❖ 第325回「シャッフル」
先の魔女大戦から、バラムガーデンの3階は大改装されて、学園長室の隣に指揮官室が出来上がった。
指揮官室の長は、当然の如くSeeD指揮官に任命されてスコール・レオンハートだ。
そして彼は負けず嫌いであり、人見知りであり、ネガティブ気質である。しかし、強かである彼は、ありとあらゆる手段でサイファー・アルマシーを回収し、自分の補佐役として引っ張りこんだ。
問題児と問題児が組み合わさって、惨劇でも始まるかと思えば、そうでもない。
お互いの本質を理解しているであろう二人は、幼稚な面もあるが仕事ができる成績優秀な問題児。なので、問題児だか仕事ぶりは素晴らしかった。
命令違反常習犯だったサイファーが、スコールの言う事には、一応従うようになった事も大きい。
だが訓練施設で二人で大暴れしたり、バラムの港町で強盗を一発で仕留めたり、そのままお互いの喧嘩を継続して強盗を放置したり、モンスター退治任務でお互いの討伐数を競う序でに地形を変形させたりする、……武力系の優秀な問題児である。
悪く言えば、バラムが誇るようで誇れない、脳筋疑似兄弟。
そんな二人がひっそりお付き合いしているというのは、最初に天変地異の前触れかと、先の魔女大戦で判明した幼馴染たちは思ったものである。
苦節十年どころか苦節一年程度だが、スコールは激動の人生転換期を迎えていたし。
サイファーに至っては、理由は横に置きまくって、結論から言えば世界中に喧嘩を売ってるような有様の苦節一年の人生〝逆〟黎明期を迎えていた。
とりあえず、苦節と言えば苦節の年である。
一番の苦節はバラムガーデンだと言ってはならない。
さて、今でも当事者たちは、しみじみ思い出せる一件がある。それがバラムガーデンのSeeD総出でサイファーを捕獲した時の案件だ。
その捕獲時に大暴れ最高潮、多くのSeeDの屍(死んでない)の転がる中で、スコールVSサイファーの単騎一騎打ち。
戦場把握の為の小型生放送装置(by開発及び依頼元エスタ)の試運転を兼ねていた、バラムガーデンの一室。そこで〝二人だけの戦争〟を見ていた者達など、青い顔をしていた物である。
いわく、「あれサイファー強くなってない?」
逆だ。サイファーが、魔女の騎士にされた時に弱くなったのだ。
そりゃ頭ふんわり夢見心地(?)で戦闘意欲の獣性が強すぎる男が、本領発揮できるわけねぇだろ、ふざけるな案件である。
捕獲後に、スコール(無自覚サイファー過激派)が言っていた。
兎に角、連戦に次ぐ連戦でサイファーを削り切って、意気揚々とサイファーを捕獲して引き摺ってきたのがスコールである。
その後に、あらゆる手腕でもって嬉しそうに補佐役にしてしまった。
SeeDに正式に任命されておらず、それどころか本人がSeeD試験を拒否している。それなのに、スコール監修の元で、SeeDの正規任務にまで〝特別扱い〟で引っ張られるそのサイファーの姿は、すっかり下僕……いや何でもない。
そんな下僕もとい補佐役サイファー・アルマシーが、指揮官室に馴染んだ頃に、それは起こった。
最初に気づいたのは、キスティスだ。
SeeDへの依頼書や任務報告書から、SeeD候補生の実技試験場の選定から、あらゆる書類が山となった机の上。
スコールが任務で不在の中、もくもくと書類を捌くサイファーを横目に、キスティスも手伝いとして山を崩しながら各種に連絡を取っていた。通信端末を追いて、一息ついたキスティスは珈琲を一口啜る。
やけに静かだと思いながら、ちらりと横目に見た時に、それは起こった。
サイファーが、書類の山の中、なぜか隔離している書類の束を手に取って、四つに分け始めた。
そして、それを再び一つの山にする。……これを、分ける束を平均化することなく、大なり小なり歪な小分けをしながら、三回繰り返した。
「…………?」
何をしているのかと見守る中、サイファーは混ぜた書類を掴み、もう一つの手で紙の端を親指でバララと高速で送り、さらに四つに分けて、また元に戻す。
それはさながら、書類でトランプのシャッフルをしているようだった。
「……貴方、何をしてるの?」
思わず声をかけたキスティスに、サイファーをちらりと視線を向ける。そのつまらなさそうな顔が、彼が暇つぶしをしているようにも見えた。
「別に」
