❖ 第324回「互角」
バラムガーデンにおいて、それを疑問に思う者は基本的にいない。
いたとしたら、それは潜りか侵入者かスパイだ。
先の魔女大戦での激突は置いておいて、一対一で相対した時に、彼らの周囲から颯爽と逃げ出すのが、長年における暗黙の了解だ。
もちろん、その暗黙の了解が限定的なモノであり、彼ら二人と同じ実戦授業を取得している者達にとっては常識だ。興味本位で覗こうとする者がいれば、先輩と同級生がやめろと首を振って、引き摺って出ていくのも恒例行事。
なんといっても、巻き込まれたら、確実に自分たちが死ぬ未来が見えるので。
ガンガンと連続して打ち付け、斬り付ける音。重厚感のある金属同士の激突と、お互いの剣圧と噛みあった結果として散る、微かな火花。
訓練施設内のモンスターも、本能的な危険察知能力を発揮して、息を潜めてやり過ごす。
戦闘時に着用するにしては、目立って仕方がない、白く特徴的なコートが翻る。
コートに刻まれた赤いクロスソードの模様は、まるで手の延長線上に存在する、漆黒のガンブレードを彩る装飾のよう。
相対しているのは、闇夜に紛れそうな黒いジャケット、それにしては首元のファーが目立ち、何よりも下半身を固定するベルトの数が多い。
動きに合わせて、首元でジャラリと揺れるシルバーアクセサリーは、よくよく見ればしっかりと両手で握りしめられた、銀色のガンブレードに刻まれた模様と瓜二つだ。
鏡合わせのような色彩と、鏡合わせのような動きが、地面を踏みしめて周囲を荒らし続ける。
幾度目かの激突。
お互いに何重にも宙に刻む、死線の中を潜り、破壊し、お互いの首を手を足を胴体を斬る事だけが、世界の全てになっていく感覚。
「はっ」
「ふっ」
お互いの顔に、笑みさえ浮かぶ。
存分に戦闘に酔いしれて、お互いだけが必要な時間。
肩書も背景も、生まれも血筋も権力も、次の一撃で生きるか死ぬかも、彼らの中には欠片も残っていない。
最適化された身体が、武器が、戦力が、お互いだけを映し出す。お互いの戦い方は身に染みている。卑怯な手も決闘のような上品な手も、何が次に繰り出されても、何一つ不思議に思わない。
「お前、姑息になったか?」
「あんたこそ、鈍ったか?」
一方は片手で、一方は両手で、鍔迫り合い。ぐっとお互いに迫った距離で、お互いに囁きあう。その間も、二人の顔にはべったりと高揚が張り付いて、お互いしか見えていない。
バラムガーデンは知っている。
第三者が介入しなければ、彼らは互角であることを。
彼ら二人は、本質的に知っている。
一歩間違えば、死ぬような対人戦闘の訓練こそが、お互いにおいて最適なコミュニケーションである事実を。
他の学生が真似しようともできない、暴力と実戦に塗り固められた、戦闘狂いこそが本質だと。
楽しい戦闘がしたい。楽しい実戦がしたい。そこに死ぬかもしれないという前提がある中で、それでも戦いに喜びを見出してしまう。
よく言えばモンスターハンター向き。悪く言えば脳筋一直線。力と力の激突こそ楽しいと思ってしまう、どうしようもない手段に酔いしれる、疼きの本能。
仕切り直し。
鍔迫り合うガンブレードをお互いに振り払い、間合いを開ける。
サイファーはハイペリオンを一回転。グリップを強く握りこむ。
スコールはライオンハートを一瞥。肩から力を抜いて、構え直す。
「サイファー」
うっとりと囁きながら、スコールは次を考える。首にしようか、腕にしようか。
自分が、世間一般でどういう肩書で呼ばれようとも、今は関係がない。他人の評価を気にしてしまう事が多いが、この一時においてはそれは頭から抜け落ちている。
ただ目の前の男を、蹂躙しつくして、楽しい事がしたい。
「なんだよ」
呼ばれたから返答する。サイファーは次を考えてハイペリオンを構え直す。大物狙いで胸にしようか、顔にしようか。
自分がやらかしたツケも所業も、今は関係がない。もとより、他人にどう思われようとも、自分の心と夢の為に貫けるだけ、突き進んでいく事が多い。考えるより身体を動かしたいので、細かいことは頭から抜け落ちている。
ただただ、目の前の男を美味しく味わって、楽しい事がしたい。
「楽しいな」
「そ~かよ」
無駄な言葉はいらない。
退屈な書類仕事で溜まった鬱憤を、スコールは存分にぶつけていく。
自分だけを見つめて、どうやって遊ぼうか考えている、サイファーの無邪気な狂気の目はお気に入りなので。
ギラギラとした、無邪気な戦闘民族と楽しむために、サイファーは迎え撃つ。
寝台の中に引きずり込んだ時、決して自分の下では見れない、縄張り争いを楽しむような獣の目は、サイファーのお気に入りなので。
お互いの視線だけが、お互いの思考を曝け出して、二人だけの世界に浸らせる。
対比のような色彩。
二人を示す象徴物。
お互いの分身でもあるガンブレードを振りぬいて、再びお互いに刃で食らいついた。
バラムガーデンに住む、彼ら自身よりも、対外的な彼らを理解できる仲間達は知っている。
成績優秀な問題児筆頭の二人は、教師に怒られる確率も、実は互角であることを。

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