーは残念な気分になる。それはそれとして、感じているスコールの反応は楽しい。もう少し見ていたい。
「ん!」
「っ、おい!」
楽しんでいるサイファーに気づいたらしい。ムカッと目でよくわかる苛立ちを露にしたスコールが、大きくグワッと口を開けてサイファーに噛みついた。
しっかりと痛みが走るほど、むき出しの左肩に強く噛みついて歯型を残し、スコールは満足そうに笑う。
一方で、サイファーは顔をしかめた。これから本番だというのに、こんなむき出しの左肩に歯型がある女装の大男なんて、どんな話題性の塊だ。依頼元がファッション系の企業でも、限度がある。
「あんた、ずるいから」
「はぁ?」
「なんで男にしか見えない女装なのに、そんなに男として綺麗なままなんだ?ドレスデザインのせいか?ずるくないか?似合わないって笑う予定だった俺の計画を返せ」
「意味わかんねぇよ。馬鹿野郎」
「だから、あんたはずるいんだ」
ずるい、と言い続けて、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるスコールに、サイファーはどうするかと天井を仰ぎ見た。
このドレス、素材が頑丈と言っても限度がある。黒猫に抱きしめられた素材が、無事に美しいドレスのまま本番に行ける事を祈る。

天井を仰ぎ見て止まったサイファーに、俺の気持ちもしらないで、とスコールは腹が立ってきた。
依頼人を見た時から、その男がサイファーに微笑みかけた時から、ピンっと悟っていた。
古い知り合いだろうと何だろうが、これは俺の男なのだ。誰かに渡すつもりなんて更々ない。俺のだと、存分に主張するために、昨晩も頑張ったのだ。
なのに、それをあざ笑うような所業。
自分でも色に口出ししたりしたが、サイファーに惚れている男なだけはある。
〝美しい男である〟という事を、存分に見せびらかしながら、女装なのに変じゃなくて、〝女装なのにかっこいいドレス〟に仕立ててきた。
しかもサイファーが着こなせる形状で、纏め上げて!
……腹が立つ!
「サイファー」
「なんだよ」
「今夜は、俺の〝中〟から離さないからな?」
「――――え」
「無事に任務を終えて、さっさと帰ろう」

育て方を間違えたかもしれない。
こいつを育てた覚えがないが、きっとそうだろう。ぎらぎらと嫉妬に燃える瞳を見てしまい、サイファーは顔を背けた。何が導火線だったのか分からないが、今のスコールを刺激するのは悪手だ。
……勘弁してくれ。
これから見世物に成りに行くサイファーは、それとは別に考える事が出来てしまい、頭を抱える。
どうやって今夜、これから逃れようか。美味しい展開のはずなのだが、今のこれに触りたくない。
この勢いならヘタをすれば、女装のまま寝台に引き摺られそうだ。報酬の一部に入っているが、この格好でそれはちょっと……いや、だいぶ俺のメンタルがクる。
コイツ、どうしてこんなに燃えているのだろうか。

溜息をついたサイファーの背中に腕を廻して、スコールはうっとりと微笑んだ。
するりとむき出しの背中を撫でれば、微かな引っ掛かりがある。
……俺のものだからな。
前夜に自分が刻んだ〝所有の痕〟がある事を確認して、ふふっとスコールは愛しい男の上で笑った。
幼い頃に憧れた男は、生きるも死ぬも、全部が俺の自由にできる。
それを認めさせたから、隣に引きずり込んで、今がある。
だから例え嫌がられても、――――絶対に、一生、二度と離さない。

ちなみに、サイファー・アルマシーが、女装・左肩に歯型・背中に爪痕という三種の神器を搭載した事実を悟ったのは、パーティーが開始されてから。
そして自分への注目度により、護衛任務が超高難易度になったことを悟ったのは、話題の的にされた時であった。
……あの野郎!!
煌びやかな世界の中で、広告塔という道化になりながら、サイファーは怒号を飲み込み、表面上はとても美しく微笑んで対応した。
そんなサイファーを影からサポートしながら、スコールは満足そうに笑っていた。

 

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