答える気はないらしい。ある程度それを繰り返して、サイファーは紙束を元の位置に戻す。その時に、一番上の書類だけぺらりとめくり、机の中の引き出しにしまい込んだ。
ある意味、サイファーの奇行ともいうべき行動を、キスティスはあえて無視した。
サイファーが何を考えているのか分からないが、おそらくスコールが何とかするでしょう。……という、一種の押し付けを思い浮かべながら、キスティスは自分の仕事に戻った。
次にその異様すぎる〝書類シャッフル〟を目撃したのは、指揮官室に任務報告書を届けに来たセルティだ。
指揮官室の自分の机の上で、バラバラと書類を高速捲りをしつつ、分割し、また元に戻す。トランプのシャッフルを書類で行っている異様な光景は、ある意味で怖い。
その机の上にあるのは、バラムガーデンへの依頼書であるはずなのだ。遊んでいいものではない。
「サイファー、何してるの?」
「あー?」
任務報告書をぺいっと完了ボックスに突っ込み、セルティは興味を惹かれてサイファーに近づく。
セルティがサイファーの手元を覗きこむ前に、サイファーは書類の束を机の上に戻して、一番上のページをぺらりと捲り、机の中に入れる。
セルフィがシャッフルされた書類に興味を惹かれて、手をそっと伸ばす。
「……見るなら見ていいが、見たらやれよ、それ」
「…………え?」
別の書類を手元に引き寄せて、ガリガリとペンで書きこみながら、サイファーは不機嫌そうに言う。その言葉に、セルフィは書類から手を引っこ抜いた。
見たらやれよ、という言葉の意味。つまりこの隔離されたシャッフル書類は、やはり何らかの任務なのだ。
舌打ちしながら書類を捌くサイファーが、とても不機嫌になっていくのがよく見えて、セルフィはえへへ…と愛想笑いをしながらそそくさと指揮官室を撤退する。
彼があまりの紙束の山に、ペーパーレスを叫んで学園長とバトルしたのは新しい。
しかし電波障害が解消されたと言っても、世の中はまさに今が電波革命期。まだまだ電子端末だけのやり取りは、特にお年寄りの方々には、どうにもこうにも電子端末は手が重くなる。
そして学園長は色んな人々にSeeDを利用してもらいたい、世のため人の為の傭兵(?)を目指したいお人よしだ。マスター派に嫌われる金にならない任務も、困っているならどうにかしたいと思ってしまう人である。
ということで、高年齢層にも強い味方、紙の束はまだまだ現役である。
そしてサイファー・アルマシーは、オートマチック式ガンブレードを選ぶ事からも、地味に効率化が好きである。つまりそういうことだ。
「ふぃ~~、あぶないあぶない」
不機嫌な補佐役の怨念オーラを浴びながら撤退したセルフィは、エレベーターの中で冷や汗をぬぐう。戦場でもないのに、あのぴりぴりした空気は流石のサイファーであると、感心してしまう。
「でも、気になるなぁ~~?」
あの書類シャッフル、中身は何だろう?
その次も、その次も、スコールが任務で戻ってくるまでの間。
サイファーの〝書類シャッフル〟の目撃者は、続々と増えていた。ある時は指揮官に用があった一般SeeDが、幼馴染の誰かが、教師が、学園長が、目撃する。
様々な場面で、彼は書類をシャッフルしては、一番上のページを捲り、机の中にしまい込む。
そのしまい込んだページが、十枚に届くころ、待望の指揮官が戻ってきた。
「サイファー、戻ったぞ」
いの一番に、サイファーにそう言いながら、ガンブレードケースを手にずかずかとスコールが指揮官室に入ってくる。自分の執務机にガンブレードケースを追いて、すぐさまサイファーの机の方に向かっていく。
「どうだ、サイファー」
そして、サイファーの前で仁王立ちした。
無表情の中に、どこか自慢げな表情を隠そうともしない。その堂々たる仁王立ちに、地味に指揮官室で報告書を作成していたゼルとアーヴァインは呆気にとられていた。
お帰りという暇も、お疲れをいう暇もない。
彼ら二人がいる事を理解しているのに、スコールは堂々とサイファーを目指し、サイファーだけを見ている。
スコールの上から下を見て、スコールの右腕をサイファーは掴む。それにスコールは逆らわない。むしろもっと見ろと、ぐいぐい座っているサイファーに近づいていく。
恋人同士の戯れを指揮官室でやるとは、スコールも変わったなと傍観者二名が関心する中、サイファーが舌打ちした。
そこに恋人の無事を祝う、男はいない。
……あれ?空気変わったな??
