❖ Drown in Me to! - 9/10

 

「おはよう、サイファー」
「………………おはよう」
カーテンから差し込む朝日が、起床時間を告げる。
幸いにも寝起きはいい。早朝に訓練に行くことだってある。
ただ、昨晩は色々ありすぎて、スコールの部屋で寝てしまったらしい。
こういうイレギュラーな時に、自分の寝起きは悪い。
頭も重い気がする。
昨日、久しぶりに思いっきり脳を酷使したせいかもしれない。
それを、知っているのか。いないのか。
「朝ごはん、出来てるぞ」
「……ああ」
そっと捲られた布団に、頭上から額に振ってくる口づけ。
ご丁寧に、お互いに対になった額の傷に、そっと落とされたそれが、なんとなく安心感を齎した。それが少し、不思議な気分だ。
するりと乱れた髪を梳いて、何でもないように自室から出ていく後ろ姿を見送ってから、起き上がる。
「…………」
布団から抜け出して、身支度を整えて、部屋の扉に手をかける。
「…………」
何かを言おうとして、何も口に出せないまま、口を閉じる。
好きだとか、愛しているとか。
そういう告白は、一切していない。
身体を重ねたことも、多くはない。
あちらがなぜかボトムになっているが、こちらがトップで満足なのか。
そんなことを、自分らしくなく、少しだけ不安になった自覚がある。
扉を開けて、顔を上げる。
朝食の乗った食器を配膳している、スコールがこちらを見て微笑んでいる。
同室になるまで、こいつが朝食をまともに作れるとは、思っていなかった。
昼食と夕飯は俺が担当する事も多いが、何故か朝食はよく作っている。
……俺が、起きれない時は、特に。
朝が、苦手ではなかったはずだ。
それなのに朝起きるのが、苦手になってきた。

「おはよう、サイファー」

考えていたことが、ゆっくりと解けていく。
……まぁ、なるようになるか。
おそらく、俺たちに恋人と呼べる関係が追加されたのだろう。
ただ一言で表現するには、お互いの関係性は複雑すぎる。
そして何よりも、今の生活はなんだかんだと気に入っている。

「おはよう、スコール」

お前が、朝食を律儀に毎日作る男だと、知らなかった。
お前が、恋人になった男に、尽くす男だと知らなかった。
お前が、これほど独占欲の塊だと、気づかなかった。
きっとこれから、生活の中でお互いに気付く。
知らなかったお前を、気づかなかったお前を、色々と知っていく。
きっとお前も、お前の知らない俺を知るのだろう。
「スコール」
近づいて呼びかけると、配膳を終えた男が振り返る。
見れば見る程、女顔のパーツが多いが、きちんと男だと分かる綺麗な顔だ。
そこに付けた傷跡さえ、顔の造形を主張するパーツに成り下がる。
それでも、俺にとっては見慣れた顔だ。
ただ見慣れた、馴染みの男の外装だった。
「サイファー?」
何も言わずに見下ろしているからか、訝し気な顔をした男に、ただ笑った。
いつも視界の端にいて。
いつも頭の片隅にいて。
出会い別れていくあの孤児院で、最初から最後まで、共にいた唯一の同胞。
こんな関係になるとは、思っていなかった。
嫌ではない。
抱きしめる身体に、安心感さえ、最近は感じている。
何があっても、俺が何者になっても、どんなレッテルを貼られても。
きっとこいつは、ただのサイファーとして見続けるのだろう。
俺が、スコールをそう見続けるように。
それが嫌ではないから。
きっと、たぶん。
俺は、

「好きだ」

――――スコールを、愛している。

目を見開いた男の顎を掴んで、ただ口を塞ぐ。
舌を入れる事はしなかった。
歯を磨いていないし、今から朝食を食べるので、そういう行為をする気分ではない。
ただ、そう。
なんとなく、朝起きた時に、言おうと思っただけだ。
本当にただ触れるだけの、俺らしくないガキみたいなキス。
ただそれだけなのに、満足感を感じて離れて、さっさと席に着く。
皿の上には、大きいパンが二つに、目玉焼きにベーコンにソーセージ。
ガラスコップに注がれているのはミルク。
コンソメスープまで付いている。
回数を重ねる事に、なんとなく豪華になっていくなと思う。
おそらく次はサラダが付くなと予想をしながら、視線を上げる。
思ってもいない光景が目に飛び込んできて、驚いた。
「なんだお前、その顔?」
スコールが、ただこちらを見て立っている。
微動だにしないで立ち尽くしていたスコールの顔は、真っ赤だった。
目を見開いて、信じられないモノを見るように、こちらを見下ろす様子に疑問が浮かぶ。
あれだけこちらを誘っておいて、あれだけアピールをし続けて。
今更これだけで、羞恥心が浮かぶ事が疑問だった。
「何してんだお前?」
硬直している男に声をかける。
仕事で朝がバラバラにならない時には、いつも一緒に朝食を食べている。
腹が減ったので、早く食べたいので席について欲しい。
そんな事を思いながら、頬杖をついてスコールを見続ける。
「っ……!」
ようやっと口を開いた男は、
「あっ」
眉を揺り上げて大口を開けた。
「あっ……!」
真っ赤な顔のまま、
「あっ……!!」
口から出力されない多弁な思考回路が、
「あっ……!!!」
思わず口から零れ落ちたように、

 

「あんたのせいだろ!!!!!」

 

やっと口から出力された獅子の咆哮が、早朝の部屋に轟いた。

 

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