❖ Drown in Me to! - 3/10

 

「サイファー、最近お疲れだもんよ?」
「無事?」
「……あー、まぁ?」
なるようになっているなら、ここまで俺は疲弊していない。
バラムの埠頭の片隅。
海の見える、風紀委員時代にも三人で気晴らしに訪れたことのある場所で、弁当を広げて食う。
少しだけ、ぼうっとしてしまったせいか、二人に首を傾げられている。
「最近は色々と多忙だもんよ。もうちょい落ち着きたいもんよ」
「泣言否。気合!」
「でももうちょい、後任にも頑張って欲しいもんよ~」
「同意」
「まぁ、もう俺達には関係ねぇだろ」
「でもヘルプコールくるもんよ~」
「邪魔」
「…………それは否定しねぇ」
卵とハムのサンドを頬張って、疲労から回っていなかった思考を、無理やり回す。
最近は、後任の風紀委員からヘルプを言われることがある。
曰く、風紀委員のお知らせや、防犯上のルール改定をしても、皆が言う事を聞いてくれない。
各クラスにいる、風紀委員傘下の風紀係も、自分たちが提案をすると指摘事項を山のように飛ばしてくる。
同じ風紀委員に属するはずなのに、風紀係の面々も聞いてくれやしない。
それに対して、俺たちが言う事は決まっている。

 

――――当たり前だろうが、と。

 

そもそもガーデンという組織は、私立の兵士養成学校だ。
つまり、生徒は全員が傭兵もしくは兵士の候補生。
命令に従うように教育されているが、さりとて命令で無ければ。言う事を聞く必要はない思春期・反抗期が真っただ中の、無駄に武力と知識と勇気と無謀と反骨精神を持つクソガキ共だ。
そして、個性を大事にという表現は耳障りがいいが、悪く言えばだいたいがマイペースでフリーダム。
それがバラムガーデンの学生だ。
さらに言えば。
風紀委員の掲げる風紀を乱す学生は、悪く言えば小賢しい知恵が効き、場合によってはガーデンの情報も金になるから売る。そんな一般的教育機関からすると、顔面蒼白になるような素行不良が発生する。
……それを素行不良と表現する度胸。嫌いじゃないぜ狸。
まぁいい。話が反れた。
とにかく、そんな捻じれ狂ったクソガキの素行不良を、摘発・拘束・管理するのが〝正しい風紀委員の仕事〟だ。

――――学園内部の風紀の乱れを正すというのは、とても耳障りの言い表現だ。

バラムガーデンの風紀委員とは。
対外的な活動ではなく、真実たるその業務の実態は。
秘匿され続けた風紀委員会の正体とは。

兵士傭兵未満崩れを殴って蹴ってボコボコにして精神的にも思い知らせて場合によっては秘匿連携しているバラム警察機関に一報を入れた挙句に学園長に報告して懲罰室に叩き込んで反省しなければ学園長と教職員の会議の後に退学理由をとても丁寧に記入した書類を保護者もしくは身元引受人に送付した後に退学処理を行う。

――――要するに、バラムガーデン上層部公認の学内警備組織の一つだ。

……と、いう事を。
つらつらと丁寧に、かつ親切に。
この俺様が、
俺様を見下していた雑魚に、
わざわざ、
馬鹿でも分かりやすく、
手間をかけて、
丁寧に、
指揮官室にまで押しかけてきた後任達に、とても優しく教えてやったのに。
引継ぎの時に「我々には不要です」と、自信満々にこちらの言葉をバッサリ遮って、勝ち誇った顔で意気揚々と去って行った四人の後ろ姿なんて、もはやどこにもなく。
風紀委員の〝裏〟業務日誌を読んで、察していたであろう実態を確定する俺の話に、顔面蒼白になっていきながら。
最終的には「自分たちでは無理です」だなんて、泣き言を言うから。
笑って、言ってやっただけだ。

――――自分ならできます、と言い切ったのはお前達だろうと。

ギラギラと反抗的な瞳で、俺を見つめた気概は何処に行ったのか。
今ではすっかり憔悴したように、愕然とした顔でこちらを仰ぎ見る男に、何とも低能な野郎が立候補したものだと、呆れてしまった。
そもそも歴代の風紀委員が、〝俺のような存在〟であったことに、なぜ疑問に思わなかったのか。
どんな性格であれど。
どんな評判であれど。
必ず、武力か策略において一定の成績を収める者達が、選抜された理由を。

――――答えがこれだ。

言いなりの優等生ではなく、〝SeeDは何故と問うなかれ〟というマスター派御用達の思考停止に陥らず、反骨精神を持ち、拘りであれプライドであれ、他者に左右されない我が強い者。
〝不良の領域(アングラ)〟に、足を踏み入れることができる素質ある者。
そして何よりも。
ガーデンに対して、ひいてはそれを率いる学園長に、敵対意識を持たぬ者。
即ち不本意ながら代々、悲しきかな内部派閥のいざこざが多いガーデン内部で、〝学園長派筆頭に座する委員会組織〟である事を、維持できる者。