思わず沈黙を選択した、ゼルとアーヴァインの視線が交わる。
「チッ、あの大規模討伐任務で無傷かよ」
「運がよかっただけだ。大物が4連続が出た時は、流石に覚悟したがな」
今回のスコールの任務地は、エスタだった。
〝月の涙〟の影響で狂暴化したモンスターが多発した一部地域の、モンスターの間引き任務。新人SeeDとベテランSeeDを引きつれて、存分にモンスターハントを楽しんだらしい。
きらきらと暴れまくって満足した目を、隠そうともしない。
「じゃあ、サイファー。見せろよ」
「…………」
むすっとした不機嫌を隠そうともしないサイファーが、机の中からスコールに書類を渡す。
それに、ゼルとアーヴァインは思い至った。ここ最近のサイファーの奇行とも言うべき、〝書類シャッフル〟の真実がここでわかるのだ。
十枚ほどの書類に、スコールがざっと目を通す。そしてその後に、スコールは顔をしかめた。
「……あんたこれ、真面に見てないよな?」
「んな面倒な事するかよ」
「じゃああんた、これどうやって選んだんだ」
「適当」
ふんっと顔を背けて、不機嫌なサイファーがスコールから顔を逸らす。
スコールは、自分たちを伺う視線の先、ゼルとアーヴァインに視線を向けた。二人は彼の視線の意味に頷いて、近くにあった書類の山を一部引っこ抜いて、紙の束を分割して元に戻し、バララと高速で捲って一番上の一枚を捲って、机の上に置く。
一連の行動を見て、スコールはさらに頭を抱えた。
「…………あんた、選び方なんとかしろ」
「別にどれを選んでも同じだろ。ふざけた任務ばっかりだ」
「ふざけた任務でも、高額報酬なんだ。問題行動を起こしたSeeDへの、懲罰用任務には利用できる」
「……大怪我をしたお前にやるつもりだったのになぁ?」
「ふざけるな。あんたがやれ」
「やなこった」
ぽんぽんと言い合う二人の間で、スコールが受け取った書類を近くの机の上に巻き散らす。スコールさえも雑な扱いをする依頼書に、興味を惹かれないと言えば嘘になる。
わいわい言い合う二人の恋人を尻目に、そうっと二人は机の上に散らばった依頼書を見て、絶句した。
女装して護衛(大規模パーティー参加)
治験募集(生死保証なしbyオダイン博士)
金持ちによる着飾りマネキン(護衛)
モンスターハントの観戦目的の戦闘要員(演出注意)
恋人役兼護衛(男性限定・相手も男性)
他にも様々な、凄く頭が悪そうな方面の、依頼書の数々。
どれもこれも、一度は断り、二度目も断り、それでもと金をどんどん釣り上げて報酬がとんでもない事になっている、美味しい高額任務である。
その任務の中身にさえ、目を瞑れば。
「どうした?」
依頼書を見て絶句する二人に、スコールは声をかけた。
思わず振り返った二人の視線の先で、いつの間にか、椅子に座っているサイファーに乗り上げて、その膝の上に対面で座っているスコールの姿。
そしてそれを邪魔しない、サイファーの姿。
お前そんなんだからガーデン内で下僕って言われちゃってるんだよ、という一言をゼルが飲み込み、アーヴァインは引きつった顔を隠そうともしない。
ゼルとアーヴァインの視線を受けて、同時に彼らは笑顔を浮かべた。
意地が悪い、悪戯っ子そのものの表情で、対のような色彩の、対のように同じ武器を扱う二人が、同時に口を開く。
「「やるか?それ」」
「「結構です!!」」
優秀な問題児二人組の言葉に、彼らは否定の言葉を必死に叫んだ。
机の上で、運命のシャッフルで選別された任務が、誰かの出撃を待ちわびていた。

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