――――それが、歴代の風紀委員長が後任を選抜した、唯一無二の〝絶対的な素質〟だ。

マスター派が無き後の、バラムガーデン内部。
ガルバディア本国がいざこざしている中での、ガルバディアガーデン内部。
そもそも復興と修復に忙しすぎる、トラビアガーデン内部。
現在の国際事情を顧みても、ガーデン組織内部で戦争している場合ではない。
それに今ならば、ガーデン組織改革の一環として、支持率が跳ね上がっているチートユニット〝伝説のSeeD〟様がいる。
新しい派閥ができてしまったもんだから、どこもかしこも再編成中だろう。

――――頭の足りない馬鹿に風紀委員会を任せても、どうとでもなる。

それが分かっているから、俺はあえて前例を無視する事にした。
噛みつくように〝俺の地位〟を奪った事に、優越感を抱く哀れな相手に与えてやったのだ。
その末路がこれとは、笑いにもならない。
笑いにもならないから、「情報収集を怠ったツケだ。任期満了まで頑張れよ」と、笑って蹴り出してやったのに。

 

――――馬鹿馬鹿しくて、関わりたくもねぇ。

 

無駄な過去を思い返しながら、最後の一欠けらになったサンドイッチを口に放り込む。
「やっぱり、あれがダメだったもんよ~」
「軟弱」
雷神が肉肉しいサンドイッチを美味しく頬張り、野菜たっぷりのサンドイッチを風神がちまちま食べている光景を見ながら、追加に手を伸ばして考える。
……あの後任をたたき出した時に、風神も雷神も笑っていたのにな。
他の奴らが一切笑っていなかったのが、面白かった。
学内委員の実態を知らない奴らが多すぎた事に、むしろこちらは驚きだったんだが。
しかも、それが指揮官室の面々も含んでいるのが、笑ってしまう。

それでも、SeeDを管理・運営して率いる者達かと。
それでも、傭兵や兵士を目指している学生なのかと。

本当に、発想と根本が貧弱で笑ってしまう。
この場所が何かを、根本的に理解していない。
このガーデンという組織が、対外的に〝揺り籠〟とまで称される理由を察していない。
優秀な兵士というのは、優秀な傭兵という存在は。
まず初手で行う事は、さんざん実践やSeeDの任務でこなしてきたはずなのに。
足元が留守になる奴が、多すぎる。

――――自分たちの属する組織を、調べていないというアホ丸出し野郎が多すぎる。

特に今は、指揮官室なんてSeeD運営側にいるんだ。
自分たちの現在組織内の派閥ぐらい、さくっと知っておくべきことだろうに、呆気にとられた顔で俺たちを見る奴らに、呆れてしまった。
その中で、一人。
真顔でこちらを見てくる馴染みの男には、何も言わずに笑ってやったが。
……せめて、キスティスぐらいは知っているべきだった。
教職についていたのだから、マスター派と学園長派の対立。
各生徒間の派閥やら、委員会同士の対立など、調べればわかる場面は沢山あったはずだ。
……いや、それを把握できないから、教員をクビになったのか。
当時SeeDとして優秀ということは、マスター派によって御しやすい、任務イエスマンだった可能性が高い。
自分の組織を自分で調べる、という反抗精神は優等生には難しいか。
……まぁ、スコールの野郎は論外だが。
対人関係恐怖症気味。拗らせたコミュ症。それでも付き合いはいい一面があり、カリスマだけは無駄に溢れていたが、コンプレックス拗らせ気味の男だった。
対人関係どころか派閥の掌握なんて、高難易度の事を即座にできるとは思えない。
だから。
そういう事が苦手だからこそ。
……俺なんかが、補佐官をやらされていると、勝手にこっちは思っていたのに。
なのに、どうしてこうなっているんだが。
予測と憶測が違いすぎて、頭が痛くなってきた。
「サイファー、傍観?」
ずずーっと持ち込んだ珈琲を飲みながら、海を眺めていると、風神が首を傾げて確認を取ってきた。
「そうだな」
あまりにも、後任のアホ共の派閥関係の掌握と情報収集が軟弱すぎて、頭が痛くなってきた。
勝手に俺に情報を流して、報告してくる奴らも厄介だ。
……せっかく縁が切れたと思ってたのに、ちっとも思い通りになりゃしねぇ。
「心配になってきたもんよ~」
フラグにしか聞こえない雷神の言葉に、風神が背中を叩く日常風景を見ながら、溜息をついた。
面倒だという自覚はある。
ただそれでも、やはり自分にとって終わった事であり、何もやる気が起きなかった。

 

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!